著者
石田 真也 高野瀬 洋一郎 紙谷 智彦
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.119-138, 2014-11-30 (Released:2017-08-01)

低地水田地帯を水湿生植物のハビタットと位置付けた農地計画の検討のためには、耕作水田、休耕田、水路など複数の土地利用タイプの植生を全体的に評価する必要がある。そこで、新潟県越後平野の水田地帯に存在する4つの土地利用タイプ(耕作水田・休耕田・土水路・コンクリート三面張り水路)の全257ユニットを対象に植生調査を実施した。調査の結果、耕作水田では、ユニット間での種組成のばらつきが小さく、全体としての水湿生植物種数は休耕田や土水路と比較して少なかった。しかし、耕作水田ではユニットあたりの水湿生一・越年草種数は休耕田と並んで最も多く、マルバノサワトウガラシやミズマツバなどの絶滅危惧種が広汎に出現した。管理方法が圃場ごとに異なる休耕田では、ユニット間での種組成のばらつきが大きく、全体としての水湿生植物種数が最も多かった。一部の休耕田は、耕作水田のように頻繁な攪乱が起こる環境下では生活史を完了することが難しい種、特に多年草にとってのハビタットとして重要であることが示唆された。しかし、休耕田では外来種も多く確認された。土水路では、ユニットあたりの水湿生植物種数は耕作水田や休耕田よりも少ないものの、全体としての種数は休耕田に次いで多かった。浮葉植物や沈水植物の出現が確認されたのはほとんど土水路のみであったことから、土水路の存在は水田地帯全体としての水湿生植物の種多様性の維持に重要であることが示された。一方、コンクリート三面張り水路では、ユニットあたりの種数が極端に少なく、水湿生植物のハビタットとして位置付けることが難しい環境であることが示唆された。低地水田地帯における水湿生植物の保全のためには、耕作水田、休耕田、土水路など複数の土地利用タイプに特有の種群をそれぞれ保全し、相互に補い合うことで、水田地帯全体として種多様性向上を図ることが望ましいと考えられた。

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