- 著者
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平田 昌弘
- 出版者
- 日本文化人類学会
- 雑誌
- 文化人類学 (ISSN:13490648)
- 巻号頁・発行日
- vol.82, no.2, pp.131-150, 2017 (Released:2018-04-13)
- 参考文献数
- 36
- 被引用文献数
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本稿では、アンデス高地のリャマ・アルパカ牧畜で搾乳がおこなわれなかった要因を検討するために、牧畜民のリャマ・アルパカ群管理、特に牧夫の母子畜間の介入について現地調査をおこなった。リャマ・アルパカの子畜の出産に際し、毎日の日帰り放牧を実現させるために、母子畜分離を実施するかどうかを検討した結果、母子畜分離を全くおこなわない、おこなう必要がないことが明らかとなった。その理由は、1)子畜が数時間で歩き始めるというリャマ・アルパカの身体特性、2)放牧の移動速度が遅いというリャマ・アルパカの行動特性、3)目的とする放牧地では家畜群はほぼ停滞しながら採食するというリャマ・アルパカの行動特性、4)放牧領域が狭いというリャマ・アルパカ群放牧管理の特性、5)放牧地の独占という所有形態に起因していた。更に、夜間の子畜の保護のための母子畜分離、子畜の離乳のための母子畜分離も全くおこなわれていなかった。リャマ・アルパカの母子畜管理の特徴は、母子畜は基本的には自由に一緒に過ごさせ、母子畜を強制的に分離していないことにある。「非母子畜分離-母子畜間の関係性維持」の状況下においては、母子畜間への介入は多くを必要としない。孤児が生じたとしても、牧夫の「家畜が死ねば食料になるという価値観」から、乳母づけもしない。母子畜間に介入の契機が生じないということは、搾乳 へと至る過程も生起し難いことになる。つまり、リャマ・アルパカにおいては搾乳へと発展していかなかったことになる。これが、牧畜民と家畜との関係性の視座からのリャマ・アルパカ牧畜の非搾乳仮説となる。リャマ・アルパカ牧畜では強制的に母子畜を分離しないことによる母子畜間の関係性維持、そして、催乳という技術を必要とするなどラクダ科動物の搾乳への行為に至る難しさが、搾乳へと向かわせなかった重要な要因と考えられた。