著者
根岸 純
出版者
明治大学文芸研究会
雑誌
文芸研究 (ISSN:03895882)
巻号頁・発行日
no.63, pp.p112-97, 1990-02

『ライン河』Le Rhinが「或る友への手紙」という副題を付して上梓されたのは、1842年1月12日のことであり、この初版は「序文」、25通の「手紙」、そして「結び」という構成になっている。今日我々が読むことのできる版は、この初版に未発表の「手紙」14通を加えて1845年に刊行された再版である。ユゴーは終生の愛人ジュリエット・ドルーエと、ヴァレンヌまでの小旅行(1838年)、ライン河流域を旅程に含む二度の旅行(1839年、1840年)を行っており、書簡体紀行文『ライン河』はこれら三回の旅行から生まれた。1838年の旅行では、ドイツに入るどころかヴァレンヌまでにしか行ってないのだが、このわずか10日間の旅行は、恐らくユゴーが『ライン河』の構想を初めて抱いたと考えられる点で重要である。
著者
亀山 照夫
出版者
明治大学文芸研究会
雑誌
文芸研究 (ISSN:03895882)
巻号頁・発行日
no.99, pp.73-76, 2006

アメリカ文学の作品の中で、ニューイングランドの伝統を受け継ぐ自然主義的な小説です。イーディス・ウォートン(1862-1937)の作品で、自然主義とニューイングランドの風土が不思議に溶け合った哀愁の色が濃い味わい深い作品です。ウォートンは、十九世紀後半のアメリカの風俗や慣習が時とともに消え去り行くさまをいとおしんだ作家です。と同時に、彼女の文学作品と私的情念とが似通った立場にあるために、屈曲したエロスは不燃焼のまま心の澱となって、わだかまります。彼女の文学上の師匠のヘンリー・ジェイムズの言うように、まさにウォートンは「荒廃させる天使」であり、荒涼たる心の原風景があらわになります。作品のなかで、彼女は男女の愛の姿を短いあいだながらも率直に表現し、しかも最後には、その愛はこの世では果たせないままで終わらせられるために、彼女の禁欲主義はただごとではありません。