著者
木下 浩一
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.19-35, 2018-12-12 (Released:2019-02-02)
参考文献数
41

放送制度では多元性・多様性・地域性が重視されてきたが,地上波テレビにおいては東京一極集中が進行している。しかしながら1975年以前には,フリーネットやクロスネットが存在し,現在よりも多様性が高かった。なかでも,教育局である日本教育テレビ (NET) と準教育局である毎日放送テレビ (MBSテレビ) によるネットワークは,多様な展開をみせた。一方でNETとMBSテレビは,教育局・準教育局ゆえに,教育番組や教養番組であっても視聴率がとれる番組を追求した。その結果,1960年代末にクイズ番組が大量に編成された。「クイズ局」と呼ばれたこの現象は,商業教育局による特異なネットワークにおいて,いかにして生じたのだろうか。本稿では,「クイズ局」という事象を史的に分析し,番組種別の規制がネットワークを通じて傘下の送り手に与えた影響を明らかにした。結論は以下の通りである。「クイズ局」という現象は,クイズ番組という形式が,教育局が量的規制をクリアしつつ高い娯楽性を実現するのに有効であったと同時に,ネットワークを組んだ在阪局が東京へ情報発信する上で有効な形式であったがために生じた。番組種別の量的規制は,規制対象の局に影響を与えるだけでなく,ネットワーク関係にある局に対しても影響を与えたことが確認された。
著者
木下 浩一
出版者
日本メディア学会
雑誌
メディア研究 (ISSN:27581047)
巻号頁・発行日
vol.103, pp.173-192, 2023-07-31 (Released:2023-10-24)
参考文献数
20

Since Tuchman’s (1978) analysis of newsroom routines, related case studies have been accumulating in the United States for over 40 years. Many studies have employed ethnographic methods to examine how news workers gatekeep news. In recent years, Mari (2016) has attempted to describe a social history of the newsroom, furthering its contextual understanding.    This research tried to describe the social history of the "photographers" who belonged to major Japanese newspaper companies after World War II, using the Shinbunkenkyu as the source material and extracts the dominant factors and contexts in postwar Japan.    The following are the extracted factors and contexts.     1) The first factor is education: Higher education influenced the rise of the photographers’ status in Japanese newsrooms. Professional education in photography had a short-lived impact and was replaced by higher education as general education. In the United States, it was professional education in higher education that elevated the status of photographers, contrary to Japan’s case.     2) The second factor is technological advancements: In Japan in the 1990s, the spread of electronic cameras, the ease of sending photos electronically, and the systematization of newsrooms limited the rise of the photographers’ status in newsrooms. Whereas in the United States, this elevated their status. The difference between Japan and the United States arose from the combination of other technologies.     3) The third factor is labor unions: Japanese labor unions aimed for uniform treatment in newsrooms, and the unintended consequence was curbing the differentiation of news workers. In the United States, where weekly wages were set for each type of job, labor unions promoted the differentiation of news workers.    4) The fourth factor is specific coverage area and news sources: The lack of specific coverages areas and news sources has had significantly impacted their status in newsrooms.
著者
木下 浩一
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.125-141, 2019

<p>情報格差が拡大するなか,手軽に情報が摂取できる地上波テレビは,情報弱者にとって重要性を増している。現在,日本の地上波テレビは,大量のソフトニュースで編成されている。例えば日本テレビは,月曜から木曜の朝4時から夜7時の15時間のうち,14時間35分をソフトニュースで編成している。日本におけるソフトニュースの嚆矢は,1964年に日本教育テレビ(NET,現在のテレビ朝日)で放送が開始された《木島則夫モーニング・ショー》であるとされる。1960年代のNETは,ニュースショーというジャンルを牽引する存在であった。</p><p>本稿は,1960年代のNETという送り手を事例に,送り手がどのような意志のもとニュースショーという形式を決定していったのかを,当時の社会状況などを含めて史的に分析した。この分析から,①ニュースショーの原型は,どのような形式の番組であったのか。②ニュースショーという新しい番組形式をもたらした要因や主体は何だったのかを明らかにした。</p><p>結論は次の通りである。①内容はコーナーなどによって細部化され,教育的な内容も娯楽化されて取り込まれた。帯の生番組という編成形式は不変であり,細分化された内容は視聴率によって迅速に見直された。送り手内部では,内容と作り手が分離され,内容の見直しの自由度が向上した。②NETが商業教育局であったことが,大きな要因のひとつであった。NETにおけるニュースショーという形式は,ラジオの経験者と雑誌編集の経験者という主体によってもたらされた。NETが教育局であったために,番組種別上の「教育」と「報道」の混交が生じ,さらに「娯楽」の要素も付加されたことが,付随的に明らかになった。</p>
著者
金井 陸行 木下 浩一
出版者
(財)田附興風会
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

我々は臨床における創傷治癒機転と治癒不全病態を分子生物学的の解析することにより、日常の臨床現場で遭遇する消化管再建後の治癒不全、即ち縫合不全の発生を減じることを目的として研究を行ってきた。創傷治癒遅延、縫合不全発生の主たる原因である低酸素環境下での腸管上皮細胞の動態に着目し、種々の腸管上皮由来細胞株の低酸素条件下での培養条件を確立、低酸素条件下では消化管粘膜の修復機転の第一相であるrestitution(創傷面に隣接する上皮細胞の遊走)は著しく遅延していたが、当初注目していた消化管上皮細胞に比較的特異的に発現されている線維芽細胞増殖因子受容体タイプ3(FGFR3 III-b)の遺伝子発現に大きな差は認められず、この受容体のrestitutionへの貢献は少ないと考えられた。そこでFGFR3に関しては消化器癌との関連で研究を継続し、以下の研究成果を得た。膜貫通型FGFR3の発現上昇消化器系癌患者より、癌組織及びその周辺の正常組織を収集し、癌の悪性化過程におけるFGFR3-IIIb、FGFR3-IIIcの発現を解析した。その結果、FGFR3-IIIcが食道癌、大腸癌で上昇することを明らかにした。FGFR3c誘導発現細胞のFGF2に対する応答能の獲得in vitroの病態モデルとして扁平上皮癌細胞株DJM1を用いて、FGFR3-IIIcの発現上皮細胞はFGF2と協調することで癌悪性化を獲得できるか検討した。FGFR3-IIIcを発現誘導ベクターに組み換えてDJM1細胞に遺伝子導入し、FGFR3-IIIcの発現を誘導した結果、FGFR3-IIIcの発現を誘導しない細胞はFGF2刺激での足場非依存性増殖は促進されなかったが、FGFR3-IIIcの発現を誘導すると、FGF2刺激により足場非依存性増殖が著しく促進した。また、FGFR3-IIIc誘導発現過剰細胞はFGF2刺激によって高い遊走能を獲得した。以上の結果よりFGFR3-IIIc過剰発現細胞はFGF2と協調して癌悪性化を獲得することが明らかになった。可溶性FGFR3の発現上昇本研究の過程で、消化器系上皮細胞に可溶型FGFR3が発現していることを明らかにした。可溶型FGFR3は、FGFR3遺伝子から膜貫通部位を欠損したmRNAが選択的スプライシングにより生じて発現するが、この受容体が正常のヒト食道粘膜組織において発現されていることを確認した。胃および大腸においては正常組織における可溶型FGFR3の発現率は非常に低いが、癌部においてその発現が高まることを見いだした。以上の結果から、大腸と胃では可溶型FGFR3の発現と癌悪性化には何らかの関連性があることが示唆された。
著者
木下 浩一
出版者
Kyoto University
巻号頁・発行日
2020-03-23

新制・課程博士
著者
木下 浩一
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.19-35, 2018

<p>放送制度では多元性・多様性・地域性が重視されてきたが,地上波テレビにおいては東京一極集中が進行している。しかしながら1975年以前には,フリーネットやクロスネットが存在し,現在よりも多様性が高かった。なかでも,教育局である日本教育テレビ (NET) と準教育局である毎日放送テレビ (MBSテレビ) によるネットワークは,多様な展開をみせた。一方でNETとMBSテレビは,教育局・準教育局ゆえに,教育番組や教養番組であっても視聴率がとれる番組を追求した。その結果,1960年代末にクイズ番組が大量に編成された。「クイズ局」と呼ばれたこの現象は,商業教育局による特異なネットワークにおいて,いかにして生じたのだろうか。</p><p>本稿では,「クイズ局」という事象を史的に分析し,番組種別の規制がネットワークを通じて傘下の送り手に与えた影響を明らかにした。結論は以下の通りである。「クイズ局」という現象は,クイズ番組という形式が,教育局が量的規制をクリアしつつ高い娯楽性を実現するのに有効であったと同時に,ネットワークを組んだ在阪局が東京へ情報発信する上で有効な形式であったがために生じた。番組種別の量的規制は,規制対象の局に影響を与えるだけでなく,ネットワーク関係にある局に対しても影響を与えたことが確認された。</p>
著者
木下 浩一
出版者
日本コミュニケーション学会
雑誌
日本コミュニケーション研究 (ISSN:21887721)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.29-48, 2019-11-30 (Released:2019-12-03)
参考文献数
34

Audio Visual Translation (AVT) is essential for importing and exporting moving pictures overseas. Dubbing and subtitling are the two processes involved in AVT. While dubbing is mainstream in Japanese terrestrial TV broadcasting, this was not the case at its inception. Dubbing emerged as a way to facilitate interaction between senders and audiences. This research investigated the dubbing process in NET (Nippon-Educational-Television, current TV Asahi). NET was the forerunner of AVT in Japanese TV from the 1950s to the 1970s. The translation norms of the sender were clarified by analyzing chronological changes in the form of the AVT used and the interaction between senders and audiences in Japanese TV. The study draws the following conclusions: 1) A significant degree of overlap exists between accountability and expectancy norms. The strength of expectancy norms was emphasized by Chesterman (1997) and was verified by this study. 2) Comprehension and naturalness used to be viewed as the standard in expectancy norms. However, the growing emphasis on richness and identity of expression overtook these previously held standards. 3) The norms were found to be stronger for adult programs and theater-movies than for children’s programs and television movies.
著者
木下 浩一
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.125-141, 2019-12-31 (Released:2020-01-18)
参考文献数
42

情報格差が拡大するなか,手軽に情報が摂取できる地上波テレビは,情報弱者にとって重要性を増している。現在,日本の地上波テレビは,大量のソフトニュースで編成されている。例えば日本テレビは,月曜から木曜の朝4時から夜7時の15時間のうち,14時間35分をソフトニュースで編成している。日本におけるソフトニュースの嚆矢は,1964年に日本教育テレビ(NET,現在のテレビ朝日)で放送が開始された《木島則夫モーニング・ショー》であるとされる。1960年代のNETは,ニュースショーというジャンルを牽引する存在であった。本稿は,1960年代のNETという送り手を事例に,送り手がどのような意志のもとニュースショーという形式を決定していったのかを,当時の社会状況などを含めて史的に分析した。この分析から,①ニュースショーの原型は,どのような形式の番組であったのか。②ニュースショーという新しい番組形式をもたらした要因や主体は何だったのかを明らかにした。結論は次の通りである。①内容はコーナーなどによって細部化され,教育的な内容も娯楽化されて取り込まれた。帯の生番組という編成形式は不変であり,細分化された内容は視聴率によって迅速に見直された。送り手内部では,内容と作り手が分離され,内容の見直しの自由度が向上した。②NETが商業教育局であったことが,大きな要因のひとつであった。NETにおけるニュースショーという形式は,ラジオの経験者と雑誌編集の経験者という主体によってもたらされた。NETが教育局であったために,番組種別上の「教育」と「報道」の混交が生じ,さらに「娯楽」の要素も付加されたことが,付随的に明らかになった。