著者
金間 大介 野村 稔
出版者
科学技術・学術政策研究所 科学技術動向研究センター
雑誌
科学技術動向 (ISSN:13493663)
巻号頁・発行日
no.142, pp.13-18, 2014-01 (Released:2014-02-13)

農林水産省の調査によると、約50%の営農者がこれまでの農業経営において情報通信技術(IT)を利用しており、かつ今後も利用したいと答えている。ただし、その多くが比較的簡易な利用に留まっており、農業生産の飛躍的な向上が期待されるようなIT の利用はわずかとなっている。 農産物の生産量や品質は気温、日射量、土壌水分、施肥量などの影響を大きく受ける。適切な生産管理により収益を向上させるためには、これら環境データと実際に収穫した収量データをつき合わせ、最適な施肥量や作業時期を決める必要がある。そこで環境データをセンシングできるデバイスやカメラ等の観測機器を設置し、各地点の環境データや生育状況がリアルタイムで入手できるシステムの開発・導入が進められている。また、収集されたデータの蓄積・分析・活用の面でも、クラウドサービスを中心とした取り組みの進展がみられている。 こうした農業へのIT 導入の動きを活かし、大きな成果に結びつけていくためには、地域の大学・自治体と関係政府機関が協力して、IT の導入をサポートできる人材の確保・充実、現場におけるIT 利用の実証、知識や成果の共有促進などの施策により、営農者のIT リテラシーの向上を図っていくことが望まれる。
著者
林 和弘
出版者
科学技術・学術政策研究所 科学技術動向研究センター
雑誌
科学技術動向 (ISSN:13493663)
巻号頁・発行日
no.142, pp.25-31, 2014-01 (Released:2014-02-13)

公的資金を得た研究成果に誰でもアクセスできるようにするオープンアクセス(OA)は、電子ジャーナルの進展と共に広がりを見せ、その存在感を増してきた。 OAは学術ジャーナルの寡占と価格高騰問題から生まれたとも言えるが、現在はオープンサイエンスなどオープンイノベーションを生み出す新しい研究開発環境の構築や研究開発投資の費用対効果を上げるために重要な要素と考えられている。こうした背景から、研究成果のOA義務化の動きが近年世界レベルで加速し、多くの国や研究機関において義務化ポリシーが策定されている。 一方、OAと親和性が高く科学の発展が期待される分野だけではなく、知財や国益などの観点からOAが馴染まない分野や事情も存在する。政策面から一律のOA化を短絡的に行うことは慎重を要し、研究者と研究者コミュニティの理解と協働が求められる。当面は科学技術振興機構(JST)で始まった研究助成対象に関するOA義務化を論文から進め、日本学術会議や日本学術振興会等を軸とした研究者による議論を深めることで、日本の事情と時機に合ったOA 化を推進し、新しい情報流通形態に基づく研究基盤の構築を促す必要がある。
著者
科学技術動向研究センター
出版者
科学技術・学術政策研究所 科学技術動向研究センター
雑誌
科学技術動向 (ISSN:13493663)
巻号頁・発行日
no.142, pp.4-12, 2014-01 (Released:2014-02-13)

東京オリンピック開催決定を機に、2020 年に向けて目指すべき姿を早期実現させるための研究開発やシステム改革の議論が活発化している。オリンピックを契機とした日本への注目を好機と捉え、日本の魅力の発信を強化するとともに、その後の発展に繋げていくことが求められている。 そこで、科学技術動向研究センターは、第9 回科学技術予測調査(2010 年)を基に、社会実装に向けて取り組みを加速させるべきと考えられる研究開発テーマの抽出を試みた。2020 年頃までに技術的な目処が立つと予測された課題(トピック)を抽出し、①高度リスク管理・低減技術、②高精度な観測・予測システム、③どこでも電力・情報インフラ、④マルチスケールエネルギーマネジメント、⑤エネルギー・資源の超高効率利用、⑥ゼロエミッション、⑦知的なセンシングによるインフラマネジメント、⑧交通モダリティの革新、⑨インクルーシブ社会の実現、⑩サービス科学によるおもてなし、⑪食と健康、⑫ライフサイエンスの最先端、⑬デジタルファブリケーション、⑭サイエンスによる日本文化・ものづくり伝承、の14 テーマに分類した。
著者
辻野 照久
出版者
科学技術・学術政策研究所 科学技術動向研究センター
雑誌
科学技術動向 (ISSN:13493663)
巻号頁・発行日
no.142, pp.32-39, 2014-01 (Released:2014-02-13)

2013 年は全世界で合計81 回のロケット打上げがあり、通信放送衛星、地球観測衛星、航行測位衛星、宇宙科学衛星(月惑星探査機を含む)、有人宇宙船など32 カ国3 機関より計208 機の衛星が軌道に投入された。2013 年には、韓国初の独自ロケットの打上げ成功、日本と中国それぞれの新型全段固体燃料ロケットの打上げ成功、欧州の新型通信衛星の開発、インドの火星探査機及び航行測位衛星、中国の月着陸機及び月ローバ、米国や新興国の大量の超小型衛星、米国の新たな物資輸送船の登場などの新しい動きがあった。 衛星打上げは全般的に順調に行われ、国際宇宙ステーション(ISS)の運用もほぼ計画通り進められた。 ISS に参加していない中国は、2020 年頃までに独自の宇宙ステーションの構築を計画しており、2013 年は有人宇宙船「神舟10 号」と軌道上のドッキングターゲット「天宮1 号」とのドッキングを成功させ、有人飛行実績を着実に積み重ねた。2014 年も宇宙開発利用に参加する国が増加していくと見込まれる。