著者
建内 宏重 谷口 匡史 森 奈津子 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AcOF2020, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 腹臥位での股関節伸展運動は、股関節伸展筋のトレーニングとして一般的に用いられている。しかし、股関節伸展運動には、骨盤・脊柱の前傾・伸展や回旋、および脊柱伸展筋群の過剰な筋活動を伴うことが多い。このような代償的な運動や筋活動は、腰痛のリスクにもなり得ると考えられる。したがって、股関節伸展運動時の運動パターンおよびそれに影響を与える要因について分析することは重要である。我々は、股関節伸展運動時の骨盤運動や体幹筋群の筋活動に影響を及ぼす要因として、股関節周囲筋の筋活動バランスを仮定した。すなわち、伸展運動時の同時活動(屈曲筋群の活動)や股関節伸展筋群内での筋活動優位性が運動パターンに影響を及ぼす可能性があると考えた。本研究の目的は、股関節伸展運動における股周囲筋群の筋活動バランスと運動時の体幹筋筋活動や骨盤傾斜との関連性を明らかにすることである。【方法】 対象は、整形外科的および神経学的疾患を有さない健常若年成人16名とした(男性9名,女性7名;年齢,24.3 ± 5.2歳)。測定課題は、ベッド上腹臥位での右股関節伸展運動(屈曲30度から伸展10度まで)とした。下肢の挙上位置を各被験者および各試行で一定にするために、伸展10度で大腿遠位部背面にバーが接するように予め設定した。1秒間でバーに大腿部が接するまで股関節を伸展し、その肢位を3秒間以上保持させた。骨盤・脊柱の固定は行わなかった。測定前には、課題に慣れるために複数回の練習を行った。 測定には、Noraxon社製表面筋電図と、Vicon社製3次元動作解析装置を用いた。筋電図の測定筋は、右側下肢の大殿筋(Gmax)、半腱様筋(ST)、大腿直筋(RF)、大腿筋膜張筋(TFL)、および両側の脊柱起立筋(腰部)、多裂筋(腰部)、外腹斜筋、内腹斜筋・腹横筋混合部の計12筋とした。各筋とも、股関節伸展位で保持している時の3秒間の平均筋活動量を求め、各筋の最大等尺性収縮時の筋活動量で正規化した。加えて、正規化した筋活動量から、RF/(Gmax+ST)、TFL/(Gmax+ST)、ST/Gmaxの各比を算出し、筋活動バランスの指標とした。なお、先行研究に基づいて、最大筋活動量の5%以上の筋活動を意味のある筋活動と定義し、活動量が5%未満の筋は分析から除外した。動作解析では、反射マーカーを両側の上後腸骨棘と腸骨稜頂点に貼付し、安静腹臥位の骨盤肢位を基準として股関節伸展位における骨盤の3平面の角度を求めた。筋活動量、骨盤角度ともに、5試行の平均値を解析に用いた。股関節伸展筋の個々の筋活動量、筋活動バランス指標と体幹筋筋活動量、骨盤角度との相関関係を、Spearmanの順位相関係数により分析した。【説明と同意】 倫理委員会の承認を得て、対象者には本研究の主旨を書面及び口頭で説明し、参加への同意を書面で得た。【結果】 Gmaxの筋活動量が高いと反対側の脊柱起立筋の筋活動量が高くなる傾向を示した(r = 0.58, p < 0.05)が、骨盤傾斜との関連はなく、右側STの筋活動量はどの変数とも有意な関係を認めなかった。伸展運動時のRFの筋活動量は、最大筋活動量の5%未満であったためRF/(Gmax+ST)は分析より除外した。TFLの筋活動量は最大筋活動量の5%以上であり、TFL/(Gmax+ST)が高いと骨盤の前傾角度が増加する傾向を示し(r = 0.52, p < 0.05)、同側の内腹斜筋・腹横筋混合部の筋活動量が増加する傾向を示した(r = 0.51, p < 0.05)。しかし、内腹斜筋・腹横筋混合部の筋活動量は最大筋活動量の5%未満であった。また、ST/Gmaxが高いと同側の脊柱起立筋筋活動量が高くなる傾向を示した(r = 0.57, p < 0.05)。【考察】 本研究の結果、股周囲筋の筋活動バランスが骨盤の前傾角度や脊柱起立筋の筋活動量に影響を与えることが明らかとなった。股関節伸展時に股屈曲筋であるTFLの過剰な同時活動があると股関節の伸展運動が制限されるため、代償的に骨盤前傾が増加したものと思われる。また、運動学的機序は明確ではないが、ST優位での股関節伸展運動は、同側の脊柱起立筋の筋活動増大につながる可能性も示された。股関節伸展に関わる筋のモーメントアームは、股関節伸展域ではSTよりもGmaxの方が大きくなるため、ST優位での股関節伸展運動は効率の悪い運動になると思われ、そのことが脊柱起立筋の筋活動増大を引き起こしているのかもしれない。【理学療法学研究としての意義】 本研究は、股関節周囲筋の筋活動バランスが骨盤の前傾角度や脊柱伸展筋群の過活動と関連することを示しており、臨床で多用される股関節伸展運動の注意点について重要な示唆を与えると考えられる。

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