著者
荒川 高光 寺島 俊雄 三木 明徳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C1O2015, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】大胸筋と小胸筋は上肢帯・上肢の運動に関与するだけでなく、呼吸補助筋としても作用するため、理学療法において重要な筋の一つである.一方、人体解剖学実習で両筋を観察すると筋束の「ねじれ」があることに気づく.大胸筋の筋束の「ねじれ」については教科書にも記載されている (例:寺田・藤田1994, Johnson and Ellis, 2005).しかし、小胸筋のねじれは現在まで報告されていない.よって、大胸筋と小胸筋の筋束の「ねじれ」の機能的意義を明らかにし、理学療法へ応用するため、肉眼解剖学的に大胸筋と小胸筋を調査することとした.【方法】神戸大学医学部人体解剖学実習用遺体の3体3側を使用し、大胸筋と小胸筋の筋束構成と支配神経を詳細に調査した.本研究は神戸大学医学部倫理委員会の倫理規定に抵触するものではない.【結果】大胸筋鎖骨部線維は他の部より最も浅層(前面)を、比較的下方へ向かって走行し、上腕骨の大結節稜のうち最も遠位かつ浅層に停止した.胸肋部線維は外側方へと走行し、腹部線維は上方へと走行した.胸肋部線維と腹部線維は上位から起始する筋束ほど下位から起始する筋束の浅層を走行し、順に鎖骨部線維の深層に重なるように走行した.腹部線維は裏へ折れ返る構造があり、そこに支配神経が進入していた.大胸筋の胸肋部下部筋束を支配する胸筋神経の1枝が小胸筋を貫いていた.同枝が貫く部よりも上位の小胸筋の筋束は下位から起こる筋束の浅層を比較的外側方へと走行し、烏口突起のやや外側部に停止した.同神経が貫く部よりも下位の小胸筋の筋束は上位の筋束の深層を比較的上方へと走行し、烏口突起のやや内側部に停止した.【考察】大胸筋の「ねじれ」が消失する肢位は、上腕骨を90°程度屈曲した肢位である.また、小胸筋の「ねじれ」が消失する肢位は、肩甲骨の烏口突起を外側・下方に向け、かつ肩甲骨の下角を外側方へと上方回旋させた肢位である.すなわち、大胸筋と小胸筋の「ねじれ」が消失する肢位は四足動物のそれに近いため、両筋の「ねじれ」はヒトが直立歩行へと進化する過程で生じた可能性がある.機能的には、大胸筋の「ねじれ」が消失する肩関節の90°屈曲位付近は大胸筋が最も効率よく作用する肢位である可能性が高く、例えば投球動作時のリリースポイントやバレーボールのアタックポイント、クロールでの水泳時の水をとらえるポイントなどにおける理想的な上肢の肢位に解剖学的な根拠を与える可能性がある.また、肩関節90°屈曲位で上肢を前方について固定させると大胸筋のねじれが消失するだけでなく、肩甲骨も外転・上方回旋するため、わずかではあるが小胸筋のねじれも解消する.よって、その姿勢で停止を固定させると両筋の起始全体を外側上方へと効率よく持ち上げて胸郭を広げることができる.すなわち、呼吸困難時の起座呼吸はこの作用を利用したものと考えられる.

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@yoshinonoheya https://t.co/wxPWVDeD8t 大胸筋以外のねじれの緩む肢位も気になる

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