著者
喜多 正幸
出版者
独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本年度は樹上で黄熟するタイプのウメ品種‘織姫'と収穫後(落果後)に黄熟するタイプの品種‘南高'を材料に、全カロテノイド含量の増加に対応して発現の増大が認められるフィトエン合成酵素遺伝子のゲノム配列を比較した。その結果、‘南高'では3末近傍の第5イントロンで約50塩基の欠損が認められた。また、フィトエン合成酵素遺伝子の上流域及びコード領域のPCR-RFLPにより、両品種間で多型が得られた。‘織姫'ב南高'の交配個体では両親に由来する断片を併せ持つヘテロ型を示す多型が得られ、これら交配個体のカロテノイド蓄積特性を調べることによって、多型のタイプからカロテノイド蓄積特性を推察できると考えられた。即ち、フィトエン合成酵素遺伝子の上流域及びコード領域のPCR-RFLPによる分子多型を用いて果実の成熟初期からカロテノイドを蓄積し、樹上で黄熟する系統を育成段階の早期から選抜できる可能性が開けた。また黄熟とエチレンの関わりについて、‘織姫'及び`‘南高'の果実を経時的にサンプリングして生成するエチレン量をガスクロマトグラフィーで測定したところ、`南高は樹上ではエチレンを生成せず、収穫後に著しいエチレンの生成が認められたのに対し、‘織姫'は黄熟とともにエチレン生成が樹上の果実でも行われていた。また、‘南高'の収穫後果実に対してエチレンのシグナル伝達系の阻害剤である1-メチルシクロプロペン(1-MCP)処理やプロピレン処理を行った結果、エチレン存在下でフィトエン合成酵素遺伝子の発現は増大していた。一方、1-MCP処理により、エチレン生成を抑制してもフィトエン合成酵素遺伝子の発現は無処理に比して低いもののシグナルが検出された。これらのことから、ウメ果実のフィトエン合成酵素遺伝子の発現は、エチレンの影響を受けるものの、完全にはエチレンの制御下にはないことが推測された。
著者
棚瀬 幸司
出版者
独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

花弁(がく片を含む)が脱離する花きは花弁と花床との間に離層が形成され、その後花弁が落下する。代表的な種としてバラ、デルフィニウム、チューリップ、ユリ、トレニアなどがあげられる。花弁の離層形成機構については園芸植物ではあまり調べられていない。また、ユリやチューリップなどの球根類はエチレン非感受性であり、エチレン阻害剤やエチレン生合成関連遺伝子のアンチセンス導入などによる花持ち延長効果は期待できない。そのため、離層の形成機構に関する基礎データを得る必要がある。そこで本研究では、離層形成に最も関連のある細胞壁分解酵素遺伝子のうち、セルラーゼ(β-1,4-グルカナーゼ)とペクチナーゼ(ポリガラクツロナーゼ)遺伝子のクローニングを行った。さらに、デルフィニウムからエチレン受容体遺伝子をすでにクローニングしていることから、合わせて発現解析を行った。始めに、デルフィニウムがく片の離層から5mm以内の組織を切り取り、RNAの抽出を行った。トマト、アラビドプシス等の植物間で保存されているセルラーゼとべクチナーゼ遺伝子の配列をもとにプライマーを作成し、RT-PCRを行った。増幅されたcDNA断片はpT7 Blue T-Vectorにクローニングし、塩基配列を決定した。クローニングしたcDNAの部分塩基配列を決定し、それぞれをBLASTを用いて推定されるアミノ酸配列を比較した。グルカナーゼのcDNAクローンは推定されるアミノ酸がトマトのグルカナーゼと88%、アボカドのグルカナーゼと86%、モモのグルカナーゼと86%類似しており、Del-cellはβ-1.4グルカナーゼであると考えられた。ポリガラクツロナーゼのクローニングを行ったところ、2種類のクローン(Del-PG1とDel-PG1-PG2)はβ-1,4-グルカナーゼであると考えられた(形)を得た。これらの推定されるアミノ酸の類似性は43%であった。それぞれをBLASTで検索したところ、Del-PG1はend型のポリガラクツロナーゼと、Del-PG2はexo型のポリガラクツロナーゼと類似性が高かった。一方、エチレン受容体遺伝子(D1-ERS1-3、D1-ERS2)の発現は花で高く、茎や葉では低かった。これらの遺伝子は花において老化にともなう変動が少なかったが、エチレン処理を行うとがくでのみ発現が高くなった。
著者
立木 美保
出版者
独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

エチレンは果実の成熟・老化を促進させるため、果実の鮮度を保持するためには、その作用を抑制させる必要がある。1-MCPはエチレン受容体に作用する強力なエチレン作用阻害剤であるが、その効力が樹種によって異なることが報告されており、本剤によるエチレン作用阻害機構について分子レベルでの解明が求められている。昨年度の研究結果より、1-MCP効果による鮮度保持効果が高いリンゴ果実では、1-MCP処理後エチレン情報伝達系を負に制御しているエチレン受容体が蓄積していることが明らかとなった。そこで、今年度は1-MCPの効果が低いモモ果実を用いて解析した。1-MCP処理したモモ‘あかつき'の果肉硬度は、収穫3日後まではやや高い傾向を示したが、5日後には無処理区と同じレベルに低下した。また、エチレン生成量は、1-MCP処理した果実において処理2日後に一過的な増加を示したことから、処理後1〜3日までは、硬度、エチレン生成量とも1-MCPの影響を受けていると推測された。従って、モモにおける1-MCP効果が低い原因として、エチレン受容体と1-MCPの親和性が低いという理由は当てはまらないと考えられた。モモよりエチレン受容体遺伝子Pp-ETR1およびPp-ERS1を単離し、1-MCP処理した収穫後果実における発現様式を解析したところ、無処理区および1-MCP処理区においてPp-ETR1及び年Pp-ERS1の発現量は大きな変化を示さなかったことから、エチレン受容体の発現制御において、モモではリンゴほどエチレンの影響を受けないと推測された。1-MCP処理期のエチレン生成量が、1-MCP効果に影響を及ぼす可能性が考えられたが、リンゴ果実では収穫直後ならばエチレン生成量が多い場合でも、1-MCPの効果は高いことが明らかとなった。
著者
田中 敬一 立木 美保
出版者
独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

負イオンとオゾン混合ガスを併用した高湿度条件下で果実を貯蔵すると、従来の貯蔵法と比較して長期間、高品質に果実を貯蔵できるが、モモの場合は、冷温高湿庫で長期に貯蔵すると香りの消失が認められ、その消失機構の解明が求められている。そこで、液-液抽出ガスクロマトグラフ質量分析(GCMS)法、ヘッドスペースGCMS法、分析試料の量が少なく再現性の優れた分析法であるMicro Purge & Trap法及び匂いセンサーを用いてモモの貯蔵中の香りの変化を解析した。液液抽出GCMS分析の結果、冷温高湿庫に貯蔵したモモでは、貯蔵初期にエステル類(特にethyl acetate)が増加し、貯蔵期間が長くなると減少した。ヘッドスペースGCMS分析の結果では、‘あかつき'を冷温高湿庫で貯蔵するとラクトン類は、3週間を過ぎると急速に減少した。Micro Purge & Trap分析の結果、‘あかつき'を冷温高湿庫で貯蔵するとエステル類、C6化合物の組成が単純化し、benzaldehydeがそのほとんどを占めるようになった。ラクトン類では、貯蔵期間が長くなるに従いγ-decalactoneの量が増大した。水分含量の多いモモを測定する場合、におい識別装置のセンサは様々な影響を受けやすい。そのため、貯蔵したモモの香りをにおい識別装置で時間を追って評価することは難しかったが、測定日を同じにしてにおい識別装置で測定したところ非破壊で、モモの鮮度と香りとの関係を明らかにできた。以上の結果より、モモを冷温高湿庫で長期に貯蔵すると、香りの量が減少するだけでなく、香気成分が単純化するため、全体としてモモ特有の香りが失われるものと考えられた。