- 著者
-
近藤 民代
- 出版者
- (財)阪神・淡路大震災記念協会(人と防災未来センター)
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2005
同時多発テロ後のロウアーマンハッタン地区の復興プロセスと都市空間の変容について明らかにするために,復興計画プロセスに関与した専門家に加えて,ニューヨーク市都市計画局(CPD),市住宅修復開発局(HPD),地元のビジネス・インプルーブメント・ディストリクト(Alliance for Downtown New York)などにインタビュー調査を実施すると同時に,集収した関係資料を用いて復興事業を分野別に分類し,その事業の内容と成果について分析した。復興の名のもとに行われた災害直後の人口回復を目的とした住宅に対する家賃補助政策や,住宅のリノベーション事業に対する補助金の支給,オープンスペースの創出や河川整備事業や周辺の開発などの復興事業を通して,同地区はビジネス地区から住宅や商業機能を含めた用途混在型の地区へと変貌を遂げており,これは災害前から進められていた市の方針である「複合開発路線」を一層加速することにつながったことを明らかにしている。同地区における復興は,自然災害とは異なり,米国本土を襲った初めての大危機に対する連邦政府の威信をかけた政治的意図が大きく影響し,単なる復旧にとどまらない事業に資金が投入された点も特異な点である。また,復興事業の推進にあたってはニューヨーク市当局にとどまらず,地域のコミュニティ開発法人に直接補助金を支給することによって地域の復興を支援しており,復興の推進者は地元行政組織だけではなく地域の非営利組織も大きな主体として関与していた。ただ,人口の入れ替わりをみると,若年世帯が増加し,同地区の居住者の収入は上昇しており,同地区の居住者層の年齢構成や収入階層には変化が見られ,空間変容だけではな居住者階層において変化があったことが明らかになった。