著者
田中 福代 岡崎 圭毅 樫村 友子 大脇 良成 立木 美保 澤田 歩 伊藤 伝 宮澤 利男
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.101-116, 2016
被引用文献数
12

リンゴみつ入り果と非みつ果の香味特性および香味成分のプロファイリングを実施し,嗜好性と香味成分との関連を検討した.みつ入り果の揮発性成分はメチルエステル類,エチルエステル類が特徴的に増加した一方,酢酸エステル類や炭素数3以上のアルコール由来のエステル類は減少した.可溶性成分ではソルビトール,スクロース,L-アラニン,ピログルタミン酸,デヒドロアスコルビン酸が増加し,グルコースが低下した.試算した甘味度積算値はみつ入り果がわずかに大きかった.官能評価の結果,'ふじ' のみつ入り果は全体的な香り,フルーティ,フローラル,スィートが顕著に強く,嗜好性も高かった.みつ入り果で特徴的に検出されたエチルエステル類等(特に2-メチル酪酸エチル,ヘキサン酸エチル,チグリン酸エチル,2-メチル酪酸メチル)は嗅覚による閾値が小さく,スィート·フローラルな,リンゴ·パイナップル様の香調を呈する.以上から,みつ入り果の嗜好性の高さは糖類よりもメチル·エチルエステル類を中心とした香気成分が強く寄与したものと示唆された.また,これらの成分はみつ部分における低酸素·高炭酸条件下の代謝により集積したものと推定した.
著者
村松 昇 田中 敬一 朝倉 利員 立木 美保 土師 岳
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.541-545, 2004-11-15
被引用文献数
2 2

モモ果実由来の細胞壁中のアルカリ性溶液に可溶のペクチン性多糖類の単離及び分析を行った.モモ果実の粗細胞壁から,水とキレート剤(CDTA)によって溶出される多糖類を取り除いた後50mM Na_2CO_3, 1 M KOH及び4 M KOHを使って分画した.分画された多糖にイオン交換カラム・クロマトグラフィー(DEAE-Sepharose 5 cm×30 cm)を用いて,さらに分画を試みた.その結果,50mM Na_2C0_3画分の多糖類は更に分画できなかったが,1 M KOHでは3つ(1 M KOH-a, b, c), 4 M KOH (4 M KOH-a, b, c, d)では4つに,それぞれ分画できた.1 M KOH可溶性画分のうち酸性多糖類を含む分画(1 M KOH-b, c)についてさらに分析を行った.分画b及びcの主要な糖はそれぞれキシロースとアラビノースであった.分画bとcにゲルろ過(Sepharose CL 4B 1.5 × 30 cm)を行った結果,分画bの方が分画cよりも明らかに分子量が低かった.また,未熟果(8月7日収穫)から得られた細胞壁は過熱果(8月24日収穫)よりも分子量が両分画とも高かった.さらに,キシラナーゼ処理と糖分析の結果から,分画bはキシランとラムノガラクツロナンの複合糖鎖であると推定された.また,分画cは糖分析と加水分解の結果から,キシログルカンとラムノガラクツロナンの複合糖鎖であると推定された.
著者
立木 美保
出版者
独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

エチレンは果実の成熟・老化を促進させるため、果実の鮮度を保持するためには、その作用を抑制させる必要がある。1-MCPはエチレン受容体に作用する強力なエチレン作用阻害剤であるが、その効力が樹種によって異なることが報告されており、本剤によるエチレン作用阻害機構について分子レベルでの解明が求められている。昨年度の研究結果より、1-MCP効果による鮮度保持効果が高いリンゴ果実では、1-MCP処理後エチレン情報伝達系を負に制御しているエチレン受容体が蓄積していることが明らかとなった。そこで、今年度は1-MCPの効果が低いモモ果実を用いて解析した。1-MCP処理したモモ‘あかつき'の果肉硬度は、収穫3日後まではやや高い傾向を示したが、5日後には無処理区と同じレベルに低下した。また、エチレン生成量は、1-MCP処理した果実において処理2日後に一過的な増加を示したことから、処理後1〜3日までは、硬度、エチレン生成量とも1-MCPの影響を受けていると推測された。従って、モモにおける1-MCP効果が低い原因として、エチレン受容体と1-MCPの親和性が低いという理由は当てはまらないと考えられた。モモよりエチレン受容体遺伝子Pp-ETR1およびPp-ERS1を単離し、1-MCP処理した収穫後果実における発現様式を解析したところ、無処理区および1-MCP処理区においてPp-ETR1及び年Pp-ERS1の発現量は大きな変化を示さなかったことから、エチレン受容体の発現制御において、モモではリンゴほどエチレンの影響を受けないと推測された。1-MCP処理期のエチレン生成量が、1-MCP効果に影響を及ぼす可能性が考えられたが、リンゴ果実では収穫直後ならばエチレン生成量が多い場合でも、1-MCPの効果は高いことが明らかとなった。
著者
田中 敬一 立木 美保
出版者
独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

負イオンとオゾン混合ガスを併用した高湿度条件下で果実を貯蔵すると、従来の貯蔵法と比較して長期間、高品質に果実を貯蔵できるが、モモの場合は、冷温高湿庫で長期に貯蔵すると香りの消失が認められ、その消失機構の解明が求められている。そこで、液-液抽出ガスクロマトグラフ質量分析(GCMS)法、ヘッドスペースGCMS法、分析試料の量が少なく再現性の優れた分析法であるMicro Purge & Trap法及び匂いセンサーを用いてモモの貯蔵中の香りの変化を解析した。液液抽出GCMS分析の結果、冷温高湿庫に貯蔵したモモでは、貯蔵初期にエステル類(特にethyl acetate)が増加し、貯蔵期間が長くなると減少した。ヘッドスペースGCMS分析の結果では、‘あかつき'を冷温高湿庫で貯蔵するとラクトン類は、3週間を過ぎると急速に減少した。Micro Purge & Trap分析の結果、‘あかつき'を冷温高湿庫で貯蔵するとエステル類、C6化合物の組成が単純化し、benzaldehydeがそのほとんどを占めるようになった。ラクトン類では、貯蔵期間が長くなるに従いγ-decalactoneの量が増大した。水分含量の多いモモを測定する場合、におい識別装置のセンサは様々な影響を受けやすい。そのため、貯蔵したモモの香りをにおい識別装置で時間を追って評価することは難しかったが、測定日を同じにしてにおい識別装置で測定したところ非破壊で、モモの鮮度と香りとの関係を明らかにできた。以上の結果より、モモを冷温高湿庫で長期に貯蔵すると、香りの量が減少するだけでなく、香気成分が単純化するため、全体としてモモ特有の香りが失われるものと考えられた。