著者
小林 聡 阿部 聖哉
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.245-256, 2018 (Released:2018-12-27)
参考文献数
34

谷津田は関東における里山の代表的な景観であり、生物多様性が高く保全優先度の高い環境であると認識されている。特に首都圏近郊では都市化が進み、残された自然としての重要度は高い。ニホンアカガエルは谷津田の健全性の指標動物であるとされ、本種の谷津環境の利用状況やその景観的な生息適地はこれまで多く議論されてきている。本種は茨城県を除く関東地方のすべての県でレッドリストに掲載されている地域的な絶滅危惧種であり、乾田化やU字溝による移動阻害、都市化による生息地の消失、分断化が主な脅威として認識されている。しかし、本種を指標として谷津田の保全に取り組む上で参照可能な、陸上の移動可能距離(500 m?1 km程度)を挟む100 m?5 km程度の小さなスケールでの個体群の連続性評価に関する知見はほとんどない。本研究では、首都圏の主要都市である千葉市の中心地から5 kmの都市近郊にあり、保全活動が盛んな谷津田環境である坂月川ビオトープとその周辺に位置するニホンアカガエルの主要な生息地4か所および坂月川ビオトープの下流に点在する小規模繁殖地について、その遺伝的多様性や遺伝的構造の有無、繁殖地間での遺伝的交流の有無の評価を2種類の遺伝マーカー(ミトコンドリアDNAおよびマイクロサテライト多型)により実施した。遺伝的多様性の解析結果では、都川水系に属する坂月川ビオトープおよび大草谷津田いきものの里で遺伝的多様度が比較的低く、鹿島川水系に属する2地点は比較的高い状況が確認された。STRUCTURE解析では、鹿島川水系の2地点は類似したクラスター組成を持ち、都川水系の坂月川ビオトープおよび大草いきものの里はそれぞれ個別のクラスター組成を持っていたが、ミトコンドリアDNAの遺伝的距離による主座標分析では鹿島川水系の1地点も他の地点と離れて配置された。また、坂月川沿いに点在する繁殖地が途切れた約1 kmのギャップを境に、上下流の遺伝的構造が不連続に変化している状況が異なる手法で共通に得られた。本調査地のような都市近郊では、生息地の縮小がもたらす遺伝的浮動により生息地ごとに遺伝的組成が変化し、孤立化によってその差異が維持されている可能性も高い。これらの結果を受け、上下流の遺伝的構造が不連続に変化している地点間での、中継地となる繁殖可能水域や陸上移動しやすい植生の創出などの具体的な保全対策について議論した。

言及状況

外部データベース (DOI)

Twitter (9 users, 9 posts, 16 favorites)

千葉市若葉区北部の谷津環境でのニホンアカガエルの遺伝的構造と遺伝的交流の状況の評価(日本語論文。まだオープンアクセスではありません)。https://t.co/QJ6sJiKIVV

収集済み URL リスト