著者
野村 周平
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.14-26, 2018-03-05 (Released:2019-10-08)
参考文献数
5

我が国における昆虫学の状況の中で,昆虫形態学は体系学または系統学の中での存在感を失ってきたように見える.しかし一方で,昆虫形態を詳細に観察し,記録し,検討することのできるツールは着実に進化している.マイクロフォーカスX線CT(通称マイクロCT)は,昆虫の微細な内部形態を非破壊的に観察し,記録することのできる革新的な技術である.例えば,カブトムシの飛翔筋,セミの♂の発音器や♀の卵巣,また虫入りコハク中の昆虫化石までも,その形態を詳細に観察,記録することができる.昆虫の表面微細構造を観察する方法としては,走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope: SEM)がすでに普及している.しかし近年,乾燥試料ではなく,新鮮な(水分を多く含んだ),あるいは生きている試料さえSEM観察することのできるナノスーツ法®や,100,000倍以上のSEM観察を可能にする電界放出型SEM(FE-SEM)が登場してきた.これらはこれまで十分に研究されていない昆虫のサブセルラー(細胞未満の)構造をより自然な状態で観察することのできる強力なツールである.このような方法によって記録された昆虫内部の,または表面の微細構造の画像は,昆虫研究者ばかりでなく,昆虫の構造をヒントに新たな工学技術を開発しようとするバイオミメティクス(生物模倣技術または生物規範工学)の研究者にとっても極めて有益である.科学分野間の言葉の壁を超えて,このような昆虫の微細形態画像をきわめて簡便に比較解析するツールとして,「画像検索システム」が開発されつつある.これらの新しい技術を開発し,活用することによって昆虫形態学は,昆虫の進化をさらに研究し,よりよく理解する新たな時代の,大きな潮流となる可能性がある.

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