著者
森 真一
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.404-421, 2011-03-31 (Released:2013-03-01)
参考文献数
21

本稿の目的は,心理主義化社会とニヒリズムの関係を明らかにすることである.この目的を果たすため,本稿はA. ギデンズの『モダニティと自己アイデンティティ(MSI)』(以下MSIと略す)を心理主義化論として読み,彼が提起する問題を出発点とする.MSIは,「心理学」がニヒリズム克服に寄与する可能性を示唆しながらも,もっぱらニヒリズムの再生産に寄与するものと捉える.ニヒリズムゆえに心理主義を一貫して批判してきた精神科医V. フランクルは,患者が「人生の意味」を発見できるように治療を行い,ニヒリズムの克服をめざす.フランクルの実存分析からは,「心理学」がニヒリズムの克服へと人々を向かわせていることが読みとれる.じつはギデンズも,抑圧された実存的問いが生のポリティクスとして回帰していることを示すことで,人々のニヒリズム克服行動を捉えようとしている.ギデンズやフランクルの著作からは,心理主義化社会において,「心理学」がニヒリズムを背景に隆盛し,ニヒリズムを再生産しているものの,他方でニヒリズム克服にも直接的・間接的に貢献しているように見受けられる.だが,ハイデガーの存在論からすれば,実存分析や生のポリティクスのようなニヒリズム克服の努力こそ,ニヒリズムの本質を表している.心理主義化社会は,二重の意味でニヒリズムであることを明らかにしたい.

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