- 著者
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山下 仁
- 出版者
- 公益社団法人 全日本鍼灸学会
- 雑誌
- 全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, no.5, pp.703-712, 2006-11-01 (Released:2011-08-17)
- 参考文献数
- 31
- 被引用文献数
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1
欧米における鍼の利用状況と臨床研究の傾向を概観し、そこから見えてくる日本鍼灸の課題について述べる。欧米先進諸国における鍼受療経験者は増えつつあるが、国民に占める割合としては日本のほうが圧倒的に多い。鍼施術に関する法的な規制は国によって様々であるが、EU諸国では医師でなければ施術してはならない国が多い。欧米における鍼治療の方式や基礎としている理論は中医学が圧倒的に優勢である。近年ではevidence-based medicine (EBM) の考え方が医療界に浸透するのにともない、鍼のランダム化比較試験 (RCT) が盛んに実施されるようになった。RCT実施数や研究助成額の面から見れば、欧米のほうが日本よりも鍼の研究体制が進んでいるといえる。しかしRCTにおける偽鍼群の設定には大きな問題があり、今後はより臨床に近い設定であるpragmatic trialがもっと実施されるべきである。鍼灸が国際化してきた今、要素還元主義の強い研究手法ばかりを模倣していると、再び明治維新で日本政府が東洋医学を捨てたときのように伝承医術の大切な精神を失うことになりかねない。EBMの概念を尊重することは重要だが、同時に、日本鍼灸とは何か、鍼灸臨床におけるArtの側面をどうやって評価するのか、といったことについて深く議論してゆくことが日本の鍼灸の重要な課題であると考える。