著者
広田 喜一 藤井 庸祐
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.858-862, 2020-08-01

SARS-CoV-2感染によって引き起こされるCOVID-19パンデミックがいまだ世界を席捲している。SARS-CoV-2によって誘発される過剰な炎症反応は,感染患者の重症度に相関する。その結果としての急性呼吸促迫症候群(ARDS)は死亡の主な原因となっている。 敗血症に併発する急性肺傷害またARDSは,LiSAの読者である麻酔科医・集中治療医にはなじみの深い病態であると思われるが,本稿では,ウイルス感染がサイトカイン放出症候群,サイトカインストームを経てARDSを引き起こす機序とSARS-CoV-2感染に特徴的な現象について解説してみたい1)。 なお,本稿執筆時点は2020年6月である。
著者
広田 喜一
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
LiSA (ISSN:13408836)
巻号頁・発行日
vol.26, no.11, pp.1057-1059, 2019-11-01

諏訪邦夫先生も常々おっしゃっていたように,酸素は麻酔科医にとって最も重要なガスです。2019年のノーベル生理学・医学賞は,酸素が足りない状態である低酸素の感知機構の基礎研究に与えられることになりました。低酸素状態によるエリスロポエチン(EPO)発現誘導を説明する遺伝子上の領域の同定とその領域に結合する細胞内因子hypoxia-inducible factor 1(HIF-1)の分子クローニングとその活性化の分子機序の解明,つまり「酸素感知-生存のために必須な生命過程」を解明した功績が受賞理由です。
著者
藤井 庸祐 大条 紘樹 広田 喜一
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.164-169, 2021-02-01

2020年1月,中国で新興感染症が発生している1)らしいというニュースを目にした。2月頃にはダイヤモンド・プリンセス号が連日テレビを賑わせ,いつのまにやら日本国内に感染者が急増していた。 筆者(藤井)の所属先も「不要不急の手術」は中止もしくは延期となった。不要不急の手術とはいったい…という筆者の疑問を尻目に手術麻酔の件数は減少し,代わりにICU患者の管理であったり,COVID-19疑い患者の呼吸状態が悪化して挿管を頼まれたりと,手術麻酔以外の業務を行うようになった。 手術室で過ごす時間が減った代わりに,ネットでCOVID-19関連の情報を集める時間が増え,そこでTwitterのとあるアンケートを目にした2)(図1)。Twitterとは,匿名・実名どちらでも利用可能なsocial networking service(SNS)の一つで,140文字以内で投稿,すなわち「つぶやく(tweet)」ことができる。筆者が目にしたのは,2015年から追加されたアンケート機能を利用したものだった。 これを見て「COVID-19流行期における全国の全身麻酔件数はどれくらいか推定できないだろうか」と思い立ったのが本稿執筆の経緯である3)。
著者
広田 喜一 村田 宮彦 新宮 興
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.1125-1127, 2020-11-01

酸素は麻酔・集中治療にかかわる者にとって最も重要なガス状分子です1)。酸素が,ミトコンドリアでの酸化的リン酸化によるATP産生に必須な分子であると同時に,活性酸素の発生を通じて組織障害を引き起こす可能性をもつという両義性のある分子だからです2)。2019年のノーベル生理学・医学賞は,酸素が足りない状態である低酸素の感知機構の基礎研究に与えられました3,4)。臨床現場で麻酔科医は,動脈血の酸素濃度をガス分析またはパルスオキシメータで頻繁にというか常時確認しながら患者管理を行っています。本稿は,この酸素の運搬に深くかかわる論考です。
著者
松川 志乃 広田 喜一
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.852-857, 2020-08-01

手術を契機として生体に炎症応答が惹起される。周術期炎症反応の評価に,サイトカインなどの炎症マーカーが指標となると考えられている。マーカーは重症度の評価や予後予測の指標としての利用も期待される。一方,炎症応答には個人差が大きいことが知られており,患者の遺伝的背景によってマーカーの変化を含む炎症応答に差異が生じている可能性がある。 本稿では,周術期炎症マーカーについて現状と課題,今後の展望について概説する。
著者
広田 喜一
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
INTENSIVIST (ISSN:18834833)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.259-269, 2018-04-01

酸素は生命に必須な分子である。それ故,基礎医学の範疇にとどまらず,基礎生物学の重要な研究課題であり,多くの論文が発表され続けている。臨床医学の分野でも「酸素」にまつわるさまざまな研究結果が存在し,読者諸氏もよくご存じのとおり,心肺蘇生時の酸素投与ではその有用性を超えて,有害性の有無を検討する臨床研究さえ存在する1)。集中治療を含むいわゆるクリティカルケア領域ではさらに複雑で,このような現状を背景に酸素にまつわる知見の整理をする必要がある。この観点から本特集「酸素療法」が企画されたのであろう。 本稿では,基礎生物学的な観点から低酸素応答・酸素代謝にかかわる研究の現状を解説し,臨床現場での判断に還元できる応用可能な生体と酸素についてのコンセプトを提示したい。Main points●生体内では酸素は欠乏しやすい。●生体の低酸素状態は,低酸素分圧性低酸素,貧血性低酸素,高酸素分圧性低酸素,組織低灌流・虚血,組織酸素代謝失調に分類できる。●貧血性低酸素は,低酸素分圧性低酸素に匹敵する強さの生体応答を惹起する。●転写因子である低酸素誘導性因子1(HIF-1)は,生体の低酸素応答で重要な役割を果たしている。●生体の低酸素による細胞毒性の発揮には,活性酸素種が重要な役割を果たす。●低酸素は炎症の進展とクロストークをする。●乳酸は生体の酸素失調の結果,産生される場合がある。
著者
山口 龍二 広田 喜一
出版者
関西医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

デオキシグルコース(2DG)とABT-263(ABT)という二つの薬を体内に投与するとグルコース代謝が進んでいる細胞でストレスがかかり、さらにABTを投与すると相乗的相互作用が働き細胞死に誘導されます。体内でグルコースの代謝が進んでいるのは過剰な運動をしたときの筋肉細胞、脳細胞、そしてがん細胞ですが、ABTは脳・血管関門を通れないため通常細胞死に誘導されるのはがん細胞だけです。しかしこの治療の効率は腎癌で低いのでその理由を解明すると、腎癌ではAKTが異常に活性化し、細胞死を抑制していました。AKTをbeta-cyclodextrinで抑制すると2DG-ABTの効率が上がりました。
著者
広田 喜一
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
LiSA (ISSN:13408836)
巻号頁・発行日
vol.25, no.8, pp.897-905, 2018-08-01

はじめに酸素はヒトの生命維持に必須な分子である。もう少し細かく述べると,酸素はヒトの細胞のアデノシン三リン酸(ATP)産生に必須な分子である。酸素が欠乏するとエネルギーが不足し,生体機能の維持ができなくなる。ミトコンドリアでの酸化的リン酸化,つまり電子伝達系に共役して起こる一連のATP合成反応において,酸素は電子の最終的な受容体として機能しており,酸素が不足すると,NADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)やFADH(還元型フラビンアデニンジヌクレオチド)といった一連の補酵素の酸化と,酸素分子の水分子への還元反応が立ち行かなくなる。その持続的な欠乏は,生体機能の失調を経て個体の死に至る。これが,古典的な酸素観である。 しかし,このような古典的な酸素観は,ここ20年ほどの研究により見直しが進んでいる。哺乳類をはじめとする高等生物は,酸素が生命維持に必須な分子であるのに,その酸素を体内で生合成する仕組みをもたない。高等生物を構成する多臓器は常に「酸素不足」のリスクに曝されており,それ故,生体は低酸素に応答する仕組みを進化的に獲得してきた,とする考え方が支配的になってきている。