著者
フンク カロリン
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.213-230, 2000-10-28

観光地理学の主たる関心は,観光行動が地域間の均等な発展にどう影響するかという疑問に集中してきた。伝統的には観光は中心地域から周辺地域への動きであり,周辺地域の発展に貢献するとされていたが,近年,観光行動が多様化かつ個性化したなかでは,地域への影響を評価することが困難となった。現代社会における観光行動の多様化の傾向と,各地域の社会的・文化的な条件が山間地域にそれぞれ異なった発展の可能性と限界をもたらすからである。本稿では,日本における山間地域の観光開発の条件を観光客の行動の視点から分析する。背景として全国の観光客動態と観光に影響する社会的要素にふれた後に,ローカルレベルで観光客のタイム・バジェット調査を行った。調査地として兵庫県の神鍋高原,愛媛県の久万高原を選択した。 調査の結果,旅行期間の短さが最も観光客の行動を制限する要因として明らかになった。その一方で,多様化をもたらす要因もいくつか見出された。年齢,同行者との関係,そして子供の有無が活動内容と宿泊施設の選択を決めている。子供のいる家庭は自然を対象に活動を行っているが,時期的に夏休みに限られている。若者はスポーツに興味を持っており,整備が進んだ施設を要望している。観光客の活動が史跡観賞などの伝統的な観光よりも,レジャーに近いように思われる。また,山間地域をスポーツやグルメなど,一つの明確な目的でたずねる客が多い。このような多様化に対応し,様々な小規模な宿泊施設,レジャー施設を整備することが山間地域リゾートの成功を決めるといえよう。観光を中心にした地域発展の可能性と限界を決める要因のなか,世界的な観光行動の変化に相当するものも,日本に特殊な条件からなっていることも分析で明らかになった。

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