- 著者
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広田 喜一
- 出版者
- メディカル・サイエンス・インターナショナル
- 雑誌
- LiSA (ISSN:13408836)
- 巻号頁・発行日
- vol.25, no.8, pp.897-905, 2018-08-01
はじめに酸素はヒトの生命維持に必須な分子である。もう少し細かく述べると,酸素はヒトの細胞のアデノシン三リン酸(ATP)産生に必須な分子である。酸素が欠乏するとエネルギーが不足し,生体機能の維持ができなくなる。ミトコンドリアでの酸化的リン酸化,つまり電子伝達系に共役して起こる一連のATP合成反応において,酸素は電子の最終的な受容体として機能しており,酸素が不足すると,NADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)やFADH(還元型フラビンアデニンジヌクレオチド)といった一連の補酵素の酸化と,酸素分子の水分子への還元反応が立ち行かなくなる。その持続的な欠乏は,生体機能の失調を経て個体の死に至る。これが,古典的な酸素観である。 しかし,このような古典的な酸素観は,ここ20年ほどの研究により見直しが進んでいる。哺乳類をはじめとする高等生物は,酸素が生命維持に必須な分子であるのに,その酸素を体内で生合成する仕組みをもたない。高等生物を構成する多臓器は常に「酸素不足」のリスクに曝されており,それ故,生体は低酸素に応答する仕組みを進化的に獲得してきた,とする考え方が支配的になってきている。