著者
川瀬 豊子
出版者
樟蔭女子短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

ペルセポリス出土の城砦文書は、イラン高原南西部パ-ルサ地方を中心とした王室経済圏における諸活動を記録する。近年あらたに利用することが可能となったこの新史料は、女性が男性と同様に生産活動の重要な一翼を担っていたこと、男性と比較した場合女性に対する労働評価は相対的に低いものの、特殊な技術や経験を有する女性に対しては男性を上回る高い評価が与えられていたのみならず、男性をも含む所属集団統轄の責務が委ねられることもあったことを明らかにする。労働者の家族生活は基本的に保証されていたようであるが、とりわけ女性労働者に対して産後1ヵ月間労働が猶予されていたことが注目される。この措置は「経血のタブ-」と結びついたものと考えられるが、結果として産褥期間にある母体の保護となったことは間違いない。こどもは一定の年齢に達するまでは、原則として母親の労働集団の所属し、先行するオリエント諸国家(たとえばシュメ-ル)におけるような幼児段階での母子分離の政策はとられていない。一方王族の女性に関しては、彼女達が自らの所領、労働者をもち積極的に経済活動に参加し、時には不在の王の代理として祭儀を主宰していたこと等を確認することができる。同様の事例は、同時代のバビロニア出土の経済文書によっても検証される。ハカ-マニシュ朝(アカイメネス朝 前550ー330)治下のペルシア人社会では、女性は必ずしも社会生活から隔離された存在ではなかった。同時代市民階級の女性を公的領域からほぼ完全に追放し、彼女達を生殖と家内労働の担い手としかみなさなかった民主政期のポリス社会の価値観に基づくギリシア人史家がくり返すハカ-マニシュ朝の宮廷におれる女性の政治介入、陰謀加担に関する報告も、むしろこの観点からみなおすべきである。
著者
竹村 一夫
出版者
樟蔭女子短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

喫煙行動に関する資料・文献の収集および整理,データベース化について,前年度から継続して行った。収集した資料・文献の書名や出版年などをデータベース化し,一部については目次もデータ化した。目次については,今後もデータ化の作業を進め,内容の要約についてもデータ化の予定である。また,雑誌・マンガ雑誌からの画像データベースについて,画像の説明がキーワード程度では有用でないため,より詳しいコメントを付け加えた。テレビドラマ等の映像に関しては,編集にかなりの時間を要したため,データベース化は当初の予定通りにはいかず,分析には至らなかった。この点は,今後の課題である。これらの作業と平行して,大学生に対する聞き取り調査を実施した。その結果,単純に判断することは出来ないが,例えば,喫煙に関して,男性の場合は,直接的には友人の影響や周囲の大人,特に父親・兄の影響が大きかったといった回答がえられた。女性の場合も男性とそれほど異なるわけではないが,友人の影響が男性よりもより強く,喫煙について自分の意志で選択したことを強調するケースは,男性よりも多く見受けられた。メディアの影響については,特に意識されているわけではないが,映画やテレビドラマ等でタバコが小道具として有効に使われていることについて,多くの学生が理解しており,男性性の強調や自立した強い女性のシンボルとして使われていること,マンガのストーリー中に出てくるタバコ・喫煙行動については,特定のイメージの男女を登場させるときには必ず出てくるなど,一定のパターン化された使われ方がされていることについて,指摘した学生もいた。このように,喫煙イメージの形成および伝達に関して,親子や友人などの人間関係が大きな影響力をもっているだけではなく,特にステレオタイプ化されたイメージについては,メディアが一定の役割を果たしていることが指摘できる。