著者
大崎 晴地 青山 慶
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.95-108, 2022-05-01 (Released:2022-06-27)
参考文献数
3

心と身体,発達のリハビリテーション,精神病理学の領野にかかわりながら作品制作,研究活動を展開しているアーティストの大崎晴地氏にインタビューを行った.4 層のシートが媒質を包み込むようレイアウトされている氏の作品「エアトンネル」で起きることから,出会いと気配,遮蔽とフィクションなど今後の生態心理学における発達研究への示唆を得た.なお2021 年11 月「エアトンネル」の体験ワークショップ開催後,茨城県取手市のスタジオにてエアトンネルの実体験後に行われた.
著者
井上 拓也
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.3-30, 2022-05-01 (Released:2022-06-27)
参考文献数
58

本稿では,生態学的に言語を位置付けるために,まず生態学的言語論における各論者による言語の位置付けとそれらの課題点について確認する.次に,生態学的実在論の立場を踏まえ,アフォーダンス知覚における「現勢化」と「知覚化」の二つの段階を区別しつつ,後者の段階でアフォーダンスを知覚可能なものとする「シグニファイア」として言語を定義する.その上で,生態学的な言語観を継承する意味論としての「生態学的意味論」を提案する.最後に,生態学的な観点から,言語によって表現される抽象概念に関する議論や,言語の創造性についての議論も可能になることを示す.
著者
西尾 千尋
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.35-50, 2022-05-01 (Released:2022-06-27)
参考文献数
53

近年,乳児の歩行の発達は,運動学的な観点からだけではなく,言語発達や社会的相互行為との関連に焦点を当てて研究されている.Adolph は,運動発達と行動の変化の関係について,新しい運動スキルを獲得することが,様々な心理的領域にまたがる発達的変化につながるという,発達のカスケードとして捉える見方を示した.本研究では,歩行を中心とした乳児の移動の運動発達研究を行ってきた Adolph の研究を概観し,研究のキーワードである,柔軟性と経験,変動性,日常の環境の観点から検討を行った.それらを踏まえ,移動の発達を生態学的な観点から研究することが,発達研究のこれからの展開にもたらす意義について考察した.
著者
阿部 廣二 山本 敦 古山 宣洋
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.27-30, 2018-07-01 (Released:2020-12-01)
参考文献数
8

往復の旅程において,往路よりも復路のほうが短いと感じる,リターントリップエフェクトと呼ばれる現象がある.本稿では,まずリターントリップエフェクトの発生メカニズムについて,先行研究のレビューを行った.その後,先行研究の問題点を指摘した上で,生態心理学を理論仮説として,リターントリップエフェクトの生成メカニズムを理論的に検討した.その結果,1)往路と復路において同一対象であっても知覚される面が異なる可能性があること,2)表面/裏面のどちらからでも同一対象であることが特定できる付着対象であるランドマークの探索が失敗したとき,”もうここか/まだここか”といった経験をする可能性があること,3)視角の制約や環境内の対象によってもたらされるランドマークの遮蔽のタイミングが,往路と復路で違う可能性があり,復路において早期の段階でスタート付近のランドマークが知覚されたとき”もうここか”といった経験をする可能性があることが示唆された.最後に今後の実証研究の方向性として定性的分析,および実験研究の可能性が示された.
著者
辻田 勝吉 後安 美紀 岡﨑 乾二郎
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.31-34, 2016-09-01 (Released:2021-01-27)
参考文献数
15

本研究では,人間と協働して絵を描くロボットシステムを用いて,自己主体感および自己所有感発現のメカニズムを調べることを目的とする.本研究では,描画行為は主体と媒体との相対運動の中で生じるものだと考えている.具体的には,ロボットがペンを保持したアームを可動させるのではなく,ロボット上部に設置された画板を実際の描画方向とは逆に可動させることで描画を行う.本描画ロボットを用いた実験を通して,人間がペン先に伝わる触覚のみによって,過去の自分の描画運動パターンを想起し,再現できるか否かを検討した.その結果,ペン先の触覚のみによる運動知覚によって,画像刺激による想起と同等の線画の形態的特徴の再現能力と,線画の局所的な特徴点近傍では,むしろ視覚想起条件よりも優れた再現能力が発現することが確認された.
著者
三嶋 博之
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.2, 2008-12-01 (Released:2021-11-01)
参考文献数
2
著者
工藤 和俊 鳥越 亮 根本 真和 進矢 正宏 沢田 護 三嶋 博之
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.52-53, 2016-09-01 (Released:2021-01-27)
参考文献数
4

本研究では,自動車運転による間隙通過の際の注視点計測を行うことにより,運転時の視覚-運動協調について検討した.実験では7名の参加者が乗用車を運転して100m 先の障害物(パイロン)間を通過する間隙通過課題を行った.この際の注視点をアイマークレコーダーを用いて計測した.また,車両幅の知覚における個人差を明らかにするため,静止した車両の前方に置かれたパイロン位置を車両の左右端に合わせる車両幅知覚課題を行った.その結果,知覚課題における誤差(実際の車両幅と知覚された車両幅の差)と間隙通過課題時の障害物注視確率との間に正の中程度の相関が認められた.この結果は,車両幅知覚の誤差が小さかった参加者は運転時に進行方向である間隙中心を注視していた一方で,車両幅を過大に知覚していた参加者は障害物を注視することによって車両の接触可能性を確認するという注視行動が生じていたことを示唆している.これらの注視パターンはそれぞれ,目標方向への移動および障害物の回避課題において典型的に認められることから,自動車運転による間隙通過時の注視行動は拡張された身体である車両の行為可能性を反映していると考えられる.
著者
伊藤 精英 丸尾 海月 沢田 護
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.149-156, 2022-05-01 (Released:2022-06-27)
参考文献数
16

本研究は可聴域外の空気振動が無自覚的な生体活動に対する影響を明らかにすることを目的と した.予備実験では,可聴域上限以上の空気振動(超音波)を含む自然環境音を聴取している際の人の耳周辺の血流量を解析した.その結果,超音波付加時には血流量の速度に変化が認められ,超音波が生体活動へ影響することが示唆された.そこで,次の実験では,心拍変動解析及び皮膚表面温度解析結果を超音波付加の有無で比較した.その結果,超音波が可聴音に重畳すると,皮膚表面温度が上昇すること,自律神経系の均衡の指標とされる値の変動パターンに特徴的な傾向が現れることが認められた.これらを元に,自然界に存在する空気振動を知覚することが自覚的及び無自覚的な行為調整に果たす役割について議論する.
著者
後安 美紀 辻田 勝吉 石川 卓磨 高嶋 晋一 木原 進 岡﨑 乾二郎
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.33-47, 2015-04-01 (Released:2021-01-27)
参考文献数
34

本研究の目的は,包囲空間 (ambient space) という概念に焦点をあて,包囲空間に関する生態学的な研究法やその枠組みについて考察し,遮蔽縁が包囲空間の奥行きを創り出すという理論的な提案をおこなうことである.本理論を実証するための最初のステップとして,これまでに開催した美術館でのワークショップのなかから,絵画における包囲空間表現に関わる事例を取り上げ,絵画模写課題での参加者の振る舞い方について重点的に観察した.その結果,図と地の反転知覚が想定する論理枠組みの次元を上げ,“地と地の交替”という知覚の在り方が存在することが示唆された.図と地の問題系では,図を見ているときは,地は見えないとされてきたが,そのようなことは全くないどころか,焦点が結ばれることのない“地と地の交替”がなされる界面,すなわち遮蔽縁において奥行き知覚すら生じさせることができる,という可能性を示すことができたと考えられる.
著者
豊泉 俊大
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.26-29, 2018-09-08 (Released:2020-12-01)
参考文献数
12

画像的再現をめぐるギブソンとグッドマンの論争について考えたい.論争をあつかったこれまでの論考は,ギブソンの主張をグッドマンの理論の枠組みにおいて再構成するか,論争のきっかけとなった遠近法の慣習性という特殊の話題にのみ言及するかのどちらかであった.この小論では,ギブソンとグッドマンの主張の相違を明確にし,論争が両者の立論の根本に係わっていること,論争の核心が古来の実在論,唯名論の対立へと通ずることを指摘したい.
著者
園田 正世 工藤 和俊 野澤 光 金子 龍太郎
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.183-187, 2022-05-01 (Released:2022-06-27)
参考文献数
13

ヒトの乳児は出生後すぐには自ら移動できないため,しばらくは養育者による移動に委ね,身体の発達とともに能動的で探索的な移動に変化していく.抱くことは移動を可能にするだけでなく,授乳やあやし,コミュニケーションの基底的手段である.本研究では,家庭内での抱きの生起と継続の様相を明らかにし,成長発達と日常生活のなかで抱きの意味を検討するために,出産から独立歩行までの発達が著しい生後1年間(各月1回24 時間連続)の2組の抱き時間を計測した.新生児期から計測をスタートし,A 参加者は7 時間29 分, B 参加者6 時間48 分だったが,A 参加者は12 ヶ月後に3 時間56 分まで減少し,B 参加者は7 時間33 分に増加した.抱きは移動やあやしのための行為から,家事と平行するためのおんぶや授乳中心に変化し,子の受動的な移動が減少する様子がみられた.
著者
佐々木 正人
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.113-141, 2022-05-01 (Released:2022-06-27)
参考文献数
41

こんにちは,佐々木です.日本生態心理学会20 周年おめでとうございます.この機会を記念して何か話すようにご依頼いただきました.パワポを用意しました.はじめに本会創設の頃を短く振り返ります.次にエコロジカル・アプローチについて,自分のフィールドでの経験も紹介しながら,身体,場所,モノの3 つをテーマに話します.
著者
野澤 光 沢田 護 工藤 和俊
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.167-172, 2022-05-01 (Released:2022-06-27)
参考文献数
6

本稿では,氷上コースを走行する,熟練ドライバーと初級ドライバー2 名の眼球運動と頭部運動を,アイトラッカーにより検証した.2 名の眼球運動を,周波数スペクトラム,平均相互情報量,再帰定量化解析によって評価した結果,熟達者の水平面の眼球運動は,初級者と比較して,より多く低周波数成分を含んでおり,およそ1~1.5 秒周期の自己相関を示す,周期的な運動パターンを示していた.また,カーブ走行時の2 名の頭部運動を検討した結果,熟達者は,およそ3.9~4.2秒周期で頭部を左右に切りかえす運動パターンを示していた.これらの結果は熟達者が,ハンドル操作 - 頭部旋回 - 眼球運動という複数の運動を組みわせることによって,知覚に再帰的な時間構造を埋め込んでいたことを示している.こうした熟達者の知覚の再帰性は,氷上コースでの外乱や不確実性に適応するための,制御方略である可能性がある.本稿の結果は,熟達ドライバーの知覚が,結果として系全体を安定させる,能動的で再帰的な振る舞いの中に埋め込まれて実現していたことを示唆している.
著者
野澤 光 山﨑 寛恵 西尾 千尋
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.145-148, 2022-05-01 (Released:2022-06-27)
参考文献数
6

本シンポジウムは,子どもの生活する住環境で生起するレイアウト変更過程から,環境の機能的に単位を記述する最新の実証研究を紹介するとともに,それらのレイアウト研究に,考古学の記述手法を導入する可能性を議論する.企画者の野澤は,狩猟採集民の住環境のレイアウトからヒトの行動パターンを復元したBinford(1983)の記述手法が,Reed(1996)の基本アフォーダンスという発想を補完するものであることを解説するとともに,その視点が現代の住環境を記述する際にも有効であることを示す.山﨑は,約一年間の保育室内の縦断的な静止画記録から,室内のモノの動き方のパターンを分類し,動的でありつつも同じ場所がそこに存在していることを報告する。西尾は,乳児を養育する家庭における,物の配置替えに焦点を当てる.特に,乳児による物の運搬や遊びの後に行われる,養育者の収集と片付けの場面に尺目し,どのような相互的な活動の流れの中で,片付けが起きるのかを検討する.
著者
仲本 康一郎
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.23-34, 2008-12-01 (Released:2021-11-01)
参考文献数
66

生態心理学は,知覚者を刺激に対する単なる受動的な存在とみなすのでなく,意図や欲求を持って環境のなかを能動的に探索し活動するエージェントとみなす.本稿は,このような生態心理学の知覚・行為観に基づき,空間認知に関わる日英語の言語現象を観察・記述し,周囲の空間が世界を外から眺める観察者の観点からでなく能動的な行為者の観点から見た“行為の空間"として組織化されることを指摘する.特に,空間的な位置の表現が 行為者にとっての“接近可能性“として理解される現象に焦点をあてる.
著者
豊泉 俊大(大阪大学大学院)
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.3-14, 2021-05-01 (Released:2021-06-10)
参考文献数
22

本稿の目的は,ギブソンによる画像理論の全容を解き明かすことである.ギブソンは画像経験の本性を,その二重性にみる.画像経験が二重性を伴うことは事実である.われわれは画像をまえにして,たしかに,画面と画面に描写されているものとを見る.しかし,私の見るところ,そうした二重性によって画像経験の内実が尽くされることはない.画像経験の本性は二重性にではなく,むしろ三重性にあると,本稿は論ずる.そして,そのことが,ギブソンが示した画像の定義そのものから導きだされうることを,したがって,本稿の提示する見解が,ギブソンによる画像理論の正統な解釈たりうることを,精緻なテクスト読解によって証明する.本稿は,これまでには十分に検討されることのなかった,ギブソンによる画像理論の真意を精確に見定めるものとなる.