- 著者
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石川 義孝
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
- 巻号頁・発行日
- vol.59, no.1, pp.31-42, 1986-06-01 (Released:2008-12-25)
- 参考文献数
- 25
- 被引用文献数
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空間的相互作用の概念は,今日では一般的に,人・物・情報といった多様な地表上の流れ全般をさすと考えられている.資金の空間的流動も当然その中に含まれるが,このデータを使った空間的相互作用モデルによる分析は従来皆無であった.ところで,無制約型・発生制約型・集中制約型・発生集中制約型の4つのモデルからなる空間的相互作用モデル族は,現在のバラエティに富む空間的相互作用モデルの基礎をかたちつくっている.しかし,既往の経験的研究は,このモデル族に含まれる諸モデルの一部のみを利用してきたにすぎず,当該モデル族の包括的な行動が,現段階で十分に明らかになっているとは言い難い. 本稿は,1899(明治32)年の資料『全国要地為i換取組高地方別表』を利用して,わが国の57都市間送金額のこのモデル族による分析を通じて,上記の課題に答えることを意図している・まず,出発地・到着地の質量項や距離減衰関数の複数の種類を考慮した12のモデルを利用して, 3, 192(57×57.57) にわたる全体フローの分析を行なった.そして, (1)距離パラメータ推定値はモデルごとに一貫した変化を示さない, (2)適合度は無制約型→発生制約型→集中制約型→発生集中制約型モデルの順に高まる, (3)負の指数関数を持つモデルが負のパワー関数を持つものより適合度が良好である,といった知見を得た.既往の成果とのずれは,資金流動と人口流動の性格の違いから説明した. また,全体フローの分析は,対象とした都市群の平均的な姿を示すに過ぎず,都市間の差異を隠すことから,集中制約型モデルによる各都市への為替流入のみに着目した分析も試みた・距離パラメータ推定値は,一般的に・いわゆる六大都市や港湾都市が広い影響圏を持ち,一方,城下町起源の地方都市は狭い影響圏を持つことを物語っている.さらに,適合度の都市間変異は,東京・大阪という2大中心との結びつきの程度によって大きく規定されていることが判明した. 最後に,これまでの空間的相互作用研究は,暗黙のうちに人口流動のみを念頭に置いてきたが,今後は各種のフロー現象の特殊な性格も留意されなければならないことを指摘した。