著者
中西 雄二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2011年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.101, 2011 (Released:2011-05-24)

_I_ はじめに 1953年12月25日、それまでアメリカ軍政下にあった奄美諸島の施政権が日本政府に返還された。これにより、奄美諸島は鹿児島県に再編入され、引き続いてアメリカ軍政下に置かれた沖縄との間に新たな行政的な分断が生じることとなった。そして、奄美に本籍を置いたまま沖縄で生活する人々は、法的に「外国人」として扱われるとともに、外国人登録の義務化やそれまで保障されていた様々な権利の剥奪をみるに至った。本研究では、沖縄における奄美出身者の法的地位が大きく変動した奄美の施政権返還前後の時期に注目し、沖縄における奄美出身者の就業状況や同郷団体活動の様態を明らかにすることを目的とする。 _II_ 奄美から沖縄への移住 第2次世界大戦前から他地域への移住が数多く認められた奄美諸島であったが、当初、近接する沖縄方面への移住はそれほど多くなく、むしろ日本「本土」の工業地帯や産炭地域へ移住する人々の規模の方が圧倒的に大きかった(『奄美』1930年2月号)。そうした状況が一変したのが、第2次世界大戦後である。特に、沖縄でのアメリカ軍基地の本格的な建設ラッシュが始まり、それに伴う軍作業に従事する労働者需要が高まった1950年以降、奄美から沖縄への「出稼ぎ」移住は急増した。この背景には、1946年2月に沖縄・奄美と「本土」との間の渡航が制限されていたことや、戦後の大規模な引き揚げによって奄美の人口が過去最高を記録するなど、余剰労働人口の顕在化していたことなどが挙げられる。 _III_ 底辺労働者としての就労 1950年半ばには沖縄での軍作業従事者約4万人中、約1万3000人が奄美出身者といわれるまでになった。そのため、1950年代前半を通して、沖縄本島における大島本籍者の居住分布は那覇市周辺の市街地とともに、基地建設が盛んに行われた本島中部への集中傾向が認められた。また、当時、主に男性に特化されていた建設労働者以外にも、女性の「出稼ぎ」も顕著となったが、性産業を含めた底辺労働に従事する人々も少なくなく、しだいに奄美出身者を表す「大島人」という標識が差別的な意味合いを持つ場面も出てくることとなった。沖縄だけでなく、奄美のマス・メディアまでが警察による沖縄在住奄美出身者の検挙事例を強調するような状況で、沖縄で組織された沖縄奄美会は、同郷者の「善導・救済・犯罪防止」を目指す活動を模索する。 _IV_ 奄美返還をめぐる動揺 このような状況で、1953年には当局が把握する正式に本籍を奄美から沖縄に移した奄美出身者だけでも約4万人に達していたが、同年8月に日本政府への奄美の施政権返還が沖縄に先行して決定した。以降、返還時期と返還後の沖縄在住奄美出身者の法的地位の扱いに関する議論が活発化する。例えば、1953年8月18日の『沖縄タイムス』に「沖縄にとって大島の分離は明らかにプラスである。(中略)大島人の多くが引き揚げることにでもなれば、漸く就職難を訴えてきた労働界は供給不足という事態が生ずることになるので沖縄の労働者にとってこの上もない好条件をつくることになる」といった社説が掲載されたり、同年12月に沖縄全島市町村長定例会議が奄美出身者の大規模な郷里帰還を琉球政府に要請したりした。 結果的に、沖縄在住奄美出身者は奄美の先行返還後、沖縄に本籍を移さない限り外国人である「非琉球人」として扱われることとなり、選挙権や公務員への就職資格などを失っただけではなく、他の日本国籍者に与えられていた政府税の優遇措置の適用外に位置づけられるなど、極めて不利な立場に置かれることとなった。 以上の一連の過程を経て、沖縄奄美会に代表される奄美出身者の同郷団体は「公民権運動」と呼ばれる権利回復を求める運動を繰り広げるなどした。しかし、いわゆる「名士」層を主としていた同郷団体は、底辺労働者の同郷者に対する否定的な認識を内在化していたこともあり、広範な層の同郷者を糾合することもなく、結局は1972年の沖縄返還まで、抜本的な処遇改善を達成するには至らなかったといえる。

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@gaorinc @imaichi_IDG @yanbarugurashi 沖縄のテレビや新聞で戦後の沖縄や奄美大島の人たちの悲劇や苦労を伝えてましたよ〜 沖縄が奄美大島差別を隠してるはないですよ、、テレビと新聞で自分は知りましたから。 米軍基地の沖縄への日本人による押し付けは現在進行です、 本土のメディアはずっと伝えてこなかった。 https://t.co/hKTIEkSo2b

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