著者
日本環境感染症学会ワクチンに関するガイドライン改訂委員会 岡部 信彦 荒川 創一 岩田 敏 庵原 俊昭 白石 正 多屋 馨子 藤本 卓司 三鴨 廣繁 安岡 彰
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.Supplement_III, pp.S1-S14, 2014 (Released:2014-12-05)
参考文献数
50
被引用文献数
2 4

第2版改訂にあたって   日本環境感染学会では、医療機関における院内感染対策の一環として行う医療関係者への予防接種について「院内感染対策としてのワクチンガイドライン(以下、ガイドライン第1版)」を作成し2009年5月に公表した。   その後医療機関内での感染症予防の手段としての予防接種の重要性に関する認識は高まり、医療関係者を対象としてワクチン接種を行う、あるいはワクチン接種を求める医療機関は増加しており、結果としてワクチンが実施されている疾患の医療機関におけるアウトブレイクは著しく減少している。それに伴いガイドライン第1版の利用度はかなり高まっており、大変ありがたいことだと考えている。一方、その内容については、必ずしも現場の実情にそぐわないというご意見、あるいは実施に当たって誤解が生じやすい部分があるなどのご意見も頂いている。そこで、ガイドライン発行から4年近くを経ていることもあり、また我が国では予防接種を取り巻く環境に大きな変化があり予防接種法も2013年4月に改正されるなどしているところから、日本環境感染学会ではガイドライン改訂委員会を再構成し、改訂作業に取り組んだ。   医療関係者は自分自身が感染症から身を守るとともに、自分自身が院内感染の運び屋になってしまってはいけないので、一般の人々よりもさらに感染症予防に積極的である必要があり、また感染症による欠勤等による医療機関の機能低下も防ぐ必要がある。しかし予防接種の実際にあたっては現場での戸惑いは多いところから、医療機関において院内感染対策の一環として行う医療関係者への予防接種についてのガイドラインを日本環境感染学会として策定したものである。この大きな目的は今回の改訂にあたっても変化はないが、医療機関における予防接種のガイドラインは、個人個人への厳格な予防(individual protection)を目的として定めたものではなく、医療機関という集団での免疫度を高める(mass protection)ことが基本的な概念であることを、改訂にあたって再確認をした。すなわち、ごく少数に起こり得る個々の課題までもの解決を求めたものではなく、その場合は個別の対応になるという考え方である。また、ガイドラインとは唯一絶対の方法を示したものではなく、あくまで標準的な方法を提示するものであり、出来るだけ本ガイドラインに沿って実施されることが望まれるものであるが、それぞれの考え方による別の方法を排除するものでは当然ないことも再確認した。   その他にも、基本的には以下のような考え方は重要であることが再確認された。 ・対象となる医療関係者とは、ガイドラインでは、事務職・医療職・学生・ボランティア・委託業者(清掃員その他)を含めて受診患者と接触する可能性のある常勤・非常勤・派遣・アルバイト・実習生・指導教官等のすべてを含む。 ・医療関係者への予防接種は、自らの感染予防と他者ことに受診者や入院者への感染源とならないためのものであり、積極的に行うべきものではあるが、強制力を伴うようなものであってはならない。あくまでそれぞれの医療関係者がその必要性と重要性を理解した上での任意の接種である。 ・有害事象に対して特に注意を払う必要がある。不測の事態を出来るだけ避けるためには、既往歴、現病歴、家族歴などを含む問診の充実および接種前の健康状態確認のための診察、そして接種後の健康状態への注意が必要である。また予防接種を行うところでは、最低限の救急医療物品をそなえておく必要がある。なお万が一の重症副反応が発生した際には、定期接種ではないため国による救済の対象にはならないが、予防接種後副反応報告の厚生労働省への提出と、一般の医薬品による副作用発生時と同様、独立行政法人医薬品医療機器総合機構における審査制度に基づいた健康被害救済が適応される。   * 定期接種、任意接種にかかわらず、副反応と思われる重大な事象(ワクチンとの因果関係が必ずしも明確でない場合、いわゆる有害事象を含む)に遭遇した場合の届け出方法等:http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp250330-1.html ・費用負担に関しては、このガイドラインに明記すべき性格のものではなく、個々の医療機関の判断に任されるものではある。 ・新規採用などにあたっては、すでに予防接種を済ませてから就業させるようにすべきである。学生・実習生等の受入に当たっては、予め免疫を獲得しておくよう勧奨すべきである。また業務委託の業者に対しては、ことにB型肝炎などについては業務に当たる従事者に対してワクチン接種をするよう契約書類の中で明記するなどして、接種の徹底をはかることが望まれる。(以下略)
著者
中村 孝裕 丸山 絢 三﨑 貴子 岡部 信彦 眞明 圭太 橋爪 真弘 村上 義孝 西脇 祐司
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.11, pp.666-676, 2018-11-15 (Released:2018-12-05)
参考文献数
19

目的 川崎市では感染症発生動向調査に加えて2014年3月からインフルエンザに対するリアルタイムサーベイランス(以下,川崎市リアルタイムサーベイランス)を開始した。今後の基礎資料として川崎市リアルタイムサーベイランスの特徴と両サーベイランスシステムの相違比較および週単位感染症報告数の相関について検討した。方法 2014年3月3日(第10週)から2017年10月1日(第39週)までの全187週間のインフルエンザデータを川崎市感染症情報発信システムから収集した。感染症発生動向調査に対し,川崎市リアルタイムサーベイランスは市内1,032施設中691施設(67.0%)登録施設(2017年9月時点)の随時入力であり報告医療機関数が変動する。まずサーベイランスシステムの比較を行った。リアルタイムサーベイランスについては月別,曜日別の医療機関数および日別・ウイルス型別の報告数も比較検討した。疫学週に基づく週別報告数に換算し医療機関数と報告状況を比較した。両サーベイランスの相関は,ピアソン相関係数と95%信頼区間を算出するとともに診療条件が異なる最終週と第1週を削除後の相関係数と95%信頼区間も算出し比較した。結果 感染症発生動向調査の報告医療機関数が平均56.0(SD ±4.2)施設であるのに対し,リアルタイムサーベイランスでは,日,月,曜日,さらにウイルス型ごとに変動がみられた。週別報告数は172週(92.0%)で,リアルタイムサーベイランスの方が感染症発生動向調査を上回った。同一週での報告数の相関分析では,相関係数は0.975(95%CI; 0.967-0.981)であり,最終週と第1週を除外後の相関係数は0.989(95%CI; 0.986-0.992)であった。結論 両サーベイランスにはシステム上相違があるものの,報告数に強い相関を認め,リアルタイムサーベイランスデータの信頼性が確認できた。3シーズンではいずれもA型の流行がB型に先行したが,報告数の増加時期やピークは異なった。リアルタイムサーベイランスは報告がリアルタイムかつウイルスの型別が判明していることから,早期検知や詳細な分析疫学的検討にも利用できると考えられた。報告医療機関数の変動が及ぼす影響についての検討は今後の課題である。これらを理解したうえで両サーベイランスを相補的に利用することが有用であると考えられた。
著者
岡部 信彦
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.33-40, 2011 (Released:2011-05-17)
参考文献数
7
被引用文献数
1 5

予防接種は,生体を感染から守るもっとも重要な医学的予防法である。抗菌薬さらには抗ウイルス薬が使用できるようになった現代においても,その重要性は変わらない。予防接種は,個人の健康を守ることがもっとも重要な目的であるが,個人というよりは次世代の健康をも守ろうとするものもある。あるいは広く集団に免疫(herd immunity)を与え感染症の伝播を制限し,ある疾患が社会全体に広がることを防ぎ,さらにはやがてその病気を人類から追放しようとするものもある。天然痘の根絶達成,ポリオの根絶計画(polio eradication)・麻疹排除計画(measles elimination)に,ワクチンは欠かせない手段である。予防接種は多くの場合は健康な人に対する医療行為であるため,確実に安全であることが求められる。しかし生体に異物を投与する以上,正常な生体反応を超えた,予期せぬ,あるいは極めて稀であると考えられる異常反応が出現し,重大な健康被害が生じることが残念ながら皆無とは言えない。予防接種を行おうとする時には,そのメリットとデメリットについて適切に判断していくことが必要である。大多数が助かるのであればごく少数の被害は止むなし,とする考え方も極端である一方,少数といえども健康被害が発生する可能性がある以上ワクチンは危険・不要である,という意見もまた極端である。予防接種にあたっては,常に適切なバランス感覚を持つ必要がある。
著者
今井 達男 岡部 信彦
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.12, pp.907-915, 2015-12-10 (Released:2016-12-10)
参考文献数
23
被引用文献数
1

The infectiousness of diseases such as: the measles, rubella, the mumps, and the chicken pox is quite strong. When people lack antibodies to these diseases, the chance for infection increases. On a university campus, a person without such antibodies can help spread such diseases. However, as vaccines are available for these diseases and people are vaccinated, the chance for infection and the spreading of these diseases will diminish. At our university, Tokyo University of Pharmacy and Life Sciences, at the start of the recent academic year, an antibody survey was taken of 2,647 students to see which students had lower levels of antibodies to help fight the spread of the aforementioned diseases. Our findings showed antibody-positive rates of 49.0% for the measles, 70.8% for rubella, 75.7% for the mumps, and 92.4% for the chicken pox. With the rate for the chicken pox being the only one meeting an acceptable standard (Fine) in terms of community immunity. On the other hand, although the vaccination rates for the measles and rubella were high, they did not meet an acceptable standard for community immunity (Fine). When the community immunity level is low, the risk of infection is increased and this could lead to an outbreak on campus and affect more than just individuals. In the future, we will encourage students to be fully vaccinated before entering school or soon after doing so in order to protect against such an outbreak from occurring.
著者
菅原 民枝 杉浦 正和 大日 康史 谷口 清州 岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.82, no.5, pp.427-433, 2008-09-20 (Released:2011-02-07)
参考文献数
8
被引用文献数
3

[目的]新型インフルエンザの対策計画が各国で策定されているが, 未知の感染症であるため, 感染の拡大については数理モデルを用いて検討されている. しかしながら, 数理モデルで検証するためのパラメーターがわからない. そこで本研究は第一に新型インフルエンザを想定して, 個人がどの程度の割合で外出を控える行動をするのかを明らかにし, 第二に外出を控えない行動をする要因を明らかにして, 新型インフルエンザ対策に役立てることを目的とした.[方法]調査はアンケート調査とし, 2007年4月に, 調査会社の保有する全国25万世帯が無作為抽出されているパネルから地域年齢群で層別抽出した2,615世帯とした.調査内容は, 新型インフルエンザ国内発生の場合の外出自粛の選択, 在宅勤務体制, 食料備蓄等とした. 解析は, 外出選択を目的変数とし, 多変量解析を行った.[結果]回答は1727世帯, 有効回答者数は5,381人であった. 新型インフルエンザ国内発生の場合の外出自粛の選択は, 勧告に従わず外出すると思う人が6.7%, 様子を見て外出すると思う人が47.1%, 勧告が解除されるまで自宅にとどまると思う人が46.1%であった.現在災害用に食料備蓄をしている世帯は, 3日分程度が29.9%, 1週間程度が58%, 2週間程度が1.5%, していないが628%であった. また, 今後2週間程度の食料備蓄をする予定の世帯は, 29.6%であった.多変量解析では, 30歳代, 40歳代, 男性, 高齢者の就業者, インフルエンザワクチン接種歴の無い者は, 有意に外出する選択をしていることが明らかになった.[考察]本研究により, 新型インフルエンザを想定した一般市民の外出の選択によって, 数理モデルによる外出自粛の効果が検討できるようになった. 30歳代, 40歳代の「外出する」選択確率が高く, この年齢層に大きな影響を与える要因のひとつとして, 職場の対応があると考えられた. 就業者が外出自粛を選択するような対策として, 企業の経営戦略人事管理面での対策が必要であると示唆された.
著者
具 芳明 岡本 悦司 大山 卓昭 谷口 清州 岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.85, no.5, pp.494-500, 2011-09-20 (Released:2017-08-11)
参考文献数
20
被引用文献数
1 2

薬剤耐性菌に対する対策として抗菌薬適正使用が強調されている.しかし,抗菌薬使用量とくに外来での抗菌薬使用量を地域単位で把握する試みはこれまでになされていない.そこで,長野県諏訪地域における 2009 年 12 月から 2010 年 5 月の国民健康保険電子レセプトから抗菌薬処方情報を集計するとともに,同地域の主要病院における薬剤耐性菌の頻度を集計し,外来での抗菌薬使用量との関連について検討した. 同地域における国民健康保険被保険者数は 31,505 人(人口の 27.1%)であり,レセプト電子化率は医科 77.4%,調剤 96.0%であった.外来での抗菌薬総使用量は 9.34 Defined Daily Dose(DDD)/1000 被保険者・日であり,MLS(マクロライドなど),ペニシリン以外の β ラクタム系,キノロン系の順であった.海外における先行研究と比べ,外来抗菌薬使用量は少なく,その内容も特徴的であった.大腸菌のキノロン耐性は外来でのキノロン系抗菌薬の使用量から予想される範囲であったが,マクロライド非感受性肺炎球菌の割合は外来での MLS 使用量から予想されるよりも高かった. 国民健康保険電子レセプトを用いて地域での抗菌薬使用量を算出することが可能であった.抗菌薬総使用量およびその内容は,抗菌薬適正使用を含めた薬剤耐性菌対策を推進する上で有用な基礎情報になるものと考えられた.
著者
岡部 信彦
出版者
金原出版
巻号頁・発行日
pp.575-580, 2021-06-01

予防接種の副反応は,ワクチン液そのものによる有害反応としてとらえられることが多かったが,予防接種を行うという行為そのものが多彩な症状を誘発する可能性がある.WHOのワクチンの安全性専門家会議(GACVS)では,「予防接種ストレス関連反応(Immunization Stress-Related Response:ISRR)」という概念を提唱した.ストレスに対する個人の反応は身体的因子,心理的因子および社会的因子が複合的に絡み合って生じた結果であり,これを理解しておくことはストレス反応の予防,診断,そして適切に対応をするうえで重要であり安全な予防接種に結びつく,というものである.
著者
岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.105, no.11, pp.2120-2125, 2016-11-10 (Released:2017-11-10)
参考文献数
11

1980年地球上からの痘そう(天然痘)の根絶が宣言され,これが感染症に対する人類の勝利のように思われたが,その前後から新しい病原体による新しい感染症が次々と発見され,病原体の逆襲ともいえる状況が続いている.それまで未知であった新しい病原体による新しい感染症あるいは新たに感染症であることが解明された疾患は新興感染症,既知の病原体による疾患が改めて問題になる場合には再興感染症と呼ばれ,警戒されている.本稿では,近年問題となったこれらの感染症について概説する.
著者
新井 智 田中 政宏 岡部 信彦 井上 智
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.377-382, 2007-05-20 (Released:2011-06-17)
参考文献数
20

世界保健機関 (WHO) の勧告によると, 犬の狂犬病は流行している地域の犬の70%にワクチン接種を行うことによって排除または防止できるとされている. 近年, Colemanらは米国, メキシコ, マレーシア, インドネシアで報告された犬の狂犬病流行事例を利用した回帰分析の結果から犬の狂犬病流行を阻止できる狂犬病ワクチン接種率の限界値 (pc) の平均的な推定値を39~57%と報告している. しかしながら, 上限95%信頼限界でのpcの推定値は55~71%であり, ワクチン接種率が70%の時に96.5%の確率で流行を阻止できるとしている. 理論的にはpcが39~57%の場合でも流行の終息が可能と報告されているが, 公衆衛生上の観点から流行を長引かせないで被害の拡大を最小限に押さえるためには, 狂犬病の発生を的確に発見して流行を迅速に終息させる追加施策が必要になると考えられる.
著者
岡部 信彦
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.171-179, 2007 (Released:2008-06-05)
被引用文献数
7 8 2

2007年前半我が国では麻疹の流行があり,大学や高校の休校や,海外への持ち出しなど,社会的にも大きな話題になった. 麻疹ワクチンの導入以来,「皆が罹る重い病気,はしか」は順調にその発生数が減少してきたが,近年では2001年20-30万人の患者発生を見た.この時の流行は圧倒的に幼児に多く,ワクチン接種率50-60%と低い1歳児を対象に「1歳のお誕生日には麻疹ワクチンのプレゼントを」というキャンペーンが全国的に展開された.ほどなく1歳児の麻疹ワクチン接種率は80-90%となり2006年までに麻疹の発生数は1万人を切るとこところにまでなったが,2007年,20歳前後の若者を中心に麻疹の流行が発生した.小児の麻疹は2001年をはるかに下回るものであったが,15歳以上で届けられる成人麻疹の報告数は2001年の流行を上回ったものである. 今回の麻疹流行をきっかけに,国内での麻疹対策はすすみ,2006年6月から導入された麻疹(および風疹)ワクチンの2回接種法(1歳児,小学校入学前1年間)に加えて,中学1年,高校3年年齢も対象とした補足的接種を5年間行なう方針となった.また麻疹はこれまでは小児科定点および基幹病院からの成人麻疹の報告であったが,トレンドの把握ではなく,きちんとした発生の把握とそれに基づいた対策実施のために,全数報告のサーベイランスに変更する方針となり,我が国において麻疹の排除(elimination)を大きい目標とすることが決定された. 本稿では,我が国における,最近の麻疹の疫学状況,WHOの示す麻疹排除(elimination),そして我が国が今後取るべき方向などについてまとめたものである.
著者
岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.91, no.10, pp.2845-2849, 2002-10-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
8
著者
松井 珠乃 高橋 央 大山 卓昭 田中 毅 加來 浩器 小坂 健 千々和 勝巳 岩城 詩子 岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.161-166, 2002
被引用文献数
6

2000年7月にG8サミットが福岡・宮崎市で開催された際, 報告施設を設定し, 急性感染症が疑われる全ての症例を, 出血性・皮膚病変症候群, 呼吸器症候群, 胃腸炎症候群, 神経症候群, および非特異的症候群の5群に分類して集計した. サミット前後各1週間 (第27, 28週) の各症候群の報告数を, 感染症サーベイランスの全数および定数把握対象疾患の関連疾病群の報告数に対する比で表し, 第27週比の第28週比に対する比を算出して, その変動性を検討した. 福岡市の変動比は, 平均±標準偏差=0.99±0.291, 95%信頼区間0.71~1.28, 宮崎市は, 平均±標準偏差=1.19±0.298, 95%信頼区間0.93~1.45と算出され, 共に変動性は低いことが分かった. 宮崎市では複数の症状を有する症例は, 重複報告を許したが, 1症例1症候報告の福岡方式の方が解析は容易であった. 呼吸器感染症の動向は, 感染症サーベイランスでは成人症例が報告対象疾患に少ないため, 症候群サーベイランスの方が検出良好であった. 重大イベント (high-profile event) における症候群サーベイランスは動向を迅速に集計でき, 少ないコストと人力で実施でき, 実効性があると評価された. しかし, 報告集計の基線が観測期間の前後に充分ないと的確な判定が出来ないことや, 報告定点の数や種類に配慮が必要であることが分かった.
著者
相馬 裕樹 細田 智弘 伊藤 守 永江 真也 古橋 和謙 坂本 光男 野﨑 博之 清水 英明 岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.94, no.4, pp.500-506, 2020

<p>新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大によって,入院病床の確保が逼迫する問題となっている. 指定感染症であるCOVID-19 は,一定の基準に則って入退院の決定がなされており,入院期間は長期にわたる.大型クルーズ船によるCOVID-19 集団感染事例において,当院では軽症者を含む11 例のCOVID-19 感染症症例を経験したため,臨床経過から重症化因子と入院期間の延長に関わる因子を考察した.重症度は中国CDC の分類を用いて決定した.11 例の年齢中央値は62 歳,男性4 例・女性7 例で,軽症(mild)が 7 例,中等症(severe)が4 例,重症(critical)が0 例であった.発症から軽快の基準を満たすまでの日数の中央値は,中等症例13 日・軽症例7 日であった.発症からPCR の陰性化が確認できるまでの日数の中央値は,中等症例16 日・軽症例14 日であった.発症から退院までの日数は,中等症例22.5 日・軽症例16 日であった.COVID-19 症例は軽快した後も一部の症例でPCR 検査の陽性が継続し,入院期間の長期化の一因と考えられた.また,中等症例と軽症例を比較すると,中等症例は軽症例に比して入院時の血清フェリチンや血清アミロイドA 蛋白が高い傾向があった.COVID-19 症例の増加による病床数の確保が必要な状況においては,軽症例や入院後に軽快した症例の自宅・宿泊療養が検討される.また経過中に重症化する症例を適切に判別する方法を確立し,治療や二次感染防止のための入院・退院基準に反映することが必要であると考える.</p>
著者
菅原 民枝 大日 康史 具 芳明 川野原 弘和 谷口 清州 岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.195-198, 2012 (Released:2012-08-05)
参考文献数
7
被引用文献数
6 8

感染症流行の早期探知のための薬局サーベイランスでは,抗インフルエンザウイルス薬,抗ヘルペスウイルス薬,解熱鎮痛剤,総合感冒薬,抗菌薬の薬効分類で処方件数のモニタリングをしている.近年,抗菌薬耐性菌感染症の問題があり,諸外国では使用量が算出されて国際比較が行われているが,日本全国でのモニタリングはなされていない.そこで,薬局サーベイランスによる1年間の処方件数を用いて日本全国での外来診療における使用量を算出する方法について検討した.抗菌薬処方を5分類(ペニシリン系,セフェム系,マクロライド系,キノロン系,その他)し,それぞれの処方件数を算出し,先行研究の投与量の分布を用いて,使用量を算出した.それを抗菌薬標準使用量(Defined Daily Dose: DDD)を人口1000人の1日あたりで示した.期間は,2010年8月~2011年7月処方の12ヶ月分である.抗菌薬処方件数は,12月が最も多く,8月が最も少なく,種類ではマクロライド系が多かった.抗菌薬標準使用量DDDは,全国で10.16であった.都道府県別では,西日本が高い傾向があった.
著者
菅原 民枝 大日 康史 川野原 弘和 谷口 清州 岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 : 日本伝染病学会機関誌 : the journal of the Japanese Association for Infectious Diseases (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.8-15, 2011-01-20
参考文献数
14
被引用文献数
2 5

【目的】新型インフルエンザ(2009 インフルエンザA(H1N1))対策では,発生時の早期探知,日ごとの流行状況をモニターするリアルタイムサーベイランスが必要である.そこで本研究は調剤薬局の院外処方せんによる薬局サーベイランスを運用し評価する.抗インフルエンザウイルス剤を処方された人数より,対策に必要な推定患者数を算出しその有用性も検討する. 【方法】全国3,959 薬局から自動的に抗インフルエンザウイルス剤データを収集し,インフルエンザ推定患者数を算出した.サーベイランスの評価は,感染症発生動向調査及び感染症法上届出の新型インフルエンザの全数報告との比較とした.推定患者数の比較は,感染症発生動向調査と岐阜県の全数調査に基づいた推定患者数で行う. 【結果】2009 年4 月20 日から新型インフルエンザ対策として薬局サーベイランスを強化し,翌日7 時には協力薬局および自治体対策関係者に情報提供した.2009 年第28 週から2010 年第12 週までの推定患者数は,9,234,289 人であった.発生動向調査との相関係数は0.992 であった.薬局サーベイランスのインフルエンザ推定患者数,感染症発生動向調査と2 倍強の違いがみられ,岐阜県全数調査で調整した発生動向調査の推定患者数は近似していた. 【考察】薬局サーベイランスは,流行の立ち上がり,ピークの見極め,再度の流行への警戒と長期間にわたってのリアルタイムサーベイランスとして実用的であった.発生動向調査と高い相関関係を示しており,先行指標となった.日ごとのデータによる早期探知,報告基準をかえずに自動的にモニタリングすること,常時運用という態勢は有用であると示唆された.インフルエンザ推定患者数は,発生動向調査の推定患者数の過大推計が示唆され,今後の課題点と考えられた.次のパンデミックを含むインフルエンザ対策として利用可能な手段であり,またインフルエンザに限定せず,アシクロビル製剤による水痘や抗生剤の使用状況のモニタリングといった広い応用が期待される.