著者
櫻田 宏一
出版者
科学警察研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、神経ガス中毒治療における血液脳関門(BBB)通過可能な新たな解毒剤の開発を目的としている。はじめに、有機合成した種々のパム類似体の中から解毒作用の強いものを選択する上で、従来からAChE活性測定法として知られているアセチルチオコリン(ASCh)用いた方法では、2-PAMを含めたオキシム類が容易にASChを分解することが確認され、これまで報告された多くの活性データについては再検証が必要であることが明らかとなった。次に、合成したパム類似体の中で、INMP(sarin類似体)によって阻害されたヒト血球AChE活性の復活の程度が比較的強かった化合物6種類、2-hydroxyiminomethyl-N-[p-(tert-butyl)benzyl]pyridinium(これを2-PATBとする。他は略称のみ記載する)、3-PATB、4-PATB、4-PAPE、4-PAD、4-PAOOを選択し、ラット静注によるLD50(mg/kg)を求めたところ、4.3〜21.9mg/kgと、2-PAM(約150mg/kg)に比べて極めて毒性の強いことが明らかとなった。そこで、LD50の10%濃度をそれぞれ調製し、ラット尾静脈から投与後、ブレインマイクロダイアリシス法により、1時間ごとに3時間までの透析液をラット脳より回収した。これまで、2-PAMの検出にはHPLC-UVを用いていたが、投与したパム類似体はいずれもUV吸収が極めて低く、検出が困難であったことから、LC-MS/MSにより検出を行った。その結果、4-PAPEと4-PAOが透析液中に検出され、BBBを通過する可能性が示唆された。
著者
藤浪 良仁
出版者
科学警察研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、微生物のMALDI質量分析法が細菌芽胞・栄養型細菌・真菌およびウイルス(バクテリオファージ)などの微生物の種類にかかわらず、生物学的因子を迅速にスクリーニングするための強力な方法であることを確認した。さらに微生物培養液の不純物や賦形剤を含むことの認識は、生物剤の生産方法の認識に役立つ可能性がある。微生物種を識別して同定する能力は、生物学的因子、食物媒介性病原体の同定、および感染性微生物の臨床分析を含む多くの潜在的な応用の可能性を有する。法科学において、未知物質の取り扱いは最も困難であるが、この方法は迅速な微生物スクリーニングを可能にする。
著者
宮口 一
出版者
科学警察研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

殺人や性犯罪などに悪用される催眠鎮静薬の摂取を毛髪から証明するための実用的な分析法の開発を行った。毛髪分析で正しい定量値を得るためには抽出効率が極めて重要であるため、実際の薬物摂取者の毛髪を用いて抽出効率の最適化を行った。最終的に、13種類の代表的な催眠鎮静薬についての毛髪分析法を確立した。これまでに報告されている分析法と比較した結果、本開発法は抽出時間が最も短い(10分)うえに、「必要な毛髪量×定量下限」が最も小さく(5 pg)、既存の分析法よりも優れた方法であると考えられた。
著者
黒沢 健至
出版者
科学警察研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

動画像に施された画像改ざんに対する検出法に関する開発を行った。本研究では、CCDやCMOSなどの半導体撮像素子における画素ごとの電気特性のばらつきに起因する個体特徴を利用して、改ざんの有無並びに改ざんの時空間位置の特定を行うことに特色がある。撮影に用いられたカメラが既知で入手可能な場合にはコンテンツ改ざんやシーン挿入を検出できたほか、撮影カメラが未知の場合でもシーン挿入を検知可能な方法を開発した。
著者
岩田 祐子
出版者
科学警察研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

安定同位体組成を用いた大麻の異同識別(押収試料同士の関連性を明らかにすることを目的として、試料同士が異なるか同一かを判断する)について検討を行った。乾燥大麻中の大麻主成分について、ガスクロマトグラフ-安定同位体比質量分析装置を用いた分析方法を確立した。異なった被疑者から得られた資料同士の異同識別を行い、成分ごとの安定同位体組成を用いることにより識別することが可能となることを確認した。
著者
井上 博之 岩田 祐子
出版者
科学警察研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

:直接導入型質量分析計を用いて、エクスタシー錠(MDMA含有錠剤、アンフェタミン及びカフェイン含有錠剤等)や医薬品錠剤(アセトアミノフェン、ジアゼパム等含有)中の成分を迅速に判定する手法を開発した。また、薬物添加尿についても適用可能であった。本法は、遺留試料や尿試料からの薬毒物スクリーニング法として利用可能であると考えられた。また、シルデナフィル関連化合物の分析法や覚せい剤の迅速な定量分析法を開発した。
著者
島田 貴仁
出版者
科学警察研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、各種犯罪に対する一般市民のリスク認知特性を探るための構造的な質問紙調査、防犯対策を実施中の自治体住民を対象にした調査、各種条件を統制した防犯情報の提示実験の3研究を行った。その結果、リスク認知特性は2因子を有すること、住民パトロールによってリスク認知を高めることは可能だが、住み心地を下げるおそれがあること、一般市民に、犯罪の知識と、有効な対処方法を伝えることが、犯罪不安をあおらずに対処行動につながる可能性があることが示された。
著者
島田 貴仁
出版者
科学警察研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

犯罪不安(Fear of Crime)は、犯罪や、犯罪に関連するシンボルに対する情緒的反応と定義される(Ferraro,1995)。日本では近年、犯罪の増加に伴い犯罪不安の高まりが指摘されるようになったが、犯罪不安に影響する性別、年齢などの個人差、犯罪発生率との関係などの地域差に関する基礎的な研究が不足している。このため、本研究では1)日本における犯罪不安の測定尺度の確立2)犯罪率が異なる複数地区における犯罪不安の比較、3)リスク知覚を含めた犯罪不安の説明モデルの構築を目的とする。本年度は、予備的な分析として、JGSS(日本版総合社会調査)、ICVS(国際犯罪被害調査)の犯罪リスク知覚(FEARWALK,近隣で危険を感じる場所の有無)を被説明変数にした再分析を行った。米国での知見と同様に、女性は男性よりも、若年者は高齢者よりも犯罪リスクを知覚している割合が高いことが示された。ロジスティック回帰分析の結果、性別、既婚・未婚、年齢が有意にリスク知覚を予測した。また、パス解析により、犯罪リスク知覚が居住満足感を低減させ、政府の犯罪取締支出に対してより許容的にさせることが示された。変数FEARWALKは、米国の世論調査ではデファクトになっているが、構成概念妥当性への疑義や、個人の犯罪不安の程度を示すことができないといった欠点が指摘される。このため、空き巣やひったくりなど12の犯罪について「被害にあう心配」を4件法で尋ねる犯罪不安尺度を構成した。確認的因子分析の結果、財産犯と身体犯の2因子構造をもち、犯罪不安の性差は身体犯不安に起因することなどの知見が得られた。今後、HLM(階層線形モデル)を用いて、個人差と地域差とを統合した分析を行う予定である。