著者
牧内 義信 佐藤 幸也
出版者
関東学院大学理工学部建築・環境学部教養学会
雑誌
科学/人間 (ISSN:02885387)
巻号頁・発行日
no.50, pp.73-136, 2021-03

新学習指導要領による高等学校教育の本格実施が迫っている。改訂された学習指導要領は、新教育基本法と関連する法律等の整備を踏まえた上で、従来の教育改革の流れを汲みながら、より一層学校教育のカリキュラム編成や教育方法等まで踏み込んだ内容となっている。思想と手法は新自由主義によるものと言えるが、日本社会が構造的に抱える緊急的課題に応えかついわゆる"Society 5.0"なども意識した学校の在り方、教授方法の改善等まで細かに論じたものとなっている。そうした改善、改革には一定の説得性はあるものの、実際の現場に対してはより一層負担を強いるものとなっていることも無視してはならない。「ブラック」職業とまで揶揄されるようになった教職は、その尊厳性や専門性などが毀損されている。ここでは、保護者などが持つ教育政策への不満などが国家、政府ではなく直接的に教育委員会や学校の教職員に向けられることも珍しくなく、本来であれば教育の専門家である教職員と保護者、地域の関係者などが児童生徒を核にして公教育のよりよい実践を目指して連携・協力し合う関係が築かれることが望ましいにもかかわらず、児童生徒も含めてそれらの関係性は分断されている実態がある。マスコミなどで取り上げられるような一部では成立しているように見えるものの、臨教審以来の新自由主義と市場化が進められた結果(地方自治の基盤劣化も含め)、識者の間では「公教育の崩壊」という言葉さえ聞かれるようになった。生徒と教師の学びの共同体である学校、授業の改善にほとんどの教職員は誠実に取り組もうとしているが、やればやるほど心身にダメージを蓄積することや生徒(子どもたち)の「学びからの逃走」、健全に成長発達することの危機の諸相は深刻になっている。その一つとして懸念されているのが現場の実態を無視したICTの推進である。久里浜にある国立の医療・教育機関の医師などは新たな病理としての「スマホ依存症」などITの普及に伴うリスクに警鐘を鳴らしているが、欧米各国でもこの問題は切実なものとして受け止められている。ドイツや北欧などで自然体験を豊富にそろえた教育プログラム(例えば森の中の学校園やシュタイナースクールなど)、イギリスで行われたスマホを捨て野に出ようというようなルソーの思想的、方法的流れを汲むような教育実践、教育ファーム(近年ではCity Farmという名称が使われるようになった)での学びは、人間性を呼び起こす、日本的な言い方をすれば「健全育成」が図られている。蛇足かも知れないが、平成以降の学習指導要領では「体験」学習の重要性が繰り返し述べられている。しかし、そのための条件整備はあまり進められておらず、豊かな自然体験に預かれるのはどちらかと言えば富裕層の児童生徒であり、体験学習においても格差が拡大している。現代の社会的病理の蔓延と将来的リスクの増大などはSDGsの重要な学習課題でもあり、それらは学校の教職員だけでは到底対応しきれない問題である。そこで、各教育委員会や高等学校では従来の理科教育の在り方を見直し、サイエンスとして学ぶこと、サイエンスとしての学びが未来の社会を担う公民・市民(国民)として「生きて働く」学力形成を目指す方向に行きつつある。大学入試に大きな影響を受けるが、高大連携や中学高校との一貫した自然科学の教育の内容と方法、それを具体的に実践する「授業」の場をどのように構築していけばいいのか模索している。本研究では、上記のことを意識しつつ、これまで高等学校教育について検討、考察してきたこと等を活かしながら、新学習指導要領の趣旨を踏まえ、課題解決に向かう学力と生きる力の形成を目指す高等学校理科の教育指導計画、授業改善の具体を示すものである。
著者
藪崎 聡
出版者
関東学院大学理工学部建築・環境学部教養学会
雑誌
科学/人間 (ISSN:02885387)
巻号頁・発行日
no.48, pp.157-162, 2019-03

武道離れの著しい昨今において、戦前に制定された綜合武術格闘術は工夫次第では現代の日本で自国文化の確認や国技愛好の面で貢献しうるものであることを述べた。今回の研究では、綜合武術格闘術の技術再編を開始し、武道の初歩的な技術を体得し、また護身術として活用できる体系への移行の第一歩として構成と試論を行う。技術考察の結果、最も中心となる技法は武器使用では、杖を用いての斜め振り下ろし左右、そして左右突き、徒手では前方回転受身の体得に加え、正拳中段突き左右、中段内受け左右種類は少ないが、まずはこの単純な動作の反復からスピーディーな体得と日々の修練の実施が可能になるであろうよ考えられる。応用技法は様々な広がりが期待できるが、それだけに全ての武器使用や身体操法に関わる根本動作は少数で体得しやすいシンプルなものを選ぶのがよいと考えた。
著者
小林 桂一郎
出版者
関東学院大学理工学部建築・環境学部教養学会
雑誌
科学/人間 (ISSN:02885387)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.43-70,

生成文法では一般的に定型節をA移動によって越える依存関係は英語では観察されないとされているが、依存関係のθ位置に代名詞が位置する構文としては、所謂転写繰り上げ構文(copy raising construction)(本文例文(1))の存在が観察されてきた。英語内における特異な統語的性質から、転写繰り上げ構文には様々な分析が提案されてきた。一方、Bruening(2001)によるアルゴンキン語族(Algonquian)、パサマコディ語(Passamaquoddy)の「目的語上昇構文」の分析の枠組みの中においては、類型的な観点からは、英語の転写繰り上げ構文はA移動を含む構文として、その存在を予測される構文であると考えることが出来る。即ち、英語の転写繰り上げ構文は、名詞句のA移動を含むが、それは従来の分析のように補文内のθ位置からではなく、補文CPの指定部からの移動であると考えられる。その移動はそれのみでは適切なA連鎖を形成できないが、補文内のθ位置を上位文においてA移動する名詞句と同一指示的な代名詞が占めることによって、A移動する名詞句と代名詞とが「拡大的なA-連鎖」を構成することが可能になると考えられる。そしてその場合の「拡大的なA-連鎖」はパサマコディ語(Passamaquoddy)において「目的語上昇構文」が派生される際の二通りの可能な派生のうちの一つの派生と同様の派生を経ていると考えられる。