著者
金井 陸行 木下 浩一
出版者
(財)田附興風会
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

我々は臨床における創傷治癒機転と治癒不全病態を分子生物学的の解析することにより、日常の臨床現場で遭遇する消化管再建後の治癒不全、即ち縫合不全の発生を減じることを目的として研究を行ってきた。創傷治癒遅延、縫合不全発生の主たる原因である低酸素環境下での腸管上皮細胞の動態に着目し、種々の腸管上皮由来細胞株の低酸素条件下での培養条件を確立、低酸素条件下では消化管粘膜の修復機転の第一相であるrestitution(創傷面に隣接する上皮細胞の遊走)は著しく遅延していたが、当初注目していた消化管上皮細胞に比較的特異的に発現されている線維芽細胞増殖因子受容体タイプ3(FGFR3 III-b)の遺伝子発現に大きな差は認められず、この受容体のrestitutionへの貢献は少ないと考えられた。そこでFGFR3に関しては消化器癌との関連で研究を継続し、以下の研究成果を得た。膜貫通型FGFR3の発現上昇消化器系癌患者より、癌組織及びその周辺の正常組織を収集し、癌の悪性化過程におけるFGFR3-IIIb、FGFR3-IIIcの発現を解析した。その結果、FGFR3-IIIcが食道癌、大腸癌で上昇することを明らかにした。FGFR3c誘導発現細胞のFGF2に対する応答能の獲得in vitroの病態モデルとして扁平上皮癌細胞株DJM1を用いて、FGFR3-IIIcの発現上皮細胞はFGF2と協調することで癌悪性化を獲得できるか検討した。FGFR3-IIIcを発現誘導ベクターに組み換えてDJM1細胞に遺伝子導入し、FGFR3-IIIcの発現を誘導した結果、FGFR3-IIIcの発現を誘導しない細胞はFGF2刺激での足場非依存性増殖は促進されなかったが、FGFR3-IIIcの発現を誘導すると、FGF2刺激により足場非依存性増殖が著しく促進した。また、FGFR3-IIIc誘導発現過剰細胞はFGF2刺激によって高い遊走能を獲得した。以上の結果よりFGFR3-IIIc過剰発現細胞はFGF2と協調して癌悪性化を獲得することが明らかになった。可溶性FGFR3の発現上昇本研究の過程で、消化器系上皮細胞に可溶型FGFR3が発現していることを明らかにした。可溶型FGFR3は、FGFR3遺伝子から膜貫通部位を欠損したmRNAが選択的スプライシングにより生じて発現するが、この受容体が正常のヒト食道粘膜組織において発現されていることを確認した。胃および大腸においては正常組織における可溶型FGFR3の発現率は非常に低いが、癌部においてその発現が高まることを見いだした。以上の結果から、大腸と胃では可溶型FGFR3の発現と癌悪性化には何らかの関連性があることが示唆された。
著者
石川 正恒
出版者
(財)田附興風会
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

1) 脳エネルギー代謝への影響ラットを用いた実験で、single spredding depresion(SD)の負荷では5分以内に刺激局所の大脳皮質にalkalosisを認め、続いて同側大脳皮質全域に広がるacidosisの波が観察された。これらは約20分で回復した。ATPはacidosisの発生回復と一致して枯渇回復を示した。120分間の繰り返しSD刺激ではacidosisとATP枯渇が認められたが、45分以後はこの変化が減弱し、60分以後はほとんどみられなくなった。その後にSDの負荷をおこなっても6時間まではacidosisとAPT枯渇は観察されなかった。2) アポトーシスとの関連SDをあらかじめ負荷しておくことにより、脳虚血負荷による大脳皮質での神経細胞の脱落が抑制された。ネクローシスの割合は負荷群と非負荷群で有意差は認めなかった。3) カルシウムホメオスターシスSD負荷によるカルシウムホメオスターシスの変化は組織化学的には認められなかった。以上より、SDは脳虚血による大脳皮質神経細胞の脱落を防止し、このSDによる虚血耐性はアポトーシス防止によるもとと考えられた。