著者
秋葉 由紀
出版者
市立大町山岳博物館
雑誌
市立大町山岳博物館研究紀要 (ISSN:24239305)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.11-17, 2020 (Released:2020-09-01)

絶滅が危惧される日本のライチョウLagopus muta japonicaについて,2012年から環境省による「ライチョウ保護増殖事業」が開始され,(公社)日本動物園水族館協会とその加盟園館でも2015年からライチョウの生息域外保全事業に取り組んでいる.本事業では,近縁亜種スバールバルライチョウLagopus muta hyperboreaの飼育繁殖技術を応用し,遺伝的多様性に配慮しながら飼育繁殖技術の確立や実施体制の整備を課題とし,2015年,2016年に環境省により採取された有精卵から人工孵化して得られた個体で人工孵卵及び育雛に取り組み,2017年からは飼育下繁殖を実施した.今回は,生息域外保全事業の取り組みや実施体制の概略をまとめながら,2015-2019年の繁殖結果の評価をした.飼育繁殖技術の確立に向けた取り組みは一定の成果を得られたが,まだ野生個体に比べると有精卵率や孵化率,初期育雛率が低いことが分かった.今後は,野生復帰させ得る個体の創出や確保を含めた取り組みを行っていきたい.
著者
Anne Marit VIK 土田 さやか 橋戸 南美 小林 篤 秋葉 由紀 原藤 芽衣 牛田 一成
出版者
Japanese Society of Zoo and Wildlife Medicine
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.95-101, 2023-09-01 (Released:2023-11-01)
参考文献数
26

ニホンライチョウの飼育では,雛の高い死亡率がかねてより問題になっていたが,その原因として移行抗体が不十分である可能性が指摘されていた。2020年に中央アルプスで単独で暮らす飛来雌が産卵をしたためその未受精卵と動物園で得られた未受精卵の卵黄抗体(IgY)および卵白中のIgA抗体とIgM抗体の濃度を比較した。卵黄IgY濃度は,飼育下未受精卵が高値を示したが,統計的には有意でなかった。卵白IgA及び卵白IgMは,いずれも低値を示し,二群間に有意差はなかった。母鳥からの移行抗体量に野生と飼育下に差があるとはいえず,飼育下の雛の高い死亡率を説明する要因ではないと推測された。