著者
広田 喜一 藤井 庸祐
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.858-862, 2020-08-01

SARS-CoV-2感染によって引き起こされるCOVID-19パンデミックがいまだ世界を席捲している。SARS-CoV-2によって誘発される過剰な炎症反応は,感染患者の重症度に相関する。その結果としての急性呼吸促迫症候群(ARDS)は死亡の主な原因となっている。 敗血症に併発する急性肺傷害またARDSは,LiSAの読者である麻酔科医・集中治療医にはなじみの深い病態であると思われるが,本稿では,ウイルス感染がサイトカイン放出症候群,サイトカインストームを経てARDSを引き起こす機序とSARS-CoV-2感染に特徴的な現象について解説してみたい1)。 なお,本稿執筆時点は2020年6月である。
著者
仲西 未佳
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.1190, 2015-11-01

多くのモニター機器では,SpO2の絶対値と音階を同期させることが可能である。このことにより,患者の低酸素状態を麻酔科医や看護師が五感で感知しやすくなり,麻酔事故の防止に有用であると考えられるが,では皆様はその音階が一体何の音であるか気になったことはないだろうか。 筆者は,当院の研修医3人に,さまざまなSpO2のモニター音を示してそれぞれの音階を聞いたところ,筆者を含めた4人の音階がすべて一致した。全員音楽経験者であり,絶対音感の持ち主である。
著者
阿部 正幸
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.438-442, 2020-04-01

本稿は,私の担当医である国立精神・神経医療研究センター(NCNP)精神科の松本俊彦先生からの依頼による。ほとんど経験者のいない医療用麻薬の長期常用者として,生々しく書いてほしい,とのことであったので,赤裸々な実体験を記載させていただく。 私は循環器内科専門医として,ある地方自治体総合病院(以下,病院)に勤務していたところ,オピオイドの適応外使用により麻薬・向精神薬取締法違反で起訴され実刑判決を受けた。現在は刑期満了し無職である。 本稿の内容は私の体験談として,①オピオイド使用に至った経緯,②オピオイドの効果,③離脱の難しさ,④再使用しないための努力,⑤現在直面している困難,⑥医学教育と偏見,に分けて順に述べることとする。
著者
溝部 俊樹
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.1018-1024, 2020-10-01

プロローグ再現性と客観性こそがサイエンスの命である。「私だけがSTAP細胞作れます」と言っても誰も相手にしてくれない。しかしEBM worldは違うようである。周術期高濃度酸素投与によるアウトカムの改善が2000年の『New England Journal of Medicine(NEJM)』誌に掲載されたものの,その後の10余りのランダム化比較試験(RCT)の結果はバラバラ。おまけにメタ分析の結果もバラバラ。最初の提唱者がRCTをやり直して自ら有効性を最終的に否定したら,今度はWHOがガイドラインで周術期高濃度酸素投与を世界中に推奨する始末1)。 基礎科学basic scienceでは,そのmethodologyすなわちassay系の信頼性が命である。しかしEBM worldは違うようである。2001年にNEJM誌に掲載された“自分の所属する単一施設で盲検化もせずに行われた厳格血糖管理によるアウトカムの改善”が,なぜか世界中の麻酔・集中治療領域で大流行。その後のRCTすべてで有効性が否定されたが,唯一,有効性を認めた提唱者自身の続報はpost-hocサブグループ解析を多用するという禁じ手を使っていた。basic scienceのassay系にあたるのがRCTでは統計解析であるが,用いる統計方法によって結論が異なるのは当然である,とEBMの専門家も居直る始末2)。 結局EBMとは,「今後30年以内にマグニチュード7以上の地震が起きる確率は80%です」という地震発生予測と同じであろう。無視はできないが信じると風評被害を生みかねない。これらの詳細はLiSAバックナンバーを参照していただくとして,まずは3年前の周術期高濃度酸素投与のドタバタの続きからお楽しみあれ。
著者
広田 喜一
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
LiSA (ISSN:13408836)
巻号頁・発行日
vol.26, no.11, pp.1057-1059, 2019-11-01

諏訪邦夫先生も常々おっしゃっていたように,酸素は麻酔科医にとって最も重要なガスです。2019年のノーベル生理学・医学賞は,酸素が足りない状態である低酸素の感知機構の基礎研究に与えられることになりました。低酸素状態によるエリスロポエチン(EPO)発現誘導を説明する遺伝子上の領域の同定とその領域に結合する細胞内因子hypoxia-inducible factor 1(HIF-1)の分子クローニングとその活性化の分子機序の解明,つまり「酸素感知-生存のために必須な生命過程」を解明した功績が受賞理由です。
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
LiSA (ISSN:13408836)
巻号頁・発行日
vol.24, no.11, pp.1125, 2017-11-01

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著者
世良田 和幸
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
LiSA (ISSN:13408836)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.120-121, 2015-02-01

痛みは,辛く切ないものである。そしてその痛みの原因がわかっている場合は,その原因さえ取り除ければ痛みも緩和されると思われている。しかし西洋医学では,その原因すら影が薄くなった慢性痛に,対症療法しかできない場合が多いと考えられる。神経障害性痛などの西洋医学では治療が困難であった痛みに対し,漢方医学的な診断を行ったうえで,冷えや熱感,体内を巡っている気・血の滞りや不足,さまざまなストレスなどに対して漢方薬を有効に用いると,劇的な鎮痛効果を得られることがある1〜4)。
著者
宮坂 勝之 三股 亮介 秋吉 浩三郎 渡部 達範
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.734-736, 2021-07-01

カテーテル針留置目的の穿刺では「逆流を確認したらまずカテーテルを進める」LiSA 2021年4月号の『ブラインド穿刺の理窟:末梢血管(静脈・動脈)穿刺』は,カテーテル針の外筒(カテーテル)と内筒(針)先端間のギャップ(図2)の存在認識の重要性を指摘している有用な論文である。しかし,378ページの「確実な留置のためには,外筒先端よりも手前まで内筒を引いて,外筒の先端から逆血があることを確認する必要がある」とする記載は,文脈的に誤解を呼ぶ可能性があり,コメントしたい。
著者
奥田 泰久
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.586-596, 2021-06-01

●Summary全身麻酔下での手術終了抜管後に,換気困難に陥り,再挿管を試みたが,遷延性意識障害を経て最終的に死亡した。遺族は,麻酔薬が体内に過量に残存した状態で抜管した麻酔科医に過失があるとして損害賠償を請求した。
著者
藤井 庸祐 大条 紘樹 広田 喜一
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.164-169, 2021-02-01

2020年1月,中国で新興感染症が発生している1)らしいというニュースを目にした。2月頃にはダイヤモンド・プリンセス号が連日テレビを賑わせ,いつのまにやら日本国内に感染者が急増していた。 筆者(藤井)の所属先も「不要不急の手術」は中止もしくは延期となった。不要不急の手術とはいったい…という筆者の疑問を尻目に手術麻酔の件数は減少し,代わりにICU患者の管理であったり,COVID-19疑い患者の呼吸状態が悪化して挿管を頼まれたりと,手術麻酔以外の業務を行うようになった。 手術室で過ごす時間が減った代わりに,ネットでCOVID-19関連の情報を集める時間が増え,そこでTwitterのとあるアンケートを目にした2)(図1)。Twitterとは,匿名・実名どちらでも利用可能なsocial networking service(SNS)の一つで,140文字以内で投稿,すなわち「つぶやく(tweet)」ことができる。筆者が目にしたのは,2015年から追加されたアンケート機能を利用したものだった。 これを見て「COVID-19流行期における全国の全身麻酔件数はどれくらいか推定できないだろうか」と思い立ったのが本稿執筆の経緯である3)。
著者
広田 喜一 村田 宮彦 新宮 興
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.1125-1127, 2020-11-01

酸素は麻酔・集中治療にかかわる者にとって最も重要なガス状分子です1)。酸素が,ミトコンドリアでの酸化的リン酸化によるATP産生に必須な分子であると同時に,活性酸素の発生を通じて組織障害を引き起こす可能性をもつという両義性のある分子だからです2)。2019年のノーベル生理学・医学賞は,酸素が足りない状態である低酸素の感知機構の基礎研究に与えられました3,4)。臨床現場で麻酔科医は,動脈血の酸素濃度をガス分析またはパルスオキシメータで頻繁にというか常時確認しながら患者管理を行っています。本稿は,この酸素の運搬に深くかかわる論考です。
著者
松川 志乃 広田 喜一
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.852-857, 2020-08-01

手術を契機として生体に炎症応答が惹起される。周術期炎症反応の評価に,サイトカインなどの炎症マーカーが指標となると考えられている。マーカーは重症度の評価や予後予測の指標としての利用も期待される。一方,炎症応答には個人差が大きいことが知られており,患者の遺伝的背景によってマーカーの変化を含む炎症応答に差異が生じている可能性がある。 本稿では,周術期炎症マーカーについて現状と課題,今後の展望について概説する。
著者
小栗 顕二
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.1083-1092, 2020-10-01

はじめに本稿は科学技術のめまぐるしく変化する現代の話ではなく,はるか昔にリタイアした私の,研究生活を始めた頃(1965年頃)から始まる。科学論文というものは,失敗や苦労の遍歴は記されず,すべてが順調に進んだ事柄だけを披歴する成功譚である。しかし,実際の研究生活はそんなものではなかった。当時,独立した麻酔科学講座を置いている大学はまだ少数で,多くは臨床教室としてか,あるいは外科学の麻酔専任医師がいるだけの大学が多かった。したがって独自の研究環境をもっている大学は少なかった。 この頃は,決まった研究方法も確立されておらず,遠心分離器,分光光度計,ガスクロマトグラフ,電気泳動装置,低温室…があれば素晴らしい研究室であると誇らしげに自負するような,まるで無人島に流れ着いた流民が日々の飢えをしのぐ食料を求めてジャングルの中に分け入っていくような時代であった。
著者
松本 俊彦
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.432-437, 2020-04-01

はじめにあなたは今,ひそかに薬物問題に悩んでいて,漠然と「このままではマズい」と感じている。しかし他方で,うまくコントロールできている点を無理に探し出して安心しようとしたり,問題を職場環境のせいにして,「次年度異動すれば状況はよくなる」と自分に信じ込ませようともしている。日々,気持ちはこの両極をあたかもヤジロベエのように揺れ動きつつ,「これが最後の1回」と自分にいいきかせるのを,もう何回,何十回も繰り返してきたことだろう。いや,ちがう。もしかするとあなたは自己嫌悪のあまり自暴自棄になり,すでに「いざとなったら死んでしまえばよいのだ」と背水の陣を敷いているのかもしれない。 私は今,この文章を,現在進行形で薬物問題に悩む麻酔科医に向けて書いている。
著者
甲斐沼 篤
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.814-817, 2018-08-01

海上保安庁は,東南アジア海域等における海賊対策の一環として,2000年から巡視船を東南アジア等の各国へ派遣しており,2017年度はインドおよびマレーシア派遣が計画されました。巡視船の長期航海派遣には,常勤医師の配乗が必要となり,京都府立医科大学への依頼を受け,海上保安庁の非常勤職員として参画しました。国を守る公務員として守秘義務もあるため,すべてを語ることは難しいですが,海上保安庁の活動を知っていただくよい機会ですので,その経験と感じたことを紹介します。
著者
森島 久代
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.396-403, 2013-04-01

皆様,こんにちは。この度,第116回日本産科麻酔学会 学会長の照井 克生 先生から,「産科麻酔の新たな一歩」という学会のテーマの一環として,私のこれまでの研究歴を振り返り,日本の(産科)麻酔科医が,もっと積極的に研究に向かえるような助言を,ということでご指名いただきました。
著者
森本 康裕 野上 裕子
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.600-604, 2009-07-01

脳神経外科手術時の血糖管理は,他の手術時とは異なるいろいろな側面を持っている。 ブドウ糖は脳で代謝される主な基質であり,低血糖は避けなければならない。逆に,高血糖状態で脳虚血が起こると神経学的予後を悪化させるという報告が多い。この両面から,脳神経外科手術時には血糖値に注意が払われてきた。血糖値の上昇を避けるため,手術中には糖を含まない輸液を用いるとされてきた。また,ブドウ糖投与は脳浮腫の原因となる。しかし,レミフェンタニルを使用するようになったことで,少量のブドウ糖負荷では血糖値を上昇させることはなくなった。近年,重症患者における厳密な血糖管理〔intensive insulin therapy(厳重血糖管理)〕が患者の予後を改善するとして注目されている。しかし,この厳重血糖管理については見直しがされてきている。さらに,急性脳障害患者への適応は議論の分かれるところである。 本稿では,脳神経外科手術時,特に脳障害患者に対するブドウ糖の投与と血糖コントロールについて,最新の知見を紹介したい。
著者
伊藤 洋 榊原 健介 三木 靖雄
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.1028-1031, 2012-10-01

平成23年12月のある日,当院の救急救命科医師から連絡が入った。 「脳死患者から移植臓器提供がありそうで,移植コーディネーターからの説明が終わり,1回目の法的脳死判定が行われる」と…。 その前月に,愛知医科大学病院における『脳死患者からの臓器摘出マニュアル』が,平成22年7月に日本臓器移植ネットワークが発表した『臓器提供施設の手順書』をもとに作られたばかりで,それまでに1度だけ委員会が開かれただけだった。約10年前と1年前に,それぞれ別々に医局関連病院で,脳死ドナーから臓器摘出が行われたという話は聞いていたが,当院では初めてだった。 それから実際の臓器摘出術までは約1日。高度救急救命センターを運営する救急救命科と中央手術部での麻酔管理をする麻酔科とで,業務が分かれている当院の特性もあるが,院内のコーディネートを含め,さまざまなことを感じた。 本稿では,その実体験から見えてきた脳死下臓器提供の実際と課題について述べる。