著者
竹林 正樹 後藤 励
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.68-74, 2023-05-31 (Released:2023-06-22)
参考文献数
38

本稿は,健康支援関係者に向け,行動経済学やナッジの原理を概説することを目的とする.経済学は,人・物・金といった限られたリソースをどのように配分すると満足度を高めることができるのかを分析する学問である.伝統的経済学では,目的達成のために手立てを整えてベストを尽くす「合理的経済人」をモデルとする.行動経済学は,健康の大切さを頭でわかっていても認知バイアスの影響で望ましい行動ができないような「ヒューマン」を対象とする.ナッジは行動経済学から派生した行動促進手法で,認知バイアスの特性に沿ってヒューマンを望ましい行動へと促す設計である.ナッジが行動を後押しできるのは,認知バイアスには一定の系統性があり,ヒューマンの反応が一定の確率で予測できるからである.ナッジは他の介入に比べて費用対効果が高く,ナッジの中でも「デフォルト変更」に高い効果が報告されている.一方で,ナッジは行動変容を継続させるほどの効果は期待できないことや,日本での研究が少ないことといった限界がある.ナッジはヒューマンの自動システムに働きかける介入であり,倫理的配慮が求められる.介入設計に当たってはスラッジ(選択的アーキテクチャーの要素のうち,選択をする当人の利益を得にくくする摩擦や障害を含む全ての要素)になる可能性がないかを入念に検討する必要がある.

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