著者
向井 伸哉
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.127, no.10, pp.1-30, 2018 (Released:2019-10-20)

本稿は、南仏ラングドック地方の中央に位置するベジエ市とその南九キロメートルに位置するヴァンドレス村を対象に、十四世紀後半の都市文書と村落文書を組み合わせ、都市=農村関係の政治的側面について解明を行う。 十四世紀後半、ベジエのエリート(都市自治体の役職経験者)は、①ベジエの国王役人、②一時的な司法的・行政的任務の遂行者、③国王税・地方税の徴税人、④ベジエのコンシュル(執政官=自治体代表)、⑤金貸し、村の所得税収・資産税収ならびに農作物の購入者、⑥個人的協力者・助言者、⑦自治体弁護士など、様々な資格・役割で村落共同体の前に現れる。 ①②の資格では村に対して司法・行政上の決定権を行使し、③⑤の資格では村に対して財政上の決定権や影響力を行使しつつ、金銭的援助や営利目的の投資を行い、④の資格ではヴァンドレスのコンシュルにある時は対等な関係で助力を与え、ある時は上位の立場からこれを指導し、⑥⑦の資格ではヴァンドレスのコンシュルに様々な助言・助力を与えた。職業の観点からすると、①②には大土地所有者と法曹、③⑤には実業家(商工業)が多く、⑦は法曹が占めている。 彼ら都市エリートは、ヴァンドレスのエリートに対して、経済的、学識的、政治的資本の所有という点で圧倒的優位に立っており、これらの資本を利用しながら、村を時に支配し、時に保護した。 十四世紀後半の過酷な戦争環境を生き延びる上で、たしかに村は外部からの軍事的保護を頼りにせず自衛機能を強化した。しかしながら、軍事以外の分野では卓越した経済的・学識的・政治的資本を有する都市エリートの保護を必要とした。領主制から王朝国家へと統治レジームが移行する一方で、戦争による治安悪化が常態化し外部権力からの軍事的保護が無効になった中世後期南フランスにおいて、村落の保護者の役割は、もはや領主ではなく、いまだ君主でもなく、他ならぬ地域首府の都市エリートによって担われたのだ。

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向井伸哉「中世後期南フランスにおける都市と農村の政治的関係:ベジエの都市エリートとヴァンドレスの村落共同体 (一三五〇―一四〇〇)」(『史学雑誌』127-10、2018) https://t.co/EXV0ufApkR

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