著者
佐藤 洋
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.300, 2020 (Released:2020-03-30)

Ⅰ はじめに これまで,多くの地理学者が地域間の経済格差と地方自治に関心を向けてきた.その潮流の中で,地方財政問題にも焦点が当てられている.1980年代に財政地理学を展開したBennett(1980)は地域間の公平性の観点から地方財政問題に地理学的視点を導入する意義を示し,英国の財政調整制度であるレイト支援交付金の配分問題に焦点を当てて実証分析を行った. その後,国内において地理学者が財政問題を扱う際には,我が国の財政調整制度である地方交付税に対して関心が向けられてきた.主に,その関心は地方交付税への依存度が高い地方圏の(特に小規模な)自治体に向けられており,税収が豊かな大都市圏の自治体が注目されることはなかった. しかし,大都市圏の自治体における財政状況を分析すると,バブル景気崩壊後,自主財源の大部分を占めている地方税の滞納の影響が大きく,その金額は決して無視できるものではない.実際に,各自治体は徴収率の向上に積極的に取り組んでいる. 経済学の分野では,地方税の滞納に関してモデルを用いた研究があるが,管見の限り,国内において空間的な観点から地方税の滞納の問題を扱った研究例は存在しない. そこで本研究では,地方税の徴収率の低下が地方財政にもたらす影響の検討を行った.さらに,その結果を踏まえて大都市圏に着目し,地方税の徴収率と他の指標との比較を行い,その特徴について計量的に分析した.Ⅱ 分析対象地域の概要と調査内容 本研究における分析対象は,東京都,埼玉県,千葉県,神奈川県の1都3県の基礎自治体とした(税制度の異なる東京23区は除く).地方財政状況調査,国勢調査などの統計をもとに,地方税の徴収率の低下が自治体の財政に与える影響を分析した.さらに,相関行列の作成や重回帰分析などの計量的な手法を用いて,滞納の発生と,失業率,生活保護率,犯罪認知件数などの都市問題との関係を分析した.Ⅲ 結果と考察 大都市圏の基礎自治体における地方税の徴収率と財政状況を分析した結果,地方税は自治体の自主財源額の約8割を占めている.地方税の滞納額は約1,578億円(平成29年度)に上り,徴収率が1%上がると,歳入が約541億円増加する状況にある(当該自治体における同年度のふるさと納税の合計受入額は約150億円である).特に財政力指数が高い(地方交付税が少ない)自治体ほど,滞納が発生した場合の影響が大きくなる.自主財源額と比較して,滞納額が約15%に相当する自治体(千葉県八街市)も存在している. そこで,計量的な手法を用いて地方税の徴収率を様々な指標と比較した.相関行列の作成および重回帰分析による分析から得られた主な知見は次の2点である.①地方税の徴収率が低い(滞納率が高い)自治体はブルーカラー従業者割合,外国人割合,犯罪認知件数,生活保護率,失業率などの貧困問題と関係の深い指標と正の相関がある.②平均年収,税務職員数に対しては負の相関がある. 各指標における自治体の分布の考察により得られた主な知見は次の3点である.①平均年収が低い自治体やブルーカラー従業者割合が高い自治体は都心から同心円状に分布するが,地方税の徴収率が低い(滞納率が高い)自治体は,同心円状には分布しない.②貧困問題と関係の深い指標と徴収率の分布が一致しない自治体がある.③平均年収が高いが,徴収率が低い自治体においては,住民の納税に対する意識に何らかの問題が生じている可能性がある. 上記の分析結果より,地方税の滞納という現象は,確かに貧困問題と関係しているが,それだけでは説明できない部分も多くみられた.これらの解明については今後の課題としたい.参考文献Bennett,R.J.1980.The Geography of public finance:Welfare under fiscal federation and local government finance.London:Methuen.

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