著者
村上 英吾
出版者
横浜国立大学技術マネジメント研究会
雑誌
技術マネジメント研究 (ISSN:13473042)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.14-26, 2003

本論では、横浜国立大学で大学院生を対象に実施したアカデミック・ハラスメントに関する調査をもとに、アカデミック・ハラスメントに関する先行研究を再検討した。主な論点は2 つある。ひとつは、アカハラの背景として「大学社会の二重性」にもとづく権力性の問題があるという点であり、もうひとつは、アカハラを性差別に限定するべきかどうかという点である。第1 の論点については、博士課程在籍者の最も深刻な被害経験をみると、学年が高まるほど被害の割合が高まることから、アカハラの背景として研究室の「風土」が問題であるという「疫学的」解釈に対して、権力性の問題がより重要であるという社会学的解釈を支持している。第2 の論点については、セクハラ型以外のアカハラ被害に関しては男女間の被害経験の有無に統計的有意差がないこと、加害者の女性比率が低いとはいえないことから、アカハラ被害は「性差別」問題としての側面に加えて、「性差別」にとどまらない問題を内包していることが看過されるべきではないことを指摘した。
著者
田中 ひかる
出版者
横浜国立大学技術マネジメント研究会
雑誌
技術マネジメント研究 (ISSN:13473042)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.42-55, 2003

現在、日本の生理用品の種類と性能は、世界一と言われている。しかしつい40 年前まで、日本女性は「蒸れる」「かぶれる」「ただれる」の三拍子揃ったゴム製の月経帯と脱脂綿を組み合せた不便な月経処置法を行っており、欧米に比べかなり遅れていた。このように月経処置法が日本で進歩しなかった背景には、社会学的視点から、月経不浄視など様々な理由が考えられる。このような慣習を破り、現在のような使い捨てナプキンを開発・販売、女性たちを物理的のみならず先駆的なコマーシャルによって精神的にも解放したのが、1961 年に坂井泰子が設立したアンネ社である。本稿の目的は、アンネ社について記録し、アンネ社が月経観に与えた影響を検証することである。<br> まず第1章第1節では、月経処置法の進歩を妨げていた月経に対する不浄視や偏見について触れ、それらがいかに女性たちを拘束してきたかを明らかにしている。第2節では、アンネナプキンが販売される以前、日本女性たちが行っていた月経処置法についてまとめた。第2章では、坂井泰子がアンネ社を設立してからライオンに吸収合併されるまでの過程をまとめ、アンネ社がアンネナプキンを普及させるために月経観の改革が必要だったこと、普及した結果月経観さらには女性の身体観までもが大きく変わったことを検証している。
著者
杉山 貴士
出版者
横浜国立大学技術マネジメント研究会
雑誌
技術マネジメント研究 (ISSN:13473042)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.67-79, 2006

本稿は、性的違和を抱える同性愛の高校生へのインタビューを通して、高等学校における彼らの性的自己形成過程の一端を検討するものである。ジェンダー規範に包含される異性愛中心性は、高等学校の明示的カリキュラムにおける同性愛の封印と、隠れたカリキュラムによる同性愛嫌悪により支えられている。高等学校において、彼らは (1) 自己受容の困難、(2) 自己イメージ形成の困難、(3) 情報アクセスの困難、(4) 自己開示・人間関係づくりの困難、(5) 事故回避の困難に直面し、結果として、いじめ、不登校、家出などの教育問題を導いていた。特に、同性愛に関する情報へのアクセスを、学校外部にしか求められない状況は、同性愛の高校生が問題予知力を備える性的自己決定能力を育むことが保障されずに性的自己決定を迫られること示しており、現状の高等学校は同性愛の生徒の「性の学習」を奪うことになる。本稿は、高等学校での同性愛の封印解除と積極的なセクシュアリティ教育の必要性を提起するものである。