著者
日本環境感染症学会ワクチンに関するガイドライン改訂委員会 岡部 信彦 荒川 創一 岩田 敏 庵原 俊昭 白石 正 多屋 馨子 藤本 卓司 三鴨 廣繁 安岡 彰
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.Supplement_III, pp.S1-S14, 2014 (Released:2014-12-05)
参考文献数
50

第2版改訂にあたって   日本環境感染学会では、医療機関における院内感染対策の一環として行う医療関係者への予防接種について「院内感染対策としてのワクチンガイドライン(以下、ガイドライン第1版)」を作成し2009年5月に公表した。   その後医療機関内での感染症予防の手段としての予防接種の重要性に関する認識は高まり、医療関係者を対象としてワクチン接種を行う、あるいはワクチン接種を求める医療機関は増加しており、結果としてワクチンが実施されている疾患の医療機関におけるアウトブレイクは著しく減少している。それに伴いガイドライン第1版の利用度はかなり高まっており、大変ありがたいことだと考えている。一方、その内容については、必ずしも現場の実情にそぐわないというご意見、あるいは実施に当たって誤解が生じやすい部分があるなどのご意見も頂いている。そこで、ガイドライン発行から4年近くを経ていることもあり、また我が国では予防接種を取り巻く環境に大きな変化があり予防接種法も2013年4月に改正されるなどしているところから、日本環境感染学会ではガイドライン改訂委員会を再構成し、改訂作業に取り組んだ。   医療関係者は自分自身が感染症から身を守るとともに、自分自身が院内感染の運び屋になってしまってはいけないので、一般の人々よりもさらに感染症予防に積極的である必要があり、また感染症による欠勤等による医療機関の機能低下も防ぐ必要がある。しかし予防接種の実際にあたっては現場での戸惑いは多いところから、医療機関において院内感染対策の一環として行う医療関係者への予防接種についてのガイドラインを日本環境感染学会として策定したものである。この大きな目的は今回の改訂にあたっても変化はないが、医療機関における予防接種のガイドラインは、個人個人への厳格な予防(individual protection)を目的として定めたものではなく、医療機関という集団での免疫度を高める(mass protection)ことが基本的な概念であることを、改訂にあたって再確認をした。すなわち、ごく少数に起こり得る個々の課題までもの解決を求めたものではなく、その場合は個別の対応になるという考え方である。また、ガイドラインとは唯一絶対の方法を示したものではなく、あくまで標準的な方法を提示するものであり、出来るだけ本ガイドラインに沿って実施されることが望まれるものであるが、それぞれの考え方による別の方法を排除するものでは当然ないことも再確認した。   その他にも、基本的には以下のような考え方は重要であることが再確認された。 ・対象となる医療関係者とは、ガイドラインでは、事務職・医療職・学生・ボランティア・委託業者(清掃員その他)を含めて受診患者と接触する可能性のある常勤・非常勤・派遣・アルバイト・実習生・指導教官等のすべてを含む。 ・医療関係者への予防接種は、自らの感染予防と他者ことに受診者や入院者への感染源とならないためのものであり、積極的に行うべきものではあるが、強制力を伴うようなものであってはならない。あくまでそれぞれの医療関係者がその必要性と重要性を理解した上での任意の接種である。 ・有害事象に対して特に注意を払う必要がある。不測の事態を出来るだけ避けるためには、既往歴、現病歴、家族歴などを含む問診の充実および接種前の健康状態確認のための診察、そして接種後の健康状態への注意が必要である。また予防接種を行うところでは、最低限の救急医療物品をそなえておく必要がある。なお万が一の重症副反応が発生した際には、定期接種ではないため国による救済の対象にはならないが、予防接種後副反応報告の厚生労働省への提出と、一般の医薬品による副作用発生時と同様、独立行政法人医薬品医療機器総合機構における審査制度に基づいた健康被害救済が適応される。   * 定期接種、任意接種にかかわらず、副反応と思われる重大な事象(ワクチンとの因果関係が必ずしも明確でない場合、いわゆる有害事象を含む)に遭遇した場合の届け出方法等:http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp250330-1.html ・費用負担に関しては、このガイドラインに明記すべき性格のものではなく、個々の医療機関の判断に任されるものではある。 ・新規採用などにあたっては、すでに予防接種を済ませてから就業させるようにすべきである。学生・実習生等の受入に当たっては、予め免疫を獲得しておくよう勧奨すべきである。また業務委託の業者に対しては、ことにB型肝炎などについては業務に当たる従事者に対してワクチン接種をするよう契約書類の中で明記するなどして、接種の徹底をはかることが望まれる。(以下略)
著者
岡部 信彦
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.33-40, 2011 (Released:2011-05-17)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

予防接種は,生体を感染から守るもっとも重要な医学的予防法である。抗菌薬さらには抗ウイルス薬が使用できるようになった現代においても,その重要性は変わらない。予防接種は,個人の健康を守ることがもっとも重要な目的であるが,個人というよりは次世代の健康をも守ろうとするものもある。あるいは広く集団に免疫(herd immunity)を与え感染症の伝播を制限し,ある疾患が社会全体に広がることを防ぎ,さらにはやがてその病気を人類から追放しようとするものもある。天然痘の根絶達成,ポリオの根絶計画(polio eradication)・麻疹排除計画(measles elimination)に,ワクチンは欠かせない手段である。予防接種は多くの場合は健康な人に対する医療行為であるため,確実に安全であることが求められる。しかし生体に異物を投与する以上,正常な生体反応を超えた,予期せぬ,あるいは極めて稀であると考えられる異常反応が出現し,重大な健康被害が生じることが残念ながら皆無とは言えない。予防接種を行おうとする時には,そのメリットとデメリットについて適切に判断していくことが必要である。大多数が助かるのであればごく少数の被害は止むなし,とする考え方も極端である一方,少数といえども健康被害が発生する可能性がある以上ワクチンは危険・不要である,という意見もまた極端である。予防接種にあたっては,常に適切なバランス感覚を持つ必要がある。
著者
今井 達男 岡部 信彦
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.12, pp.907-915, 2015-12-10 (Released:2016-12-10)
参考文献数
23

The infectiousness of diseases such as: the measles, rubella, the mumps, and the chicken pox is quite strong. When people lack antibodies to these diseases, the chance for infection increases. On a university campus, a person without such antibodies can help spread such diseases. However, as vaccines are available for these diseases and people are vaccinated, the chance for infection and the spreading of these diseases will diminish. At our university, Tokyo University of Pharmacy and Life Sciences, at the start of the recent academic year, an antibody survey was taken of 2,647 students to see which students had lower levels of antibodies to help fight the spread of the aforementioned diseases. Our findings showed antibody-positive rates of 49.0% for the measles, 70.8% for rubella, 75.7% for the mumps, and 92.4% for the chicken pox. With the rate for the chicken pox being the only one meeting an acceptable standard (Fine) in terms of community immunity. On the other hand, although the vaccination rates for the measles and rubella were high, they did not meet an acceptable standard for community immunity (Fine). When the community immunity level is low, the risk of infection is increased and this could lead to an outbreak on campus and affect more than just individuals. In the future, we will encourage students to be fully vaccinated before entering school or soon after doing so in order to protect against such an outbreak from occurring.
著者
具 芳明 岡本 悦司 大山 卓昭 谷口 清州 岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.85, no.5, pp.494-500, 2011-09-20 (Released:2017-08-11)
参考文献数
20
被引用文献数
1

薬剤耐性菌に対する対策として抗菌薬適正使用が強調されている.しかし,抗菌薬使用量とくに外来での抗菌薬使用量を地域単位で把握する試みはこれまでになされていない.そこで,長野県諏訪地域における 2009 年 12 月から 2010 年 5 月の国民健康保険電子レセプトから抗菌薬処方情報を集計するとともに,同地域の主要病院における薬剤耐性菌の頻度を集計し,外来での抗菌薬使用量との関連について検討した. 同地域における国民健康保険被保険者数は 31,505 人(人口の 27.1%)であり,レセプト電子化率は医科 77.4%,調剤 96.0%であった.外来での抗菌薬総使用量は 9.34 Defined Daily Dose(DDD)/1000 被保険者・日であり,MLS(マクロライドなど),ペニシリン以外の β ラクタム系,キノロン系の順であった.海外における先行研究と比べ,外来抗菌薬使用量は少なく,その内容も特徴的であった.大腸菌のキノロン耐性は外来でのキノロン系抗菌薬の使用量から予想される範囲であったが,マクロライド非感受性肺炎球菌の割合は外来での MLS 使用量から予想されるよりも高かった. 国民健康保険電子レセプトを用いて地域での抗菌薬使用量を算出することが可能であった.抗菌薬総使用量およびその内容は,抗菌薬適正使用を含めた薬剤耐性菌対策を推進する上で有用な基礎情報になるものと考えられた.
著者
中村 孝裕 丸山 絢 三﨑 貴子 岡部 信彦 眞明 圭太 橋爪 真弘 村上 義孝 西脇 祐司
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.11, pp.666-676, 2018-11-15 (Released:2018-12-05)
参考文献数
19

目的 川崎市では感染症発生動向調査に加えて2014年3月からインフルエンザに対するリアルタイムサーベイランス(以下,川崎市リアルタイムサーベイランス)を開始した。今後の基礎資料として川崎市リアルタイムサーベイランスの特徴と両サーベイランスシステムの相違比較および週単位感染症報告数の相関について検討した。方法 2014年3月3日(第10週)から2017年10月1日(第39週)までの全187週間のインフルエンザデータを川崎市感染症情報発信システムから収集した。感染症発生動向調査に対し,川崎市リアルタイムサーベイランスは市内1,032施設中691施設(67.0%)登録施設(2017年9月時点)の随時入力であり報告医療機関数が変動する。まずサーベイランスシステムの比較を行った。リアルタイムサーベイランスについては月別,曜日別の医療機関数および日別・ウイルス型別の報告数も比較検討した。疫学週に基づく週別報告数に換算し医療機関数と報告状況を比較した。両サーベイランスの相関は,ピアソン相関係数と95%信頼区間を算出するとともに診療条件が異なる最終週と第1週を削除後の相関係数と95%信頼区間も算出し比較した。結果 感染症発生動向調査の報告医療機関数が平均56.0(SD ±4.2)施設であるのに対し,リアルタイムサーベイランスでは,日,月,曜日,さらにウイルス型ごとに変動がみられた。週別報告数は172週(92.0%)で,リアルタイムサーベイランスの方が感染症発生動向調査を上回った。同一週での報告数の相関分析では,相関係数は0.975(95%CI; 0.967-0.981)であり,最終週と第1週を除外後の相関係数は0.989(95%CI; 0.986-0.992)であった。結論 両サーベイランスにはシステム上相違があるものの,報告数に強い相関を認め,リアルタイムサーベイランスデータの信頼性が確認できた。3シーズンではいずれもA型の流行がB型に先行したが,報告数の増加時期やピークは異なった。リアルタイムサーベイランスは報告がリアルタイムかつウイルスの型別が判明していることから,早期検知や詳細な分析疫学的検討にも利用できると考えられた。報告医療機関数の変動が及ぼす影響についての検討は今後の課題である。これらを理解したうえで両サーベイランスを相補的に利用することが有用であると考えられた。
著者
菅原 民枝 大日 康史 多屋 馨子 及川 馨 羽根田 紀幸 菊池 清 加藤 文英 山口 清次 吉川 哲史 中野 貴司 庵原 俊昭 堤 裕幸 浅野 喜造 神谷 齊 岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.81, no.5, pp.555-561, 2007-09-20 (Released:2011-05-20)
参考文献数
19
被引用文献数
6 5

目的: 現在ムンプスワクチンの予防接種は任意接種であるが, 定期接種化された場合の費用対効果分析を行った.方法: 本研究は, 外来診療における医療費と家族の看護負担に関する調査を行い, 入院や後遺症死亡例の重症化例の情報を加味した.外来診療の医療費と家族看護に関する調査は, 平成16年6月15日から平成18年1月15日までの19カ月間, 人口10万人都市で, 小児科を標榜する9診療所と県立病院大学付属病院の11医療機関で実施した.入院例調査は, 平成16年1月から平成17年12月までの2年間, ムンプス及びムンプスワクチン関連により24時間以上入院あるいは死亡した例について実施した.結果: 外来診療に関する回収は189枚家族票112枚であった. 外来診療の疾病負担は, 家族看護費用も含めて平均値471億円 (最大値2, 331億円, 最小値6億円) であった.ムンプスの入院患者数は全国で4596例と推測した. 入院は, 家族看護も含めて平均値13.5億円であった. 後遺症, 死亡例を加え総疾病負担は, 平均値525億円 (最大値2434億円, 最小値109億円) であった.費用対効果分析では, 予防接種費用を6000円とすると, 増分便益費用比は, 5.2であり, 95%信頼区間下限においても1を上回っていた.考察: 増分便益費用比は1を上回っており, 定期接種化によってもたされる追加的な便益が, 追加的な費用を上回っていた. したがって, ムンプスワクチンの定期接種化に向けて政策的根拠が確認された.
著者
徳田 浩一 五十嵐 正巳 山本 久美 多屋 馨子 中島 一敏 中西 好子 島 史子 寺西 新 谷口 清州 岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 : 日本伝染病学会機関誌 : the journal of the Japanese Association for Infectious Diseases (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.714-720, 2010-11-20
参考文献数
10
被引用文献数
1

2007 年3 月初旬,練馬区内の公立高校(生徒数792 人)で麻疹発生が探知された.同校は,練馬区保健所及び東京都教育庁と連携し,ワクチン接種勧奨や学校行事中止,臨時休業を実施したが発病者が増加した.対応方針決定に詳細な疫学調査が必要となったため,同保健所の依頼で国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(Field Epidemiology Training Program : FETP)チームが調査支援を実施した.全校生徒と教職員を対象として症状や医療機関受診歴などを調査し,28 人の症例が探知された.麻疹未罹患かつ麻疹含有ワクチン(以下,ワクチン)未接種者に対する電話でのワクチン接種勧奨や保護者説明会,緊急ワクチン接種等の対策を導入し,以後新たな発病者はなかった.症例のうちワクチン接種群(n=12)は,最高体温,発熱期間,カタル症状(咳,鼻汁,眼充血)の発現率が,未接種群(n=13)より有意に軽症であった(p<0.05).過去における1 回接種の効果を評価したところ,93.9%(95%CI : 87~97)(麻疹単抗原93.5%,MMR 94.3%)であり,製造会社別ワクチン効果にも有意差はなかった.1 回接種群(n=838)に発病者があり,2 回接種群(n=21)に発病者がないことから,1 回接種による発病阻止及び集団発生防止効果の限界が示唆された.集団発生時の対策として,文書配布のみによる注意喚起や接種勧奨では生徒や保護者の接種行動をはじめとした実際の感染対策には繋がり難く,母子健康手帳など記録による入学時の感受性者把握やワクチン接種勧奨,麻疹発病者の早期探知など,平時からの対策が必要であり,発病者が1 人でも発生した場合,学校・行政・医療機関の連携による緊急ワクチン接種や有症者の早期探知と休校措置を含めた積極的な対応策を早急に開始すべきと考えられた.
著者
新井 智 鈴木 里和 多屋 馨子 大山 卓昭 小坂 健 谷口 清州 岡部 信彦
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.181-190, 2005

ヒトエキノコックス症は, 1999年4月から施行された感染症法に基づく四類感染症, 感染症発生動向調査全数報告疾患に規定され, 国内患者サーベイランス (感染症サーベイランス) が実施されている.1999年4月から2002年12月までの感染症サーベイランスの結果から, 単包虫症が3例 (27~81歳, 中央値55歳), 多包虫症51例 (15~86歳, 中央値64歳) が報告されている.多包虫症については, 年齢が上昇するにつれて報告数も増加し, 71歳以上の報告が最も多かった.3例の単包虫症は全て本州からの報告で推定海外感染例として報告された.全報告症例のうち症状を伴っているとされた症例は17例であった.感染経路が明らかであった症例は認められなかった.多包虫症は, 51症例中50例までが北海道の保健所からの報告であった.北海道を6地区に分類し症例を地域ごとに集計したところ, 報告数は石狩・胆振・後志地区 (20例), 根室・網走・釧路地区 (15例) が多かったが, 住民人口10万人あたりの報告数とすると, 根室・網走・釧路地区 (2.13/10万人) についで, 宗谷・留萌地区 (2.05/10万人) の順であった.これらの結果は, 数年以上前の感染発生状況を示しており, 1999年4月から2002年12月までのサーベイランス実施時期の感染発生状況は不明であった.
著者
日本環境感染症学会ワクチンに関するガイドライン改訂委員会 岡部 信彦 荒川 創一 岩田 敏 庵原 俊昭 白石 正 多屋 馨子 藤本 卓司 三鴨 廣繁 安岡 彰
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.S1-S14, 2014

第2版改訂にあたって<br>   日本環境感染学会では、医療機関における院内感染対策の一環として行う医療関係者への予防接種について「院内感染対策としてのワクチンガイドライン(以下、ガイドライン第1版)」を作成し2009年5月に公表した。<br>   その後医療機関内での感染症予防の手段としての予防接種の重要性に関する認識は高まり、医療関係者を対象としてワクチン接種を行う、あるいはワクチン接種を求める医療機関は増加しており、結果としてワクチンが実施されている疾患の医療機関におけるアウトブレイクは著しく減少している。それに伴いガイドライン第1版の利用度はかなり高まっており、大変ありがたいことだと考えている。一方、その内容については、必ずしも現場の実情にそぐわないというご意見、あるいは実施に当たって誤解が生じやすい部分があるなどのご意見も頂いている。そこで、ガイドライン発行から4年近くを経ていることもあり、また我が国では予防接種を取り巻く環境に大きな変化があり予防接種法も2013年4月に改正されるなどしているところから、日本環境感染学会ではガイドライン改訂委員会を再構成し、改訂作業に取り組んだ。<br>   医療関係者は自分自身が感染症から身を守るとともに、自分自身が院内感染の運び屋になってしまってはいけないので、一般の人々よりもさらに感染症予防に積極的である必要があり、また感染症による欠勤等による医療機関の機能低下も防ぐ必要がある。しかし予防接種の実際にあたっては現場での戸惑いは多いところから、医療機関において院内感染対策の一環として行う医療関係者への予防接種についてのガイドラインを日本環境感染学会として策定したものである。この大きな目的は今回の改訂にあたっても変化はないが、医療機関における予防接種のガイドラインは、個人個人への厳格な予防(individual protection)を目的として定めたものではなく、医療機関という集団での免疫度を高める(mass protection)ことが基本的な概念であることを、改訂にあたって再確認をした。すなわち、ごく少数に起こり得る個々の課題までもの解決を求めたものではなく、その場合は個別の対応になるという考え方である。また、ガイドラインとは唯一絶対の方法を示したものではなく、あくまで標準的な方法を提示するものであり、出来るだけ本ガイドラインに沿って実施されることが望まれるものであるが、それぞれの考え方による別の方法を排除するものでは当然ないことも再確認した。<br>   その他にも、基本的には以下のような考え方は重要であることが再確認された。<br> ・対象となる医療関係者とは、ガイドラインでは、事務職・医療職・学生・ボランティア・委託業者(清掃員その他)を含めて受診患者と接触する可能性のある常勤・非常勤・派遣・アルバイト・実習生・指導教官等のすべてを含む。<br> ・医療関係者への予防接種は、自らの感染予防と他者ことに受診者や入院者への感染源とならないためのものであり、積極的に行うべきものではあるが、強制力を伴うようなものであってはならない。あくまでそれぞれの医療関係者がその必要性と重要性を理解した上での任意の接種である。<br> ・有害事象に対して特に注意を払う必要がある。不測の事態を出来るだけ避けるためには、既往歴、現病歴、家族歴などを含む問診の充実および接種前の健康状態確認のための診察、そして接種後の健康状態への注意が必要である。また予防接種を行うところでは、最低限の救急医療物品をそなえておく必要がある。なお万が一の重症副反応が発生した際には、定期接種ではないため国による救済の対象にはならないが、予防接種後副反応報告の厚生労働省への提出と、一般の医薬品による副作用発生時と同様、独立行政法人医薬品医療機器総合機構における審査制度に基づいた健康被害救済が適応される。<br>   * 定期接種、任意接種にかかわらず、副反応と思われる重大な事象(ワクチンとの因果関係が必ずしも明確でない場合、いわゆる有害事象を含む)に遭遇した場合の届け出方法等:http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp250330-1.html<br> ・費用負担に関しては、このガイドラインに明記すべき性格のものではなく、個々の医療機関の判断に任されるものではある。<br> ・新規採用などにあたっては、すでに予防接種を済ませてから就業させるようにすべきである。学生・実習生等の受入に当たっては、予め免疫を獲得しておくよう勧奨すべきである。また業務委託の業者に対しては、ことにB型肝炎などについては業務に当たる従事者に対してワクチン接種をするよう契約書類の中で明記するなどして、接種の徹底をはかることが望まれる。<br>(以下略)<br>
著者
新井 智 田中 政宏 岡部 信彦 井上 智
出版者
日本獸医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 = Journal of the Japan Veterinary Medical Association (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.377-382, 2007-05-20
参考文献数
20

世界保健機関(WHO)の勧告によると、犬の狂犬病は流行している地域の犬の70%にワクチン接種を行うことによって排除または防止できるとされている。近年、Colemanらは米国、メキシコ、マレーシア、インドネシアで報告された犬の狂犬病流行事例を利用した回帰分析の結果から犬の狂犬病流行を阻止できる狂犬病ワクチン接種率の限界値(Pc)の平均的な推定値を39-57%と報告している。しかしながら、上限95%信頼限界でのPcの推定値は55-71%であり、ワクチン接種率が70%の時に96.5%の確率で流行を阻止できるとしている。理論的にはPcが39-57%の場合でも流行の終息が可能と報告されているが、公衆衛生上の観点から流行を長引かせないで被害の拡大を最小限に押さえるためには、狂犬病の発生を的確に発見して流行を迅速に終息させる追加施策が必要になると考えられる。
著者
岡部 信彦
出版者
The Japan Society of Veterinary Epidemiology
雑誌
獣医疫学雑誌 (ISSN:13432583)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.1-3, 2010

20世紀に3回,通常の流行を超える大規模なインフルエンザの発生があったが,1968年の香港型インフルエンザの登場以来40年間,人類は通常と異なるインフルエンザの来襲は受けてこなかった。そこで新たなインフルエンザの地球規模での流行(パンデミック)への備えが,ここ数年,大きな関心を持って世界中ですすめられてきた。パンデミック対策の基本は,出来るだけ新たなウイルスの発祥を遅くし,発祥した場合には疾病の拡大を遅らせ,また拡大した場合には健康被害と社会の混乱を出来るだけ少なくするところにある。その対策は,医学・医療の分野だけではなく,公衆衛生的対応,そして社会における理解と取り組み,そしてこれらの組み合わせが必要である。さらに,これらの対策は新型インフルエンザ対策だけのためだけではなく,その他の新たな感染症あるいは既存の感染症のアウトブレイクへの対応に応用が可能であり,感染症対策全体の底上げとなるものである。<BR>そのような中,今回メキシコにおいてこれまでに人類が経験したことがないインフルエンザウイルスが発生し,「新型インフルエンザ」とされた。このウイルスは北アメリカからヨーロッパ,アジア,そして南半球へと世界中に拡大した。わが国では,2009.5.9.に成田空港検疫で新型インフルエンザの患者が検知され,その後5.16.神戸市,ついで5.17.大阪府内での確定例の確認があり,兵庫県内,大阪府内の高校を中心にした集団感染が明らかとなった。地域での学校閉鎖や濃厚接触者に自宅待機を要請するなどの対策が行われ,そのために兵庫県内や大阪府内での一般社会への広がりはかなり抑えられた。しかし6月中旬頃から再び日本各地での発生が続き,8月頃に例年の12月のようなインフルエンザ様疾患の発生状況となり,10-11月に例年の冬のような様相となり,そして12月に入りようやく減少傾向となった。平成22年第4週における国内における累積患者数は推計約2000万人を超え,過去9シーズンのインフルエンザ(季節性インフルエンザ)の流行の最大であった2004/05シーズンの1800万人を超えたが,ピークの高さは季節性インフルエンザのそれを下回り過去9シーズンで第3位,流行期間も29週間と季節性インフルエンザより長引いた。<BR>新型インフルエンザ(パンデミック)の発生にあたって,その対策の主眼は「流行の侵入を出来るだけ遅くし,侵入した場合には流行が一気に広がることを防ぎピークが高くなることを抑える。その結果として流行が長引くことはあり得る」であったが,流行が沈静化してみると,結果としては当初目指したものに大分近づいているかのように思える。<BR>新型インフルエンザ患者の中には,重症肺炎や急性脳症発生例そして死亡例も発生している。しかし,わが国では推計される累計患者数2100万人(2010年13週)のなかで,厚生労働省に報告(2010.3.23まで)された死亡者数198人というのは,報告外の患者数が多数いるとは考えられるものの海外の多くの国に比して著しく少ない割合であり,人口10万対の死亡率は0.15であった。また,海外に比し妊婦の入院数,重症者が少ないのもわが国のユニークなところである。WHOからは妊婦の重症化などが警告され,わが国においても妊婦への新型インフルエンザワクチン接種は高い優先中と位置づけられたが,国内で妊婦の入院数は0.4%程度にすぎず,死亡例の報告もない。一方新型インフルエンザでも,わが国においては急性脳症がすくなからず発生しており,感染症法に基づいて届け出られたインフルエンザ脳症患者数は300例近くとなっている点は,重要視すべきところである。<BR>わが国における入院者や死亡者発生の状況,妊婦の入院率などは海外に比してかなり低くなっており,国際会議・国際学会などでも注目されているところである。これは決して自然にそうなったのではなく,臨床医・公衆衛生担当者など関係者の努力,そして一般の人々の新型インフルエンザに関する関心の高さは大きな影響を与えているのではないかと考えている。<BR>インフルエンザは,季節性インフルエンザであっても新型であっても,多くの人はほぼ自然に回復する。しかし膨大な人が毎シーズン発症している。罹患者が多くなれば,たとえその頻度は低くても重症者,合併症併発者,死亡者の数は増加する。殺到する軽~中等症患者の外来治療と,重症者を如何に速やかに救うかが,医療における大きな命題である。学校などにおいては,個人の回復・重症化予防と同時に,集団での感染拡大予防策もあわせて考慮しなくてはならない。(View PDF for the rest of the abstract.)
著者
岡部 信彦
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.171-179, 2007 (Released:2008-06-05)
被引用文献数
6 5 2

2007年前半我が国では麻疹の流行があり,大学や高校の休校や,海外への持ち出しなど,社会的にも大きな話題になった. 麻疹ワクチンの導入以来,「皆が罹る重い病気,はしか」は順調にその発生数が減少してきたが,近年では2001年20-30万人の患者発生を見た.この時の流行は圧倒的に幼児に多く,ワクチン接種率50-60%と低い1歳児を対象に「1歳のお誕生日には麻疹ワクチンのプレゼントを」というキャンペーンが全国的に展開された.ほどなく1歳児の麻疹ワクチン接種率は80-90%となり2006年までに麻疹の発生数は1万人を切るとこところにまでなったが,2007年,20歳前後の若者を中心に麻疹の流行が発生した.小児の麻疹は2001年をはるかに下回るものであったが,15歳以上で届けられる成人麻疹の報告数は2001年の流行を上回ったものである. 今回の麻疹流行をきっかけに,国内での麻疹対策はすすみ,2006年6月から導入された麻疹(および風疹)ワクチンの2回接種法(1歳児,小学校入学前1年間)に加えて,中学1年,高校3年年齢も対象とした補足的接種を5年間行なう方針となった.また麻疹はこれまでは小児科定点および基幹病院からの成人麻疹の報告であったが,トレンドの把握ではなく,きちんとした発生の把握とそれに基づいた対策実施のために,全数報告のサーベイランスに変更する方針となり,我が国において麻疹の排除(elimination)を大きい目標とすることが決定された. 本稿では,我が国における,最近の麻疹の疫学状況,WHOの示す麻疹排除(elimination),そして我が国が今後取るべき方向などについてまとめたものである.