著者
河野 菜摘子 吉田 恵一 原田 裕一郎 大浪 尚子 竹澤 侑希 宮戸 健二
出版者
JAPANESE SOCIETY OF OVA RESEARCH
雑誌
Journal of Mammalian Ova Research (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.191-197, 2010 (Released:2010-12-03)
参考文献数
22

受精は,新しい生命の誕生には必要不可欠で,多段階の過程を経て細胞融合にいたる現象である(図1).その多段階の過程のうちの1つでも異常が認められると,受精の進行が妨げられ,次世代の個体ができなくなる“不妊”という生命のサイクルにとって致命的状況を招いてしまう.不妊は動物,植物を含めたすべての生物種の集団としての存続を脅かす難治性疾患とも考えられ,環境および内在性因子の影響から,診断法,治療法など,数々の未解明な問題を含んでいる.Izumoは精子側因子として1),CD9は卵側因子として膜融合に必須であり2–4),精子および卵子の細胞膜に存在すると考えられてきた(図2).しかし最近の研究から,CD9は卵子から放出されるナノサイズの膜構造体の主要な構成成分であることが明らかになった5).本稿では,CD9を介した配偶子融合の分子メカニズムについて紹介したい.
著者
家田 祥子 桑山 正成
出版者
JAPANESE SOCIETY OF OVA RESEARCH
雑誌
Journal of Mammalian Ova Research (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.220-224, 2004 (Released:2004-12-25)
参考文献数
6

ヒトIVF周期において,高妊娠率を維持し,かつ多胎を防止する有効な治療法として,胚盤胞移植が普及しつつある.当院においても,IVF周期の約70%に適応され,成果を挙げている.物理現象および衛生管理の徹底した培養室内において,マルチガスインキュベーターにより市販のヒト胚連続培養用培地を用いることにより,安定して胚盤胞へ発生させることが可能となった.
著者
河村 悠美子 栗原 裕基
出版者
JAPANESE SOCIETY OF OVA RESEARCH
雑誌
Journal of Mammalian Ova Research (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.161-169, 2012 (Released:2012-11-03)
参考文献数
50

初期胚発生は正常な代謝調節のもとに成立している.着床前胚では受精から胚盤胞に至る短期間にダイナミックに代謝経路が変化するが,その攪乱は胚発生の異常のみならず,生後の生理状態や病態形成にも影響を及ぼすことが指摘されている.ミトコンドリアは酸化的リン酸化反応による主要なエネルギー産生源として機能しているが,一方で活性酸素種を副産物として産出するため,酸化ストレスの産生源ともなりうることから,その機能調節は初期胚発生にとって非常に重要である.近年,ミトコンドリアに局在するタンパク質の多くがアセチル化修飾による制御を受けていることが明らかになってきた.本稿では,ミトコンドリアタンパク質の脱アセチル化酵素であるSirt3の機能に注目し,初期胚発生期における脱アセチル化酵素を介したミトコンドリア機能調節に関して紹介する.
著者
Shuji Yamano
出版者
JAPANESE SOCIETY OF OVA RESEARCH
雑誌
Journal of Mammalian Ova Research (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.177-184, 2004 (Released:2004-12-25)
参考文献数
15

本稿では現代の生命倫理学の原則ならびに胚の倫理学的地位について解説した.現代の生命倫理学はベルモント報告書に報告された三つの原則に基づいており,この諸原則は人格の尊重,善行,公正からなっている.この中では人格の尊重がもっとも重要で,優先される.原則同士がコンフリクトするような事例に遭遇した場合,最優先権をある原則に与える必要がある.しかし,どのようにしてひとつの原則を最優先権あるものとして選択するかはいまだに解決されていない問題である.一方,胎児の倫理学的地位を考えた場合,最も重要なことはいつ胚や胎児が人格性を持つかということである.カトリックは受精した瞬間から胚を人格とみなすと1974年に宣言している.しかし,多くの生命倫理学者は自律的な行為者とは,自分の個人的な目的を熟慮でき,その熟慮の結果に従って行動できる人と考えている.この考えに従うと人工妊娠中絶を認めるのみ留まらず,嬰児殺しまで許容することになる.本稿の後半では胎児の倫理学的地位について説明する.