著者
平田 純生
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.863-867, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
8

実際の例を示して,それに基づき本稿の重要性についての解説を進めたい.腎機能の評価ミスにより投与設計を誤ったメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant staphylococcus aureus:MRSA)感染症症例有料老人ホームに長期入居の男性(年齢90歳,体重37.7kg,身長150cm)が体調不良を訴え入院.入院時検査値は血清クレアチニン(Cr)0.34mg/dL,血中尿素窒素(BUN)5.1mg/dL,血清アルブミン1.7g/dLで,MRSA敗血症と診断され,尿中排泄率90%のバンコマイシンの投与設計を行った.日本人向け糸球体ろ過量(GFR)推算式では正常値は100mL/min/1.73m2であるが本症例では推算GFR(eGFR):mL/min/1.73m2)=194×Cr-1.094×Age-0.287=173.6mL/min/1.73m2のような高値が算出された.しかし上記eGFRの値の単位はmL/min/1.73m2であり,体表面積補正をしていないことから,薬物投与設計に用いるべきではない.そのためDu Boisの式を用いて体表面積を算出すると体表面積(BSA:m2)=体重(kg)0.425×身長(cm)0.725×0.007184=1.27m2となり,173.6mL/min/1.73m2を1.27m2で補正を外すと127.4mL/minと算出された.この腎機能を用いて解析ソフトで計算すると定常状態の血清バンコマイシン濃度の最低血中濃度(トラフ値:次回投与前濃度)は15μg/mになるはずであったが,実測値は28μg/mLと高値になり,バンコマイシンによる腎障害により,血清Cr値が7.6mg/dLに上昇し透析導入が必要になった.実はこの症例は腎機能の見積もりを誤ったために薬剤性腎障害を来したと考えられる.腎排泄性薬物の投与設計には薬物の尿中排泄率と患者の腎機能が必要であるため腎機能の正確な把握は,中毒性副作用を減らすためにも,薬物投与設計上の基本と言える.上記症例のような誤りを起こさないためにも,腎機能を正しく把握するコツと理論について以下に記載する.

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