著者
目黒 潮
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.61, 2005 (Released:2005-11-30)

1.はじめに茨城県東茨城郡大洗町(以下,大洗町)は水産加工業が多く立地する地域であるが,近年の小売価格の変遷に伴う賃金の低下によって労働力不足がすすんでいる.このため労働者の確保が困難になった各水産加工会社は,雇用対策として外国人労働者を雇うようになった.その結果,経営難のため倒産する企業が増える一方,大洗町の水産加工業の従業員数は増加傾向にある.2.大洗町の外国人労働者とその国籍および就業職種大洗町の外国人登録者数は1980年以降,急激な増加を示している.2004年1月現在の外国人登録者数は,大洗町の日本人数19,623人に対し,904人であり,国籍別に外国人登録者数を見ると,インドネシア人(444人),中国人(133人),フィリピン人(132人),タイ人(57人),ブラジル人(33人)の順に多い.特にインドネシア人は,北スラウェシ州の出身者であるミナハサ族がほとんどを占めるという点で特徴的である.彼らの流入期は,大きく三つに分けることができる. 第1期: 不法就労者の流入(1980年 ? )1980年代後期,大洗町の水産加工業に就労していた在留外国人はイラン人が中心であったが,1990年代半ばになると,タイ人,フィリピン人の不法滞在者が増加した.しかし1996年になると,各水産加工会社が不法就労助長罪で送検されるようになり,それ以降,不法就労者は減少した. また,1980年代頃から,ある日本人船員と結婚していた北スラウェシ州ビトゥンの女性が,インドネシア人の家族を大洗町の各水産加工会社に紹介していたため,インドネシア人の不法就労者の流入も始まっていた.インドネシア人はその後徐々に増加し,同郷会や教会などのコミュニティを形成するようになった.これらの名簿から延べ人数を推計すると,最多時の2001年当事にはインドネシア人だけで1000人以上が大洗町に居住していたと推定される. 第2期: 日系人の流入(1991年 ? ) 1991年以降,一部の水産加工会社は改正施行された入管法の影響を受け,当事急増していた南米日系人の雇用も行っていた.しかし,南米日系人は業務請負会社を経由して就労するため、高額のマージンが取られるという結果をもたらした.その後,ある水産加工会社の関係者が,インドネシアの北スラウェシ州に日系人が多く居住するという情報を得て,各企業の要請に応じて彼ら紹介することで,雇用の合法化を試みた.1998年から2005年までに,北スラウェシ出身の日系人約180人が,大洗町の企業約20社に就労している.彼らの多くは,周辺の他産業に従事するようになった不法滞在者とも交流を持っている場合が多い. 第3期: 中国人研修生の流入(2003 年? ) 1991年に改正施行された外国人労働者の研修・技能実習制度は,海外への技術移転と同時に,二本の中小企業の雇用対策という,二つの側面を持つ.大洗町では同制度の拡大に応じて,2003年から本格的に中国人研修生を導入するようになった.研修生は二つの団体を経由して受け入れられ,18社に入っている.今後,大洗町では他地域の製造業と同様,徐々に研修生・技能実習生を増加させていく可能性が示唆される.ただしインドネシア人については,不法就労者雇用の経歴を持つ大洗町の水産加工会社に対して研修期間の許可が下りず,難航している.3.大洗町におけるインドネシア人の就業とコミュニティ 不法就労者,日系人,研修生・技能実習生という3つのタイプの外国人労働者の中で最大数を示すインドネシア人は,以下のようなエスニック・コミュニティを形成した. 教会:宗教行事や生活支援,指導などを行う. ● インドネシア福音超教派教会(G_(企)_J) ● 日本福音キリスト教会(GMIM) ● インドネシア・フルゴスペル教団(GISI) ● カソリック 同郷会:仲間同士の相談を行い,葬祭時の費用を出す. ● Langoan ● Kawangkoan ● Kiawa ● Karegesan ● Tomohon ● Sonder ● Sumonder ● Tondono ● Tumpa Lembean 大洗町の行政当局は不法就労者の増加を恐れ,外国人に対する支援策が十分ではない。そのためこれらのコミュニティが彼らの生活に関して指導的な役割を担っているだけでなく,大洗町の水産加工会社と提携してインドネシア人労働者の指導に関わるようになってきている. 本研究でとりあげた事例に見られるシステムは,移民政策や移民産業によって移住労働者の職種や居住を自由自在にコントロールするというトップダウン式のものではない.むしろ,移住労働者のコミュニティと地域産業が自発的に提携し展開していく,ボトムアップ型の事例である.特に,そのコミュニティに対して,民族意識や宗教組織が重要な役割を果たしているという点で特徴的である.このような就労基盤は,今後の移住労働者研究における重要な素材であるといえよう。

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