- 著者
-
佐古 仁志
- 出版者
- 日本生態心理学会
- 雑誌
- 生態心理学研究 (ISSN:13490443)
- 巻号頁・発行日
- vol.9, no.1, pp.48-51, 2016-09-01 (Released:2021-01-27)
- 参考文献数
- 11
本発表の目的は,インゴルドの「徒歩旅行」と「輸送」という移動の区別を引き受けたうえで,諸々の移動研究を参照することで,それらの移動に伴う知,つまりは<移動知>がどのように身体化されるのかを考察することにある.まず「徒歩旅行」と「輸送」の区別を明確にし,それからそのような区別と接続可能な身体性認知科学についての検討を行なう.そのうえで,「モビリティ」に関する研究を参照することで,さまざまな移動に伴う実践および知識,すなわち<移動知>がどのように身体化されているのかについて考察する.また,このような<移動知>の身体化の考察からは,移動形式のもたらす「自己」への影響が明らかになると思われる.「徒歩旅行」という形式の移動研究は,地図に依存することなく,むしろ物語(境界・俯瞰的ではない地図)の創出を通じて影響を与える点で,そして「輸送」という形式の移動研究は,「モビリティ」研究を媒介にし,社会性をもたらす点で,「自己」の形成に重要な役目を果たすということが提示されることになるだろう.