著者
栗林 勇太 石黒 直隆
出版者
市立大町山岳博物館
雑誌
市立大町山岳博物館研究紀要 (ISSN:24239305)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.9-16, 2022 (Released:2023-11-25)

市立大町山岳博物館に1982(昭和57)年に寄贈されたイヌ科動物の上顎吻端部について記述する.それは「ヤマイヌのキバ」という名称で登録され,現在の長野県大町市周辺で江戸末期から明治初期に採取された後,魔除けとして根付の状態で使用されたものとみられる.この度得られたミトコンドリアDNA配列に基づく分子系統解析の結果をもとに,大町市周辺(旧北安曇郡内)の郷土史などの記録を概観することで,この地域におけるヤマイヌと呼ばれた生き物の実情について考察した.
著者
佐藤 真
出版者
市立大町山岳博物館
雑誌
市立大町山岳博物館研究紀要 (ISSN:24239305)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.71-74, 2016 (Released:2020-10-01)

市立大町山岳博物館付属園では2005年よりキジ(Phasianus versicolor)の飼育を行っている. 本稿では, 性成熟後のメスにおいてオスの形態的・生態的特徴を呈することを雄変と定義し, 当館付属園の飼育下個体における雄変の報告及びその原因と雄変の適応的意義について考察した. 当館付属園では, 主に雌雄同居の平飼いを行っており, これまでに計13羽を飼育し, 自然繁殖によって第2世代までみている. 2014年7月16日に雌雄ペアで飼育していたメス個体の頭部にオス特有の羽装色が見られた. また, 同個体は2013年まで放卵を行っていたが, 2014年以降には放卵は行っていない. 雄変の原因として, 先天性である遺伝子疾患や発現異常なども考えられるが, 少なくとも当館付属園の飼育個体においては, 野生由来の卵から孵化し産卵経験もあるため, 老齢化によって内分泌系やホルモン機能環に異常が生じた可能性が最も高い.
著者
秋葉 由紀
出版者
市立大町山岳博物館
雑誌
市立大町山岳博物館研究紀要 (ISSN:24239305)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.11-17, 2020 (Released:2020-09-01)

絶滅が危惧される日本のライチョウLagopus muta japonicaについて,2012年から環境省による「ライチョウ保護増殖事業」が開始され,(公社)日本動物園水族館協会とその加盟園館でも2015年からライチョウの生息域外保全事業に取り組んでいる.本事業では,近縁亜種スバールバルライチョウLagopus muta hyperboreaの飼育繁殖技術を応用し,遺伝的多様性に配慮しながら飼育繁殖技術の確立や実施体制の整備を課題とし,2015年,2016年に環境省により採取された有精卵から人工孵化して得られた個体で人工孵卵及び育雛に取り組み,2017年からは飼育下繁殖を実施した.今回は,生息域外保全事業の取り組みや実施体制の概略をまとめながら,2015-2019年の繁殖結果の評価をした.飼育繁殖技術の確立に向けた取り組みは一定の成果を得られたが,まだ野生個体に比べると有精卵率や孵化率,初期育雛率が低いことが分かった.今後は,野生復帰させ得る個体の創出や確保を含めた取り組みを行っていきたい.
著者
太田 勝一
出版者
市立大町山岳博物館
雑誌
市立大町山岳博物館研究紀要 (ISSN:24239305)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.7-16, 2021 (Released:2021-08-11)

佐野坂丘陵は大小の岩塊からなる崩壊堆積物からなり,かつての姫川を堰き止めて青木湖を形成したと考えられている.しかし,その形成過程には不明な点が多かった.たとえば,① 佐野坂丘陵の西側山地に位置する明瞭な崩壊崖の中軸に比べて,崩壊堆積物の位置は約200 m北側に偏り,また,② 崩壊堆積物の構成岩石は崩壊崖の地質構成と異なるなどの問題点が残されている.その原因として,崩壊崖の最大傾斜方向に対して崩壊堆積物が斜め北方向に移動した可能性や,未知の横ずれ断層により崩壊堆積物が北側に変位した可能性などが考えられる.活断層が関与した場合,断層活動と地震により大規模崩壊が発生し,その後の断層運動と崩壊の繰返しにより,現在の青木湖と佐野坂丘陵が形成されたと考えられる.これらの問題について,崩壊崖と崩壊堆積物の地質調査を実施し,既存のデータと統合して,今後の研究のための予察検討を行った.
著者
矢野 孝雄 小坂 共栄 緑 鉄洋 河野 重範
出版者
市立大町山岳博物館
雑誌
市立大町山岳博物館研究紀要 (ISSN:24239305)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.47-68, 2020 (Released:2020-09-01)

北部フォッサマグナ南部域において上部新生界の層序・堆積年代を整理し、水内帯中央部の別所層~柵層産底生有孔虫化石および大町市美麻竹ノ川産大型動物化石に関する新たなデータを加えて、後期新生代の古環境変遷を考察した。分析された底生有孔虫群集は一般に中部漸深海帯下部~上部漸深海帯を示し、柵層中部・上部では急速に浅海群集に変化する。竹ノ川産大型動物化石は中新世型要素を含む大桑・万願寺動物群で、浅海内湾の平行群集を構成する。北部フォッサマグナ南部域における古環境変遷はユースタシーに規制されていて、さらに、それに重なるテクトニックな昇降運動が前期中新世末の急速沈降、中新世末期~前期更新世の浅海化、中期更新世前半の急速隆起をひきおこし、古環境に長期的で根本的な変化をもたらした。北部フォッサマグナ南部域におけるテクトニクスにかかわるもっとも重要な課題は、①前/中期中新世のグリーンタフ変動第1次火成活動と漸深海堆積盆の発生、ならびに②中期更新世前半における急速な山地隆起、のメカニズムと要因である。