著者
三澤 江里子 田中 美順 阿部 文明 山内 恒治 齊藤 万里江 鍋島 かずみ
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.141-145, 2019 (Released:2019-08-22)
参考文献数
13

アロエベラ葉肉から機能性成分として同定した植物ステロール類 (以下, アロエステロール) について, 生体の恒常性維持に重要な役割を果たす皮膚機能に着目し, 経口摂取による効果を検討した。ヒト皮膚由来線維芽細胞をアロエステロール存在下で培養する in vitro 試験により, コラーゲンとヒアルロン酸の合成と産生が促進されることを明らかにした。また, in vivo での検討において, 紫外線による皮膚の水分量や弾力の低下が予防され, コラーゲン量の低下とマトリックスメタロプロテアーゼ (MMP) 過剰産生が抑制されたことから, ヒトでの効果を検証するため無作為化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験を行った。その結果, アロエステロール含有食品の12週間摂取が, 皮膚の保湿力を高めて肌の潤いを保つとともに, 真皮コラーゲンを増やして皮膚弾力性を維持することを確認した。細胞からヒトまでの試験結果から, アロエステロールが皮膚の健康の維持, 増進に役立つ機能性食品素材として有用であることが明らかとなった。
著者
山内 恒治
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.193, 2006-03-15 (Released:2007-03-09)
参考文献数
2
被引用文献数
1 1

ラクトフェリン(LF)は,トランスフェリンと類似の構造をもつ分子量約80,000の鉄結合性の糖たんぱく質である.1939年にSørensenらによって牛乳の乳清画分から赤色たんぱく質として発見され,1960年に母乳と牛乳から単離された.LFは特に初乳での濃度が高く,たんぱく質中の数十%の割合を占め(図1),乳児(仔)の感染防御に重要な役割を果たしていると考えられている.また,涙や唾液などの外分泌液や白血球の一種である好中球にも存在する.LFの生理機能として,1)抗菌・抗ウイルス活性,2)ビフィズス菌増殖促進作用,3)免疫調節作用,4)抗酸化作用,5)鉄吸収調節作用などの多様な作用が知られている.抗生物質の場合,全ての細菌に抗菌作用を示し腸内ではその菌叢全体を死滅させるのに対して,LFは有害菌である大腸菌を抑制する一方,有用菌であるビフィズス菌に対しては増殖効果を示す.LFは胃の消化酵素であるペプシンによる加水分解を受け,より強い抗菌活性をもつペプチド“ラクトフェリシン®”が生成される.このペプチドは細菌や真菌など多くの病原菌に対して殺菌的な抗菌活性を示す.また,抗菌活性以外にも免疫調節作用など種々の生理活性を示し,LFの多様な機能の一端を担うペプチドと考えられている.近年の研究において,LF経口投与による種々の細菌,真菌に対する感染防御機能が明らかとなりつつある.その作用機序として,経口投与されたLFが腸管免疫系に作用し,免疫ネットワークを介して全身免疫系機能が亢進され,生体防御能が高まるものと考えられる.また,大腸はじめ,膀胱,食道,肺,肝臓についてモデル動物における発がん抑制効果が報告されている.ヒトにおいては,乳児におけるビフィズス菌叢の形成促進のほか,足白癬における皮膚症状の改善効果や,C型慢性肝炎における抗ウイルス作用の効果など,LF経口摂取による臨床試験成績が報告されている.LFは未加熱の牛乳には約20mg/100ml,ナチュラルチーズには約300mg/100g含まれており,長い食経験がある.ラットを用いた亜急性毒性試験において毒性は認められず,Ames試験,染色体異常試験,小核試験の遺伝毒性試験でも異常は認められていない.また,これまでの臨床試験においても特に副作用は認められず,ウシLFの食品としての安全性は極めて高いものと考えられる.LFの応用に当たっては,牛乳やチーズホエイを原料として,工業的規模で陽イオン交換カラムを用いた分離精製および膜処理技術を用いた脱塩・濃縮による高純度での生産が確立された.分離精製されたウシLF粉末は淡赤桃色の色調で無味無臭,水に対する溶解性は高く,溶解度は40%である.LFの水溶液は酸性条件では安定でpH4では90℃~100℃5分の処理でも変性しない事が見出された.本特性を利用することにより,活性を保持したLFを含有した食品の製造が可能となった.現在,LFは育児用ミルク,ヨーグルト,乳酸菌飲料,サプリメントなどに広く応用されている.機能性を持った食品よって生活の質の向上や疾病リスクの低減を図る動きは日本だけでなく欧米でも高まっており,今後の更なるエビデンスの蓄積に基づくLFの機能性食品への応用が強く期待される.
著者
山内 恒治 久原 徹哉
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.199-208, 2008 (Released:2014-03-15)
参考文献数
36

There have been numerous evidences indicating that milk proteins influenced various immune functions. Here, we review the milk proteins playing the important roles. Recent reports have shown that LF enhanced anti-microbial, anti-viral and anti-tumor immune activities when orally administered. We report here that orally administered bovine LF (bLF) increases peripheral NK cell and augments the NK cell activity. Oral administration of bLF immediately induced the production of IL-18 in the intestinal epithelium, and the elevation of portal IL-18 levels. Furthermore, oral bLF administration augmented the expression of type-I IFNs in Peyer's patches and mesenteric lymph nodes. Collectively, these results indicated that orally administered bLF stimulated intestine-associated immune functions, including the production of IL-18 and type-I IFNs, and then raised the NK cell activity. All classes of immunoglobulin are found in milk. Human milk antibodies are primarily of the secretory IgA type, while the major antibodies of bovine milk are IgG type. Secretory IgA consists of two molecules of IgA bound to a protein, the secretory component. Human milk contains secretory IgA antibodies against microorganisms which have exposed the mother's gastrointestinal and respiratory tract. Milk contains a number of other proteins participating in defense in addition to lactoferrin and antibodies. Lactoperoxidase has a wide range of biological functions including antimicrobial and immuno-modulatory effects. Lysozyme which cleaves peptidoglycans of bacterial cell walls achieves a bactericidal effect.
著者
近藤 一郎 小林 哲夫 若林 裕之 山内 恒治 岩附 慧二 吉江 弘正
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.281-291, 2008-06-30
被引用文献数
3

母乳に含まれるラクトフェリン(LF)は鉄結合性糖タンパク質であり,抗菌作用などの生理活性を有することが知られている.本研究では,ウシLF配合錠菓(森永乳業)を3カ月間摂取した場合の歯周炎患者に及ぼす影響を,臨床的,細菌学的,および生化学的に検討した.同意が得られた軽度慢性歯周炎患者18名を無作為に,ウシLF含有錠菓摂取群(実験群:8名)およびプラセボ錠菓摂取群(コントロール群:10名)に分けて,ともに錠菓を1日3回(1回2錠)3カ月間摂取し続けてもらった.錠菓摂取直前(ベースライン),摂取1週後,1カ月後,および3カ月後の来院時に,1)歯周組織検査,2)定量性PCRによる歯肉縁下プラークおよび唾液細菌検査(総菌数,Porphyromonas gingivalis数,Prevotella intermedia数,3)サンドイッチELISA法による歯肉溝滲出液(GCF)および唾液ヒト・ウシLF濃度検査,4)リムルステストによるGCFおよび唾液エンドトキシン濃度検査,を二重盲検法にてそれぞれ行った.各来院時での検査結果の群間差をMann-Whitney U testにて統計解析した.本実験期間中でウシLF錠菓摂取に伴う副作用は一切認められず,同錠菓の安全性が再確認された.実験群ではコントロール群と比べてベースラインに対する歯肉緑下プラーク細菌数変化量の有意な低下が,総菌数(1カ月後),P.gingivalis数(1,3カ月後),P.intermedia数(1週後)においてそれぞれ認められた.唾液細菌数および臨床所見における群間差はみられなかった.ウシLF濃度は,コントロール群と比べて実験群で有意に高いレベルが維持された.ヒトLFおよびエンドトキシンの濃度変化量には群間差はみられなかったが,実験群のGCFでは低レベルで推移する傾向が認められた.以上から,ウシLF配合錠菓の継続的な経口投与により,歯周病原細菌が減少することが臨床レベルで初めて確認された.ウシLFのレベルがGCFである程度維持され,歯肉縁下プラーク細菌を抑制した可能性が考えられる.食品成分であるウシLFを配合した錠菓の経口投与は,より安全な歯周病の予防法として有望であることが示唆された.