著者
星野 久 近藤 孝造 赤尾 泰子 KUMAHARA Rie HAMADA Kumiko 濱田 久美子 山田 知子 水島 かな江
出版者
四国学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

1.研究の目的§本研究の理論仮説,及びその実証課題は次のとおりである。すなわち,家族とは親族の下位組織であり,その第1次的機能は生産・消費を基本とする福祉実現である。この組織は生産力の発達段階と照応して変化する。従って,今日の高度工業化社会では,(組織的経済活動を営む)伝統的家族は(諸個人が経済行為の単位となった)新型家族へと変化したと考えられるがその実像はどのようなものか,俗に「個人化」と総括されるが果たして如何がなものか。これを解明しようというのが,本研究のポイントである。2.研究の方法§ (1)調査地点は札幌,神奈川,京都,広島,及び福岡の生協会員1/1000を抽出した約2000名を対象とした。(有効表は420)(2)分析はSPSSに拠った。(因子分析を中心に帰納法的手法を用いた。)3.研究の成果§ わが国を代表する家族の型として「家族主義的夫婦家族」を抽出した。その特色は,(1)家族と共にいることが最高の幸せで,家族のためには犠牲をも厭わない。家族の中に何一つ隠し事はなく,団結力もある。以上の考えに強く賛成する人は27%,大体賛成は46%,併せて73%がこの型である。(2)以上と高い相関がある「自己実現」因子は67%に達している。(3)年齢層は30〜50歳台に平均して観られる。(4)学歴は関係せず,職業の有無では無職が圧倒的に多い。(5)家族構成及びライフコ一スでは有意差は観られない。(6)ストレスと相関する母子固着型は,両者ともに負の相関である。(7)結婚観における伝統性,補完性は大体肯定的、互酬性は高く肯定的である。いえ因子は否定的。(8)ライフスタイルでは弱い団欒志向と負の家事合理性に相関が観られる。(9)意志決定では,家庭管理及び育児教育は妻に決定権があり,結婚生活の計画・実行は夫妻協同である。(10)夫妻関係では大体において夫信頼型であり,姉さん女房型,新婚気分の持続型と,多少のニューアンスはことなるが,夫や子どもの身の回りの世話を細々とする。(11)性意識ではやや貞女志向であり,精神的愛情を尊重し,フリーセックスはやはり駄目と否定的である。(12)中・高校家庭科では高齢化社会,環境問題等のカリキュラム化が必用だとし,男らしさ・女らしさの躾教育は否定的である。以上が日本型conjugal familyの諸特性である。この他,個人主義型の分析や特に経営形態との分析等,まだかなりの部分が残されており,別の機会に発表することとしたい。
著者
金子 えつこ
出版者
四国学院大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

シニャフスキーも指摘しているプーシキンの言語の「軽さ」の第一要因としては、一文の短縮傾向があげられる。軽快性を保つため、カラムジンら先行の作家と比較しても一文に含む語数が少なく、しかもその傾向は後期により顕著となる。例えば『スペードの女王』では六語以下から成る短文が全体の実に34.7%を占める。また第二要因として、プーシキン散文における動詞の割合が高く総語数の40%であること、さらに完了体の含有率が異常と言ってもよいほど高く、例えば『スペードの女王』では52%にもなることにも注目すべきである。このような動詞中心の短文中に二語ばかりか三語も新情報(レーマ)が含まれる、といった手法により、場面転換、視点転移が迅速になり、叙述に自由闊達な軽快性が加味されると考えられる。さらに韻律性の要因が第三にあげられる。散文でありながら随所に韻律パターンが見られることをボンディが指摘しているが、独特のリズムと押韻を伴うS音等の「軽い」子音の配置、また、ある音韻が至近距離で呼応することで特定の雰囲気をテクストにかもし出す技法が見られる。例えば『スペードの女王』で主人公と賭博勝負をするチェカリンスキーは、物語の終結部分のみに繰り返し名前が登場するが、チェカリンスキーという語感は、発音の類似する単語чек,чеканкаなどにより金属的、金融的と言え、冷たく不安をあおる響きを持つため、主人公の暗い決死の賭博事情を語る時の伴奏のような効果がある。また、彼の登場するテクスト部分にчеловекなどчеで始まる語がちりばめられ、彼の台詞の中にもче,кという音が響く(я не могу метать иначе, какна чистые деньги.)など、音の呼応が場面全体の緊張感や主人公の発狂前の高揚を表現する一助となっている、と言える。
著者
金子 えつこ
出版者
四国学院大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

プーシキン(1799-1837)の文体をロシア語近代語の成立という観点から分析している申請者は、プーシキンの散文におけるガリシズム、すなわちロシア語へのフランス語の影響について研究し、またプーシキンの散文における韻律性についても分析した上で、それらの散文における動詞の割合の高さ、完了体の含有率の高さ、一文の短縮傾向などにより生じる文体の「軽さ」についての理論化を試みてきた。その結果、存在がほぼ自明であるにもかかわらず定義のし難い「軽さ」というプーシキンの文体特性について分析する必要を見出した。そのため、近代文学言語の成立期における言語変化という潮流を視野に入れつつ、具体的な言語現象を同時代人カラムジンの文体と比較照合すことによってこれを精密に解析することを目指した。つまり、「文体特徴」はあくまで比較概念であるため、カラムジンをいわば物差しとして、両者の比較を通じて共通項としてガリシズムが出てくるか来ないかを明確にし、軽快さの根源にある言語特性を析出するということであった。カラムジンは、プーシキンと結果的に方向性は異なったが、プーシキン同様ロシア文章語の改革を目指した。彼の『あわれなリーザ』『ロシア人旅行者の手紙』における動詞〓の機能動詞化は著しく、「軽さ」を伴う独自の用法を持つことが確認された。また機能動詞とともに用いられやすい語彙、すなわち、単語のコロケーションについても分析した結果、西欧からの翻訳借入語や西欧文化の影響下で多用されるようになった思想感情表出に関わる語彙との距離に特徴が指摘された。この用法は統語レベルのガリシズムの一つとしても位置づけられるため、avoirおよびその熟語との相関も検討し、同様に〓の分析においてフランス語のfaireおよびその熟語との相関も検討した。「軽さ」という概念は近代語成立期の研究に関する新しい鍵となることが確認された。