著者
初岡 昌憲 恩田 康平 保尾 謙三 竹内 摂 福井 優樹 善入 寛仁 加茂野 太郎 井上 昌孝 山本 一世
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.281-295, 2010-06-30
被引用文献数
1

現在の歯科臨床の場には,MMA系レジンセメントやコンポジット系レジンセメント,セルフアドヒーシブレジンセメントといったさまざまなレジンセメントが存在する.今回われわれは,さまざまなレジンセメントのエナメル質,象牙質,12%金銀パラジウム合金(以後,金銀パラジウム合金)およびセラミックに対する引張接着強さを測定し,レジンセメントの接着性について検討を行った.実験には,MMA系レジンセメントとしてスーパーボンドC&B^[○!R](サンメディカル)およびマルチボンドII(トクヤマデンタル)を使用し,コンポジット系レジンセメントとしてレジセム(松風)およびパナビア^[○!R]F2.0(クラレメディカル)を,前処理を行わないセルフアドヒーシブレジンセメントとしてクリアフィル^[○!R]SAルーティング(クラレメディカル)およびリライエックス^<TM>ユニセムクリッカー^<TM>(3M ESPE),マックスセム(Kerr)を使用した.ウシ抜去歯に#600の耐水研磨紙を用いてエナメル質および象牙質平坦面を作製し,エナメル質および象牙質被着面とした.金銀パラジウム合金にサンドブラスト処理(0.5MPa)を行い金銀パラジウム合金被着面とし,セラミックブロックにサンドブラスト処理(0.3MPa)を行いセラミック被着面とした.被着面積は直径3mmに規定した.クリアフィル^[○!R]CRインレー(シェードXL,クラレメディカル)をテフロンモールドに填塞,硬化させCRブロックを作製した.それぞれのレジンセメントの製造者指示に従い,各被着面に対しCRブロックを接着させた.接着後24時間37℃水中保管した後,万能試験機(IM-20,Intesco)を用いてクロスヘッドスピード0.3mm/minにて接着強さを測定した.各被着面につき8試料とした.なお統計処理は,一元配置分散分析およびTukeyの検定を行った(α=0.05).前処理を行うMMA系およびコンポジット系レジンセメントは,セルフアドヒーシブレジンセメントよりもエナメル質および象牙質,金銀パラジウム合金,セラミック被着面に対する引張接着強さが有意に高い傾向が認められた.セルフアドヒーシブレジンセメントは前処理を必要としないため使いやすい材料であるが,前処理を行うレジンセメントよりも各種被着面に対する接着性が低下することが懸念される.
著者
近藤 一郎 小林 哲夫 若林 裕之 山内 恒治 岩附 慧二 吉江 弘正
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.281-291, 2008-06-30
被引用文献数
3

母乳に含まれるラクトフェリン(LF)は鉄結合性糖タンパク質であり,抗菌作用などの生理活性を有することが知られている.本研究では,ウシLF配合錠菓(森永乳業)を3カ月間摂取した場合の歯周炎患者に及ぼす影響を,臨床的,細菌学的,および生化学的に検討した.同意が得られた軽度慢性歯周炎患者18名を無作為に,ウシLF含有錠菓摂取群(実験群:8名)およびプラセボ錠菓摂取群(コントロール群:10名)に分けて,ともに錠菓を1日3回(1回2錠)3カ月間摂取し続けてもらった.錠菓摂取直前(ベースライン),摂取1週後,1カ月後,および3カ月後の来院時に,1)歯周組織検査,2)定量性PCRによる歯肉縁下プラークおよび唾液細菌検査(総菌数,Porphyromonas gingivalis数,Prevotella intermedia数,3)サンドイッチELISA法による歯肉溝滲出液(GCF)および唾液ヒト・ウシLF濃度検査,4)リムルステストによるGCFおよび唾液エンドトキシン濃度検査,を二重盲検法にてそれぞれ行った.各来院時での検査結果の群間差をMann-Whitney U testにて統計解析した.本実験期間中でウシLF錠菓摂取に伴う副作用は一切認められず,同錠菓の安全性が再確認された.実験群ではコントロール群と比べてベースラインに対する歯肉緑下プラーク細菌数変化量の有意な低下が,総菌数(1カ月後),P.gingivalis数(1,3カ月後),P.intermedia数(1週後)においてそれぞれ認められた.唾液細菌数および臨床所見における群間差はみられなかった.ウシLF濃度は,コントロール群と比べて実験群で有意に高いレベルが維持された.ヒトLFおよびエンドトキシンの濃度変化量には群間差はみられなかったが,実験群のGCFでは低レベルで推移する傾向が認められた.以上から,ウシLF配合錠菓の継続的な経口投与により,歯周病原細菌が減少することが臨床レベルで初めて確認された.ウシLFのレベルがGCFである程度維持され,歯肉縁下プラーク細菌を抑制した可能性が考えられる.食品成分であるウシLFを配合した錠菓の経口投与は,より安全な歯周病の予防法として有望であることが示唆された.
著者
中島 正俊 谷口 玄 SITTHIKORN Kunawarote 保坂 啓一 高橋 真広 岩本 奈々子 岸川 隆蔵 田上 順次
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.396-402, 2008-08-31
被引用文献数
1

う蝕象牙質へのレジンの接着性能は,健全象牙質に比べ低いことが知られている.その原因として,う蝕象牙質の形態学的構造,生化学的性状および機械的性状が,健全象牙質とは著しく異なっていることなどが挙げられている.また,被着象牙質表面を覆っているスミヤー層の性状も接着性能に影響を及ぼす可能性がある.象牙質切削時に表面に形成されるスミヤー層は,被切削体と構成成分は同じであると考えられている.したがって,う蝕象牙質削面に形成されるスミヤー層は,健全象牙質のスミヤー層と比べて有機成分の割合が多いと思われる.本研究では,う蝕象牙質内層(う蝕罹患(影響)象牙質:caries-affected dentin)へのレジンの接着性能の改良を目指して,スミヤー層の構造がう蝕象牙質と健全象牙質とで異なることに着目し,スミヤー層表面の有機成分を溶解・除去することができる次亜塩素酸ナトリウム水溶液による前処理が,う蝕罹患象牙質への2ステップ・セルフエッチ接着システム(クリアフィルメガボンドFA^[○!R],クラレメディカル)の接着強さに及ぼす影響について検討した.その結果,次亜塩素酸ナトリウム水溶液30秒処理後,還元効果のある芳香族スルフィン酸塩を主成分としたアクセル^[○!R](サンメディカル)にて30秒間処理することにより,う蝕罹患象牙質に対するクリアフィルメガボンドFA^[○!R]の接着強さを,無処理-健全象牙質に対する接着強さと同程度に改善させることができた.また,健全象牙質を次亜塩素酸ナトリウム水溶液30秒処理後,アクセル^[○!R]にて30秒間処理した場合と無処理-健全象牙質に対する接着強さの間に有意差は認められなかった.健全象牙質とう蝕罹患象牙質におけるスミヤー層の性状の違いが,2ステップ・セルフエッチ接着システムのう蝕罹患象牙質に対する接着強さの低下の大きな要因である可能性が示唆された.