著者
広瀬 慎一
出版者
富山県立大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

富山県高岡市の玄手川(延長3km)は農業用排水路で、効率的な排水処理と、小魚のトミヨや水草のナガエミクリを中心とした生態系の保全の両立を目的として、水路底の80%をコンクリートとする近自然工法で改修された。また、中流部100mには水路底を砂利舗装とした生態系保護区が設けられた。施工前後約10 年間にわたるモニタリングの結果、近自然工法については、湧水は元に戻り、堆砂は適度で、トミヨやナガエミクリなどの生態系は回復した。排水処理のための水草刈りは、やり易くなったとの農家の評価であった。生態系保護区(ワンド)については、植生は近自然工法の本川よりす早く回復し、トミヨは施工前より倍以上の密度となった。また、水路断面の詳細流速分布調査から、水草内領域における流速は、水草外領域の流速の約3割であり、トミヨが長時間遊泳できる流速(巡航速度)が水草内領域で実現されていることがわかった。以上から、近自然工法と生態系保護区(ワンド)を組み合わせたミチゲーション(影響緩和)手法」が排水処理と生態系保全の双方に効果的であることがわかった。
著者
瀧本 裕士
出版者
富山県立大学短期大学部
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

富山県諏訪川用排水地区の洪水調整池は地下水涵養にも資する浸透型に計画されている.しかし,浸透型洪水調整池は全国的にも例が無く,その構造や維持管理手法については未解明である.本研究では浸透メカニズムの定量的な解明を目的として,様々な実験を通じて調整池の浸透機能を評価した.本研究で明らかになった知見を以下に示す.1.カラム実験による目詰まりと浸透量の関係濁質と浸透量の関係について,調整池を繰り返し使用する場合には,濁質の累積によって目詰まりが生じ浸透機能が低下する傾向にあった.特に,基礎地盤がむき出しの場合には,累積濁水投入量が約2000g/m2になると浸透機能が60%に低下することがわかった.基礎地盤に侵入した濁質は除去が困難なことからフィルターを設置するなどの対策が必要である.2.フィルター材の性能評価現地砂をフィルター材として設置した実験では,浸透機能が60%に低下するのに要した累積濁水投入量は約4000g/m2であった.また濁質はフィルター材の上部で捉えられるので,表層部の入れ替えで浸透効果を復帰させることも可能である。したがって,フィルター材の採用はメンテナンスを考える上でも効果的であることがわかった.3.現地湛水実証試験の結果処理区として諏訪川水系内の砺波西中(中流部),神島(上流部)および対照区として太郎丸の3調整池において湛水実証試験を行った.その結果,いずれの調整池も気泡の出現による不飽和浸透の現象がみられた。これは飽和に比べ浸透量が低下する要因となる.また,土壌水分計を設置して,深度方向の水分変化を調べ,浸透解析も行った.その結果,砺波西中では,神島,太郎丸と大きく異なる浸透挙動が確認された.土層の差異もあるが,特に調整池底面から地下水面までの距離が浸透挙動に大きく影響していることがわかった.調整池の運用,管理では地下水位の変動を考慮し,設置場所に応じた対策が必要である
著者
奥川 光治
出版者
富山県立大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

多環芳香族炭化水素(PAHs)の環境中における動態を評価した.そのため,降水と乾性降下物,土壌,底質・上層水・生物に関する調査を実施した.降水と乾性降下物に関する詳細調査は1年半にわたり富山県中央部の都市近郊地域で実施した.降水は各月1〜4回採取し,PAHsの濃度,組成,懸濁態と溶存態への分配,降下負荷量について,また,降水の変異原性について解析した.乾性降下物は1〜2ヶ月に1回の頻度で採取し,乾性降下物によるPAHsの降下負荷量と組成について解析した.土壌に関する調査は3つの地域,すなわち,富山県新湊市,富山県上新川郡大沢野町,さらに,富山県と石川県の県境に位置する医王山系において実施した.土壌中のPAHs含量と組成が,市街地や幹線道路からの距離,有機物量などの要因に対応して,どのような分布特性を示すか解析した.底質,上層水,生物に関する調査は富山県中央部を流下する下条川とその源流域である射水丘陵に分布する貯水池,溜池で実施した底質および上層水,生物に含まれるPAHsの分布特性を解析した.水環境におけるPAHsの分布についてまとめると,降水の懸濁態ではPAHs含量は10^4ng/g,溶存態では10^<-2〜-1>ng/g,乾性降下物では10^<4〜5>ng/gの範囲を示した.土壌と底質では10^<2〜3>ng/gオーダーであった.貯水池・溜池上層水の懸濁態のPAHs含量は10^<3〜4>ng/g,植物プランクトンでは10^<3〜4>ng/gのオーダー,溶存態PAHsは10^<-3〜-2>ng/gであった.