著者
大川 真由子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.25-44, 2004-06-30 (Released:2017-09-28)

本稿は、オマーンにおいて専門職として社会進出を果たしているアフリカ系オマーン人のエスニック・アイデンティティを明らかにすることを目的としている。具体的には1970年代以降のオマーン社会において、ネイティブ・オマーン人との関係性の中で、「ザンジバリー」という社会カテゴリーがどのように生成・表象されてきたのかを検討し、名称(「名づけ」と「名乗り」)、系譜、混血といって視点から彼らのエスニック・アイデンティティを分析する。一般的な移民と異なり、アフリカ系オマーン人は移住先だけではなく、祖国でも差異化されるという特徴をもつ帰還移民である。アフリカ系オマーン人は、東アフリカへの移住、スワヒリ化、ザンジバル革命、オマーンへの帰国というさまざまな歴史的経験を通じて、複雑なアイデンティティを形成した。本稿はこうした歴史的経験に加え、父系を強調するアラブの系譜意識が彼らのアイデンティティ形成に影響を与えることを指摘する。ネイティブ・オマーン人から「ザンジバリー」と呼ばれ、アラブとみなされていないにもかかわらず、アフリカ系オマーン人は系譜を用いてみずからのアラブ性を主張する。筆者は、「ザンジバリー」と「名づけ」られた側の「名乗り」や自意識のあり方の考察を通じて、彼らのアラブ性の主張のなかにも多様性が存在することを明らかにする。さらにはその主張が実践を伴わないことを示すことにより、彼らのエスニック・アイデンティティの揺れを描写することが可能となるのである。

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