- 著者
-
眞木 吉信
- 出版者
- 公益社団法人 日本口腔インプラント学会
- 雑誌
- 日本口腔インプラント学会誌 (ISSN:09146695)
- 巻号頁・発行日
- vol.30, no.3, pp.174-181, 2017-09-30 (Released:2017-11-05)
- 参考文献数
- 39
フッ化物配合歯磨剤は成人や高齢者にも,う蝕予防効果をもたらすことは周知の事実である.近年,一部の基礎実験研究の結果をもとに,フッ化物配合歯磨剤がインプラント周囲炎のリスクになる可能性が指摘されている.日本口腔衛生学会ではフッ化物配合歯磨剤がインプラント周囲炎のリスクになるか評価することを目的として,ヒトを対象とした疫学研究および5つの観点からの基礎研究を文献データベースより収集した.その結果,実際にヒトを対象とした疫学研究は存在しなかった.さらに,基礎研究の結果から,1)pHが4.7以下の酸性状態が継続した場合,フッ化物配合歯磨剤によりチタンが侵襲されうるが,中性,アルカリ性,または弱酸性のフッ化物配合歯磨剤を利用しても,侵襲の可能性はきわめて低い,2)歯磨剤を利用しないブラッシングでもチタン表面が侵襲され,歯磨剤を利用したブラッシングでもフッ化物の有無による侵襲の程度に差はない,3)チタン表面の侵襲の有無で,細菌の付着に差はなく,フッ化物の利用により細菌の付着が抑制された報告も存在する,4)実際の口腔内では唾液の希釈作用でフッ化物イオン濃度は低下するため侵襲の可能性は低い,5)フッ化物配合歯磨剤の利用により細菌の酸産生能が抑制されるため,チタンが侵襲されるpHにはなりにくいことが分かった.以上の結果をまとめると,チタンインプラント利用者にフッ化物配合歯磨剤の利用を中止する利益はなく,中止によるう蝕リスクの増加が懸念される.