著者
半杭 真一
出版者
福島県農業総合センター
巻号頁・発行日
pp.37-49, 2016 (Released:2016-10-11)

本論文は、消費段階の調査を通じて、震災発生年に原子力発電所事故が福島県の果樹経営に与えた甚大な被害の直接的な原因となった、消費者の贈答向け果実の買い控えをもたらした要因について、福島県、首都圏、京阪神の消費者を対象として、震災発生年におけるモモとリンゴの贈答用購買と24年産の購買意向について、インターネットを用いて調査し、分析したものである。震災発生年において、モモとリンゴの贈答用購買は大きく落ち込んだ。その理由として想定される放射性物質に対する懸念について、払しょく材料として期待されるモニタリング検査の結果、モモとリンゴにおいては暫定規制値を超える放射性物質が検出されることはなかったことを回答者が知っていても、24年産の贈答用購買には関係するとはいえないという結果が得られた。また、24年産の贈答用購買について、回答者の意思決定要因を分析したところ、モモにおいては震災前の購入頻度、回答者自身の放射性物質忌避、年齢、購買チャネルが関係しており、リンゴについては、回答者自身の放射性物質忌避、購買チャネルが関係していることが明らかになった。こうした結果は、贈答用の購買という特殊な購買状況によりもたらされたものと推察される。本論文の分析については、実際の購買行動ではないインターネットによる質問紙調査を用いたものであり、また、震災発生年に1度実施されたものであるため、調査結果は限定的なものと考えられる。さらに、ここでの調査が行われた後、被ばくの状況から栽培上の取り組みやモニタリング検査による出荷制限が機能していることを示す研究も出てきており、今後、経時的な変化も含め、果樹経営の調査を含めた継続的な調査を実施することが残された課題である。
著者
三田村 敏正 松木 伸浩 吉岡 明良 田渕 研
出版者
福島県農業総合センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

東北地方太平洋沖地震とそれに伴う東京電力福島第一原子力発電所事故により、営農中断し、その後再開した水田において、生物相の変化を明らかにするため、営農中断し表土剥ぎおよび客土を実施、営農中断し、表土剥ぎなし、営農中断なし、のほ場を平野部と山間部、さらには栽培方法として、直播と移植に分け、16地区42枚の調査ほ場を設定した。調査は「農業に有用な生物多様性の指標生物調査・評価マニュアル」により、ダルマガエル類、アカネ類・イトトンボ類、水生昆虫類、アシナガグモ類について行った。ダルマガエル類は小高区金谷で、営農再開後3年目でニホンアカガエルが初確認された。また、トウキョウダルマガエルは、営農を中断した地域で少ない傾向であった。アカネ類羽化殻は富岡町以外のすべての調査地で確認された。アカネ類の羽化時期は地域によって差がみられた。イトトンボ類は6種が確認され、アジアイトトンボが最も多かった。水生昆虫は営農中断ありでは21種、営農中断なしは13種が確認され、営農中断ありが多い傾向であった。。キイロヒラタガムシ、コミズムシ属、ヒメアメンボは前年同様、多くのほ場で、また、ヒメゲンゴロウ、ホソセスジゲンゴロウ、マメガムシ、トゲバゴマフガムシ、ミズカマキリ、メミズムシは営農中断ありのほ場でのみ確認された。アシナガグモ類ではほとんどがアシナガグモ属5種であった。トガリアシナガグモとヤサガタアシナガグモは営農を中断した地域で少なく、ハラビロアシナガグモは山間部で多い傾向であった。また、2019年度は装置の基盤に結露の影響を受けにくいような処理を施し防水性を高めるとともに、秋季には昨年度より1地区増やした6地区の水田に合計18台の自動撮影装置を設置して、自動撮影枚数と見取り調査によるアカネ類密度との相関を検討した。その結果、昨年度同様にアカネ類の自動撮影枚数と見取り調査によるアカネ類密度には正の相関が見られた。
著者
石川 雄治 古閑 文哉 内田 守譜 矢内 伸佳 渡邊 鋼一 佐藤 亮一
出版者
福島県農業総合センター
巻号頁・発行日
no.9, pp.33-38, 2018 (Released:2018-08-02)

飼料由来の放射性セシウムにより体内が汚染された黒毛和種雌牛の飼い直し期間を短縮するために、ゼオライト給与による放射性セシウムの排出促進効果を検討した。試験では、清浄飼料にゼオライトを添加して給与した期間中の血液、尿及び糞の放射性セシウム濃度を測定するとともに、牛放射能測定装置により筋肉中放射性セシウム濃度の推定を行ったが、ゼオライト給与による放射性セシウムの排出促進効果は確認できなかった。
著者
大寺 真史 吉田 直史 佐久間 秀明 佐藤 博志 斎藤 真一 佐藤 弘一 手代木 昌宏 齋藤 弘文 半沢 伸治
出版者
福島県農業総合センター
雑誌
福島県農業総合センター研究報告 (ISSN:18825613)
巻号頁・発行日
no.3, pp.29-45, 2011-03

(1)2009年に「あぶくまもち」として品種登録出願され、福島県で糯米品種として奨励品種(特定品種)に採用された。(2)1993年に福島県農業試験場において、「ふ系172号」を母、「奥羽糯347号」を父として交配された。F1~F3世代は温室で集団養成、F4世代では個体選抜、F5世代以降は系統育種法により選抜および固定が図られた。(3)「あぶくまもち」の特性は以下のとおりである。A 出穂期、成熟期ともに「ヒメノモチ」よりも2日前後早く、「こがねもち」よりは10日程度早い。福島県の熟期区分では'中生早'に属する。B 草型は'中稈・穂重型'で、耐倒伏性は「こがねもち」よりも強く、「ヒメノモチ」並の'やや弱'である。C いもち病真性抵抗性遺伝子型は'Pia, k'と推定され、圃場抵抗性は葉いもち、穂いもちともに「こがねもち」よりも強く、「ヒメノモチ」並の'強'と判定された。D 障害型耐冷性は'極強'で、「ヒメノモチ」および「こがねもち」より3ランク強い。E 穂発芽性は'やや難'で、「ヒメノモチ」および「こがねもち」より3ランク優る。F 収量性は「ヒメノモチ」並で、粒大はやや小さい。品質に関して、青未熟粒がやや目立つが、形質や色沢、白度等を加味すると、総合的に「ヒメノモチ」および「こがねもち」と同等である。G 餅つき後の硬化が「ヒメノモチ」よりも早く、切り餅および丸め餅に対する加工適性に優れる。H 食味は丸め餅でコシが強く、伸びは悪いが、総合的には「ヒメノモチ」並である。また、おこわでは「ヒメノモチ」を上回る評価である。(4)栽培普及地帯は県内の阿武隈山間地域である。(5)耐倒伏性がやや弱く、青未熟粒により品質が低下する場合があるため、多肥栽培は避け、適期刈取りに留意する。