- 著者
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岡部 信彦
- 出版者
- 公益財団法人 医療科学研究所
- 雑誌
- 医療と社会 (ISSN:09169202)
- 巻号頁・発行日
- vol.21, no.1, pp.33-40, 2011 (Released:2011-05-17)
- 参考文献数
- 7
- 被引用文献数
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予防接種は,生体を感染から守るもっとも重要な医学的予防法である。抗菌薬さらには抗ウイルス薬が使用できるようになった現代においても,その重要性は変わらない。予防接種は,個人の健康を守ることがもっとも重要な目的であるが,個人というよりは次世代の健康をも守ろうとするものもある。あるいは広く集団に免疫(herd immunity)を与え感染症の伝播を制限し,ある疾患が社会全体に広がることを防ぎ,さらにはやがてその病気を人類から追放しようとするものもある。天然痘の根絶達成,ポリオの根絶計画(polio eradication)・麻疹排除計画(measles elimination)に,ワクチンは欠かせない手段である。予防接種は多くの場合は健康な人に対する医療行為であるため,確実に安全であることが求められる。しかし生体に異物を投与する以上,正常な生体反応を超えた,予期せぬ,あるいは極めて稀であると考えられる異常反応が出現し,重大な健康被害が生じることが残念ながら皆無とは言えない。予防接種を行おうとする時には,そのメリットとデメリットについて適切に判断していくことが必要である。大多数が助かるのであればごく少数の被害は止むなし,とする考え方も極端である一方,少数といえども健康被害が発生する可能性がある以上ワクチンは危険・不要である,という意見もまた極端である。予防接種にあたっては,常に適切なバランス感覚を持つ必要がある。