著者
加須屋 誠
出版者
帝塚山学院大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

鎌倉後期制作の聖衆来迎寺所蔵「六道絵」は地獄幅四幅・閻魔王庁図一幅・餓鬼道図一幅・畜生道図一幅・阿修羅道図一幅・人道図四幅・天道図一幅・念仏功徳図二幅の計十五幅からなる仏教説話画遺品である。これらは現在、東京及び関西の博物館美術館に分割保管されているが、報告者はその実地調査を行い、各幅の詳細な細部写真撮影をなした。さらに各場面を『往生要集』をはじめとする仏教教典と対照し、カード及びコンピュータ・データベース形式で整理することにより、今後の研究の基礎となる資料を作成した。研究上とりわけ注目したのは、このなかで現実世界を描いた人道図である。これに関しては仏典(教理的プレテクスト)のみならず鎌倉時代の社会状況(社会的コンテクスト)をも考慮して、従来と異なる作品論(テクスト解釈)を試みた。その成果として一昨年すでに「聖衆来迎寺本六道絵「人道不浄相図」考」と題した論文を『帝塚山学院大学研究論集』に発表していたが、引き続き本年度は「生老病死の図像学-仏教説話画研究序説-」と題した論文を著し『国華』に掲載(1996年9月10月刊)。また特に病気の問題については「病草紙」等との比較を中心にして「病・表象・まなざし」と題して口頭発表(1996年12月、国際ワークショップ『美術史と他者』、於高野山福智院)、さらに死の問題に関しては『往生要集』の視覚イメージ論として「臨終行儀の美術-儀礼・身体・物語-」と題して口頭発表(1997年3月、公開フォーラム『宗教と美術』、於名古屋大学)を行った。これらの口頭発表の内容はいずれも平成9年度中に論文として刊行の予定である。そして、さらなる今後の研究課題に、異界についての考察がある。まずは地獄福に関する考察から始めて、順次各福の図像と様式解釈を試みた論文を執筆し、今後5年間をめどにして『聖衆来迎寺本六道絵の研究』をまとめることとしたい。その際には国際ワークショップで同席し、示唆に富んだアドバイスをくださったN.Brysonハーバード大学教授等が主導するいわゆる「ニュー・アート・ヒストリー」の研究方法が有効と考えている。