著者
竹林 正樹 小山 達也 千葉 綾乃 吉池 信男
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.240-247, 2022-08-31 (Released:2022-09-07)
参考文献数
20

目的:大学生を対象にした健康教育関連シンポジウムの案内チラシにおけるナッジ別の参加意欲の検証.方法:保健系大学生917人を無作為に3群に振り分け,健康教育関連シンポジウムの異なる3種類のチラシをメールで送信し,参加意欲を調査した.対照群のチラシは従来型のチラシをもとに詳細な情報を記載し,簡素化ナッジ群は文字数を73%削減した.EASTナッジ群はナッジの枠組みEAST(簡素化,印象的,社会的,タイムリー)に沿って,4コマ漫画や主催者の似顔絵等を記載した.結果:対照群70人,簡素化ナッジ群67人,EASTナッジ群71人(有効回答率29.1%)を解析対象とした.「参加したいが日程が合わない」「参加する」と回答した者は,対照群,簡素化ナッジ群,EASTナッジ群の順に,30.0%,40.3%,47.9%で,対照群よりEASTナッジ群が有意に高かった.チラシの感想では,対照群は「読みやすい」「すぐに読みたくなった」で他の2群より有意に低く,「不快に感じる」は簡素化ナッジ群より有意に高かった.結論:既存型のチラシは情報量の多さが参加意欲の阻害要因であり,「阻害要因の除去としての簡素化ナッジ」と「促進要因としてのタイムリーナッジ」を設計することで意欲が向上することが示唆された.本研究は実際の参加者数をアウトカムにしなかったこと等の限界があり,さらなる検証が求められる.
著者
竹林 正樹 甲斐 裕子 江口 泰正 西村 司 山口 大輔 福田 洋
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.73-78, 2022-02-28 (Released:2022-04-16)
参考文献数
22

目的:第29回日本健康教育学会学術大会シンポジウム「わかっていてもなかなか実践しない相手をどう動かす? —身体活動促進へのナッジ—」における発表と討議の内容をまとめることで,今後の身体活動・運動促進支援に資することを目的とする.現状と課題:心理・社会的特性に沿った行動促進手法の1つに「ナッジ」がある.ナッジでの身体活動・運動促進に関する先行研究では,「プロンプティング(例:階段をピアノの鍵盤模様にし,利用時に音が鳴る)」に一定の効果がある可能性が示唆されている.しかし,日本では,ナッジによる身体活動・運動促進に関する先行研究が少なく,特に行動継続に関する見解が十分とは言えない状況にある.知見と実践事例:身体活動・運動促進には,ナッジの枠組みである「FEAST(Fun: 楽しく,Easy: 簡単に,Attractive: 印象的に,Social: 社会的に,Timely: タイムリーに)」とヘルスリテラシー向上を組み合わせた介入が効果的と考えられる.この実践例に,青森県立中央病院が実施する「メディコ・トリム」事業がある.この事業では「笑い」を取り入れた健康教室を行った後,参加者が生活習慣改善を継続した可能性が示唆された.さらなる研究・実践を蓄積していくことにより,継続性のある身体活動・運動促進に関する方略の確立が求められる.
著者
竹林 正樹 後藤 励
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.68-74, 2023-05-31 (Released:2023-06-22)
参考文献数
38

本稿は,健康支援関係者に向け,行動経済学やナッジの原理を概説することを目的とする.経済学は,人・物・金といった限られたリソースをどのように配分すると満足度を高めることができるのかを分析する学問である.伝統的経済学では,目的達成のために手立てを整えてベストを尽くす「合理的経済人」をモデルとする.行動経済学は,健康の大切さを頭でわかっていても認知バイアスの影響で望ましい行動ができないような「ヒューマン」を対象とする.ナッジは行動経済学から派生した行動促進手法で,認知バイアスの特性に沿ってヒューマンを望ましい行動へと促す設計である.ナッジが行動を後押しできるのは,認知バイアスには一定の系統性があり,ヒューマンの反応が一定の確率で予測できるからである.ナッジは他の介入に比べて費用対効果が高く,ナッジの中でも「デフォルト変更」に高い効果が報告されている.一方で,ナッジは行動変容を継続させるほどの効果は期待できないことや,日本での研究が少ないことといった限界がある.ナッジはヒューマンの自動システムに働きかける介入であり,倫理的配慮が求められる.介入設計に当たってはスラッジ(選択的アーキテクチャーの要素のうち,選択をする当人の利益を得にくくする摩擦や障害を含む全ての要素)になる可能性がないかを入念に検討する必要がある.
著者
松村 亜矢子 石井 成郎 尾方 寿好 鈴木 裕利 竹林 正樹
出版者
日本健康支援学会
雑誌
健康支援 (ISSN:13450174)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.191-198, 2022-09-01 (Released:2022-12-13)
参考文献数
26

BACKGROUND:Enjoyment, realization of benefi ts, and interaction with peers are important factors in continuing exercise. Although rhythm synchro exercise is designed to incorporate nudges into the program to elicit enjoyment, the enjoyment felt by participants in response to the rhythm synchro exercise program and the effects of implementing the program have not been verifi ed. OBJECTIVE:This study aimed to subjective changes felt by participants of performing rhythm synchro exercise and the factors that promote enjoyment. METHODS:Thirteen elderly people, who participated in a rhythm synchro exercise class for three months, were interviewed individually to determine the factors promoting enjoyment and subjective changes through the class. RESULTS:A categorical analysis of the interview content showed that enjoyment was promoted by four factors: program component, psychological factors, social factors, and environmental factors. Subjective changes were summarized by six factors: psychological changes, physical changes, environmental adaptation, social changes, cognitive changes, and changes in daily life. CONCLUSION:The results suggested that rhythm synchro exercise incorporating nudges may be a program with respect to fun and exercise continuation.
著者
竹林 正樹 吉池 信男 竹林 紅
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.173-181, 2021-05-31 (Released:2021-06-16)
参考文献数
20

目的:ナッジのEASTフレームワークに沿って構築した職域用体重測定促進介入のプロセス評価と報告事業内容:働く世代の肥満予防策として,3つの体重測定促進介入を構築した.全群にEasy型ナッジを採用の上,クイズ群(Attractive型),宣言群(Social型),成功回顧群(Timely型)を設計した.青森県職員(応募要件:体重測定頻度が週1回未満)を対象に1時間の集合型研修会を開催し,実施者の実施意欲と負担感,参加者満足,人件費を含む実施コストについて,インタビューと質問紙調査によるプロセス評価を行った.事業評価:研修会の実施には職員4人が携わり(解析対象者3人),参加者は83人(解析対象者78人)だった.実施者の研修前の実施意欲はクイズ群,宣言群,成功回顧群の順に高かった.実施コストは成功回顧群(263~291千円),クイズ群(207~235千円),宣言群(179~207千円)で,実施負担感もこの順だった.参加者満足はクイズ群(92.6%),成功回顧群(88.5%),宣言群(64.0%)(P=0.016)の順だった.課題:クイズ群は実施者,参加者双方の評価が高く,最も普及可能性があると推測された.人件費を含む実施コストは,事前予想した額に比べ,実際に要した額は2倍以上であった.また,実施者のナッジ普及フェーズが習得期から実践期へ変化したことが観察された.
著者
森 美奈子 上村 浩 竹林 正樹
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.146-153, 2022-05-31 (Released:2022-06-10)
参考文献数
25

目的:ナッジが設計された社員食堂での健康メニュー選択促進の実践と利用者の状況等の報告を目的とした.活動内容:特定非営利活動法人TABLE FOR TWO Internationalと契約した社員食堂では,ナッジのEASTフレームワークに則って健康メニュー選択を促進している.Easyナッジとして,手に取りやすい場所に健康メニューを配置し,健康メニューを選ぶと20円が自動的に寄付できる仕組みとした.Attractiveナッジとして,手書きポップで健康メニューを強調し,支援を受けた子どもの笑顔の写真を掲示した.Socialナッジとして,開発途上国の学校給食への寄付数を,Timelyナッジとして,今すぐに援助を要する子どもがいることを掲示した.活動評価:参加群(当該社員食堂利用者)100名に質問紙調査を,未参加群(当該社員食堂を利用したことのない労働者)70名にウェブ調査を実施した.参加群(解析対象者47名)は,未参加群(同70名)より社会貢献活動と健康メニューの両方に興味がある者が多く,ボランティア活動の参加経験率も高かった(いずれもP<0.001).参加群の利用期間は平均29.3か月,今後も継続利用したい者が71.0%だった.これらのナッジは,既存のナッジの弱点である「短期的効果」を克服できる可能性が示唆された.今後の課題:本実践では各群で調査法が異なったこと等の限界があるため,今後は同一企業の社員を対象に条件を揃えて検証する必要がある.
著者
竹林 正樹 藤田 誠一 吉池 信男
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.28-37, 2018-02-28 (Released:2018-02-28)
参考文献数
25

目的:小児肥満が深刻な青森県下北地域において,下北ブランド研究所では,母親と子が健康意識を大きく変えなくても小児肥満を予防できる食環境の整備を目的とした健康中食のマーケティングを実施した.本稿ではPDCAサイクルを用いた評価内容を示した.事業/活動内容(PLAN・DO):保育園保護者へのインタビュー(n=11)や質問紙調査(n=441)等から,当地域では親子向け健康中食の市場創出機会ありと判断した(推定市場規模6,200万円).ターゲットを「中食の摂取頻度が高く,子にヘルシー中食を食べさせたいと考える母親」,ポジショニングを「親しみ」と「手軽さ」と設定した.保育園給食メニューを中心に5品を発売した.事業/活動評価(CHECK):業者は健康中食を安定的に製造せず,ターゲット層の利用は推定市場規模の0.1%で,当地域での小児肥満予防に与える影響は極めて限定的であったと推測された.消費者ニーズがあったにもかかわらず業者を製造へと動かせなかった原因を「業者の心理を十分考慮しないまま戦略設計し,業者に事業の魅力が伝わらなかったため」と分析した.今後の課題(ACT):改善策として,業者と消費者が直接対話できる場を設定した.この策はナッジ(強制を伴わずに行動を促す仕組みやシグナル)によるものであり,業者は健康中食への愛着が高まり,製造へと一歩踏み出すことが期待される.
著者
後藤 理絵 竹林 正樹 関根 千佳 福田 洋
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.294-301, 2022-11-30 (Released:2022-12-26)
参考文献数
24

目的:20~40歳代の労働者向け口腔健康行動促進冊子作成のプロセス評価を行うこと.事業内容:20~40歳代労働者を対象に,ナッジを設計した口腔健康行動促進の漫画冊子を作成した.プロセス評価として作成担当者の意識の変化と作成コスト,読者の満足度等を調べた.作成担当者の意識はインタビュー,作成コストは実績から把握し,満足度等はナッジ群(ナッジ型漫画冊子を配布)と対照群(情報提供型冊子を配布)に無作為に割り付けた上でウェブ調査を行った.事業評価:作成後に担当者の意識向上が見られ,作成コストは約88万円だった.読者による冊子の印象(解析対象:ナッジ群119人,対照群120人)は,表紙は「面白そう」(ナッジ群,対照群の順に48.7%, 25.8%),「読みやすそう」(79.0%, 48.3%),「イラストが良い」(57.1%, 28.3%),「情報量が多い」(26.9%, 59.2%),「読むのが不快」(7.6%, 18.3%)で,いずれもナッジ群は有意に評価が高かった.表紙と本編の印象が一致する傾向の項目も見られた.歯周病の知識は,ナッジ群のみ有意に増加した.以上から,ナッジ型漫画冊子は読者の評価が高く,知識向上に役立ち,特に表紙のナッジが重要と示唆された.結論:ナッジ型冊子は,総じて好印象であり,有意な知識向上につながった.ただし,回答に応じて付与された経済的インセンティブが結果に影響した可能性がある.今後は経済的インセンティブのない条件で調査を行う必要がある.
著者
竹林 正樹 吉池 信男 竹林 紅
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.173-181, 2021

<p>目的:ナッジのEASTフレームワークに沿って構築した職域用体重測定促進介入のプロセス評価と報告</p><p>事業内容:働く世代の肥満予防策として,3つの体重測定促進介入を構築した.全群にEasy型ナッジを採用の上,クイズ群(Attractive型),宣言群(Social型),成功回顧群(Timely型)を設計した.青森県職員(応募要件:体重測定頻度が週1回未満)を対象に1時間の集合型研修会を開催し,実施者の実施意欲と負担感,参加者満足,人件費を含む実施コストについて,インタビューと質問紙調査によるプロセス評価を行った.</p><p>事業評価:研修会の実施には職員4人が携わり(解析対象者3人),参加者は83人(解析対象者78人)だった.実施者の研修前の実施意欲はクイズ群,宣言群,成功回顧群の順に高かった.実施コストは成功回顧群(263~291千円),クイズ群(207~235千円),宣言群(179~207千円)で,実施負担感もこの順だった.参加者満足はクイズ群(92.6%),成功回顧群(88.5%),宣言群(64.0%)(<i>P</i>=0.016)の順だった.</p><p>課題:クイズ群は実施者,参加者双方の評価が高く,最も普及可能性があると推測された.人件費を含む実施コストは,事前予想した額に比べ,実際に要した額は2倍以上であった.また,実施者のナッジ普及フェーズが習得期から実践期へ変化したことが観察された.</p>
著者
竹林 正樹 吉池 信男 小山 達也 鳥谷部 牧子 阿部 久美 中村 広美 平 紅
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.11, no.Special_issue, pp.S9-S12, 2018 (Released:2019-04-10)
参考文献数
7

【目的】シンプルな肥満予防介入として体重測定促進研修会を実施し,週1回以上の体重測定習慣化について比較検証することを目的とした.【介入・解析】青森県出先機関職員向け研修会の応募者(適格条件:体重測定頻度が週1回未満)から3人単位のクラスターを作成し,乱数表で無作為にクイズ群,行動宣言群,成功回顧群の3群に割り付け,RCT(1時間の研修会および一斉メールによる介入)を行った.また,別地域の職員を参照群に設定し,6か月後の体重測定行動を並行群間比較した.【結果・考察】クイズ群20人,行動宣言群22人,成功回顧群22人,参照群44人を解析した結果,介入3群全体で6月後体重測定者は44%(参照群2%,p<.001)であった.中でも成功回顧群は59%と最も高い効果がみられた.ただし,本研究にはサンプルサイズ等に関する限界がある.