- 著者
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山中 弘
- 出版者
- 観光学術学会
- 雑誌
- 観光学評論 (ISSN:21876649)
- 巻号頁・発行日
- vol.4, no.2, pp.149-159, 2016 (Released:2020-01-13)
聖地を訪れることが流行している。この流行は宗教の復興と見るよりも、宗教ツーリズムの流行と理解すべきだろう。なぜ、今日、宗教がツーリズムの資源として積極的に評価されるようになったのだろうか。この問題を考える手がかりは、ツーリズムそのものよりも、後期近代における宗教の変化の中にあるように思われる。本稿の目的は、「長崎の教会群」の世界遺産化に伴う巡礼の商品化の展開の事例を通じて、マクロな宗教社会学的視点から聖地や巡礼の観光資源化、商品化が意味しているものを、後期近代における現代宗教の特質との関連で検討することにある。以下、本稿ではまず、日本における宗教の観光資源化の動向に触れながら、「長崎の教会群」の世界遺産化に伴う巡礼の観光商品化の展開について具体的に紹介する。次いで、こうした事態の意味を理解するために、従来の聖地研究や宗教社会学の理論の若干の検討を行い、「マーケット・モデル」の重要性を指摘する。さらに、S. バウマンを参照して私が「軽い宗教」と呼んでいる現代宗教のいくつかの特質を論じ、最後に、これらの宗教の特質が宗教ツーリズムの流行と深く関わっていることを示唆したいと考えている。