著者
保井 孝太郎 竹上 勉 小島 朝人 松浦 善治 宮本 道子 木村 純子 KIMURA-KURODA Junko 荻本 真美
出版者
(財)東京都神経科学総合研究所
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1989

日本脳炎ウイルス(JEV)が属するフラビウイルスは、世界中に70種にのぼるウイルス種が存在しており、総合的で有効な対策が待たれている。現在黄熱病ウイルス、JEV、ダニ媒介脳炎ウイルスに対する生および不活化ワクチンが使用されているが、それぞれに問題点を含んでおり新しい形のワクチンの開発が要請されている。そこで、組換えDNA技術を用いてJEVに対する新しいワクチンの開発をはかり、他のフラビウイルスに対するワクチンの開発の基盤となる技術的・方法論的知見を提供することを目的として、研究を行なった。組換えバキュロウイルスおよびワクチニアウイルスを用いた研究によって、以下のことが明らかになった。1,ウイルス粒子エンベロ-プに存在する構造蛋白E,preM,Mは、ポリプロテインとして合成された後、細胞の酵素によって切断プロセシングされて完成する。2,これらの蛋白の上流にはシグナル配列があり、正常な抗原構造を持った構造蛋白を発現させるためには、正常にプロセシングされることが必要である。3,ウイルス粒子上のE蛋白は、E蛋白単独またはpreM,M蛋白とともにオリゴマ-を形成しており、モノマ-状態のE蛋白に比べて抗原的に安定であり免疫原性も高い。4,E蛋白をオリゴマ-粒子として細胞外に大量に産生・放出させ得る、組換えウイルス発現系を開発することができた。5,蛋白上の中和抗体エピト-プの位置を明らかにできた。6,E蛋白の一部分と融合し、中和などの特定にエピト-プのみを含むHBsAg粒子を産生する系を、開発することができた。以上の成果から、JEVを初めとするフラビウイルスの新しい人工コンポ-ネントワクチンを開発するための基本的な方法を提示することができたと言える。
著者
矢尾板 芳郎
出版者
(財)東京都神経科学総合研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1.RNase Hによるsubtraction libraryの手法の確立した。その応用によりオタマジャクシの退縮中の尾に誘導される遺伝子のクローニングを行った。10種類程の遺伝子が得られ、その発現様式から3グループに分類された。第1グループは脳、眼球、後肢、尾にすベてに発現しているものである。第2グループは後肢と尾に発現されている。第3グループは退縮している尾に特異的に発現されている。2.変態前のオタマジャクシの尾から、甲状腺ホルモン非存在下で初代培養を始め、いくつかの継代培養可能な細胞株がいくつか得られた。そのうちの少なくとも1つ(12T-15)に、変態時に観察される血中量にほぼ同じ10nMの甲状腺ホルモンT3を添加すると、その細胞は1-2週間のうちに培養皿から死んで離れていく。培地に加えてある10%牛胎児血清を1%馬血清に代えて5日後、抗トロポニシンT抗体で染色すると、強いシグナルを得た。このことは、この細胞が筋芽細胞由来であることを意味する。3.退縮中の尾に特異的に誘導される遺伝子のうちで、細胞株12T-15を甲状腺ホルモンで処理して1日以内に誘導されるものは第3グループに属している1個の遺伝子だけであった。甲状腺ホルモン処理4時間後から甲状腺ホルモン受容体β遺伝子が発現され、8時間後からclone T6-5-12のmRNAが増加していた。甲状腺ホルモン受容体β遺伝子は処理前から発現されていた。そのことから甲状腺ホルモンが既存の甲状腺ホルモン受容体αと結合して甲状腺ホルモン受容体β遺伝子を活性化し、甲状腺ホルモンと複合体を形成し、更にclone T6-5-12の転写を開始させたと考えられる。その遺伝子の塩基配列を決定してホモロジー検索したが、何の類似性も得られていない。細胞株12T-15に、退縮中の尾に特異的に発現されている遺伝子を導入することにより細胞死の分子機構を解明できると考えられる。