著者
フンク カロリン
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100065, 2014 (Released:2014-03-31)

観光者が様々な観光形態を求めることになり、「新しい観光」と言われる現象を生み出している。その中でアート・ツーリズムが今後の経済活動に重要な役割を果たすとされている創造的階層の旅行形態として(竹田・陳2012:78)、または地域住民の積極的な関わりを可能とする地域活性化手段として(Klien 2010: 519)期待されている。 現在日本で最もアート・ツーリズムの取り組みとして注目を浴びているのは香川県直島町とその周辺で開かれる瀬戸内国際芸術祭である。そこで本研究は直島におけるアート・ツーリズムに注目し、観光者と観光産業関係者の特徴と彼らが抱く直島に対する考えを調べる。また、訪れている観光者は、普段どの程度アートに関心を持っているのか、一般観光者層と異なるのか、アート・ツーリズムは観光産業にどのような効果をもたらしたのか明らかにする。   2.研究対象と方法 直島町は1917年に三菱鉱業(現在の三菱マテリアル)の精錬所を誘致し、鉱業の島として繁栄してきたが、銅市場の変化も影響し、精錬場の労働者数とともに直島の人口も1970年代から減少しはじめた。1970年から教育文化施設を島の中心部に集め、「文化ゾーン」を作り出した。1985年、当時の町長と当時の福武書店(現在ベネッセ・コーポレーション)社長の合意に基づいて、島の南部エリアを中心に総合的な観光開発が始まった。直島国際キャンプ場、ホテルと美術館を合体したベネッセハウス、本村地区で展開された家プロジェクト、地中美術館、犬島アートプロジェクトなど、アートを用いて25年をかけた文化・リゾートエリアが直島に誕生し、プロジェクトはその周辺の島にも広がった。その結果、島は現在、北部の産業エリア、中心部の生活・教育エリア、南部の文化・リゾートエリアに別れている。 現地調査は2012年11月24-25日に観光者、観光産業施設、住民という3つのグループを対象にアンケートを実施した。回答者数は観光者255人、観光産業施設40ヶ所、住民34人であったが、この報告では観光者と観光産業のみ取り上げる。   3.調査結果 アンケート調査で把握した限り、直島を訪れる観光者は旅行全体や普段の生活でもアートに強い関心を持つ人、アートとともに自然を楽しむ人、訪れた相手とゆっくり島を歩き回りたい人など様々であり、性別や年齢層による差もみられる。したがって他の観光地とは全く異なる客層を引きつけているというよりは、客層が拡大し、多様化しているといえよう。 観光産業については地中美術館の開館とそれに伴う観光者数の増加が影響し、2004年以降に島外からの若い人々が移住し、観光産業、特に宿泊施設に取り組む傾向が強まった。しかし、観光者向けのサービス、特に外国人旅行者に対する情報提供などはまだ限られている。外国人の増加に対してもそれほど積極的ではない観光産業従事者が多く、国際観光地としての成長はこれからの課題である。施設管理、サービス、値段がともに高水準であるベネッセの施設に比べると、その他の観光産業は小規模で、個人的で、施設の水準があまり高くなく、そのギャップは大きい。また、彼等はアートに強い関心を持つ、または積極的にアートプロジェクトに関わるようなことがあまりなく、「アート」に対する思いよりも、「島」へのこだわりや、自立して事業を行いたい志向が強いようにみえる。観光産業の成長はアート・ツーリズムの魅力の効果というよりも、アート・ツーリズムを通じて観光地として成功した効果によるところが強いといえる。 Klien, S. (2010): Contemporary art and regional revitalisation: selected artworks in the Echigo-Tsumari Art Triennial 2000–6. Japan Forum 22/3-4, 513–543 竹田茂生,陳那森 (2012) :観光アートの現状と展望. 関西国際大学紀要, 13, 77-90
著者
由井 義通 フンク カロリン 川田 力
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.46-56, 2007-03-15 (Released:2020-03-11)
参考文献数
12

Im Rahmen der Diskussion um eine bürgernahe Stadtentwicklung wird im Japanischen häufig das Wort machizukuri verwendet. Wörtlich bedeutet es, eine Stadt/ eine Stadtteil/ eine Nachbarschaft zu kreieren, herzustellen. Es umfasst sowohl städtebauliche Maßnahmen für eine hohe Wohnqualität und ein attraktives Stadtbild als auch soziale Bereiche wie Kommunikation und Kooperation innerhalb der Nachbarschaft sowie zwischen Bürgern und Verwaltung. In diesem Beitrag werden Beispiele aus den deutschen Städten Freiburg, Heidelberg und Berlin vorgestellt, wo Bürger bereits im Planungsstadium an Stadtentwicklungsprojekten beteiligt werden oder sich in Form eines Quartiersmanagements in der Verbesserung des Wohnumfeldes engagieren. An hand dieser Beispiele werden Probleme und Möglichkeiten aktiven Bürgerengagements in der Stadtentwicklung analysiert, um daraus Hinweise für die zukünftige Gestaltung der Stadtentwicklung in Japan zu gewinnen.
著者
フンク カロリン
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

観光者が様々な観光形態を求めることになり、「新しい観光」と言われる現象を生み出している。その中でアート・ツーリズムが今後の経済活動に重要な役割を果たすとされている創造的階層の旅行形態として(竹田・陳2012:78)、または地域住民の積極的な関わりを可能とする地域活性化手段として(Klien 2010: 519)期待されている。 現在日本で最もアート・ツーリズムの取り組みとして注目を浴びているのは香川県直島町とその周辺で開かれる瀬戸内国際芸術祭である。そこで本研究は直島におけるアート・ツーリズムに注目し、観光者と観光産業関係者の特徴と彼らが抱く直島に対する考えを調べる。また、訪れている観光者は、普段どの程度アートに関心を持っているのか、一般観光者層と異なるのか、アート・ツーリズムは観光産業にどのような効果をもたらしたのか明らかにする。   2.研究対象と方法 直島町は1917年に三菱鉱業(現在の三菱マテリアル)の精錬所を誘致し、鉱業の島として繁栄してきたが、銅市場の変化も影響し、精錬場の労働者数とともに直島の人口も1970年代から減少しはじめた。1970年から教育文化施設を島の中心部に集め、「文化ゾーン」を作り出した。1985年、当時の町長と当時の福武書店(現在ベネッセ・コーポレーション)社長の合意に基づいて、島の南部エリアを中心に総合的な観光開発が始まった。直島国際キャンプ場、ホテルと美術館を合体したベネッセハウス、本村地区で展開された家プロジェクト、地中美術館、犬島アートプロジェクトなど、アートを用いて25年をかけた文化・リゾートエリアが直島に誕生し、プロジェクトはその周辺の島にも広がった。その結果、島は現在、北部の産業エリア、中心部の生活・教育エリア、南部の文化・リゾートエリアに別れている。 現地調査は2012年11月24-25日に観光者、観光産業施設、住民という3つのグループを対象にアンケートを実施した。回答者数は観光者255人、観光産業施設40ヶ所、住民34人であったが、この報告では観光者と観光産業のみ取り上げる。   3.調査結果 アンケート調査で把握した限り、直島を訪れる観光者は旅行全体や普段の生活でもアートに強い関心を持つ人、アートとともに自然を楽しむ人、訪れた相手とゆっくり島を歩き回りたい人など様々であり、性別や年齢層による差もみられる。したがって他の観光地とは全く異なる客層を引きつけているというよりは、客層が拡大し、多様化しているといえよう。 観光産業については地中美術館の開館とそれに伴う観光者数の増加が影響し、2004年以降に島外からの若い人々が移住し、観光産業、特に宿泊施設に取り組む傾向が強まった。しかし、観光者向けのサービス、特に外国人旅行者に対する情報提供などはまだ限られている。外国人の増加に対してもそれほど積極的ではない観光産業従事者が多く、国際観光地としての成長はこれからの課題である。施設管理、サービス、値段がともに高水準であるベネッセの施設に比べると、その他の観光産業は小規模で、個人的で、施設の水準があまり高くなく、そのギャップは大きい。また、彼等はアートに強い関心を持つ、または積極的にアートプロジェクトに関わるようなことがあまりなく、「アート」に対する思いよりも、「島」へのこだわりや、自立して事業を行いたい志向が強いようにみえる。観光産業の成長はアート・ツーリズムの魅力の効果というよりも、アート・ツーリズムを通じて観光地として成功した効果によるところが強いといえる。 Klien, S. (2010): Contemporary art and regional revitalisation: selected artworks in the Echigo-Tsumari Art Triennial 2000–6. Japan Forum 22/3-4, 513–543 竹田茂生,陳那森 (2012) :観光アートの現状と展望. 関西国際大学紀要, 13, 77-90
著者
フンク カロリン
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.213-230, 2000-10-28

観光地理学の主たる関心は,観光行動が地域間の均等な発展にどう影響するかという疑問に集中してきた。伝統的には観光は中心地域から周辺地域への動きであり,周辺地域の発展に貢献するとされていたが,近年,観光行動が多様化かつ個性化したなかでは,地域への影響を評価することが困難となった。現代社会における観光行動の多様化の傾向と,各地域の社会的・文化的な条件が山間地域にそれぞれ異なった発展の可能性と限界をもたらすからである。本稿では,日本における山間地域の観光開発の条件を観光客の行動の視点から分析する。背景として全国の観光客動態と観光に影響する社会的要素にふれた後に,ローカルレベルで観光客のタイム・バジェット調査を行った。調査地として兵庫県の神鍋高原,愛媛県の久万高原を選択した。 調査の結果,旅行期間の短さが最も観光客の行動を制限する要因として明らかになった。その一方で,多様化をもたらす要因もいくつか見出された。年齢,同行者との関係,そして子供の有無が活動内容と宿泊施設の選択を決めている。子供のいる家庭は自然を対象に活動を行っているが,時期的に夏休みに限られている。若者はスポーツに興味を持っており,整備が進んだ施設を要望している。観光客の活動が史跡観賞などの伝統的な観光よりも,レジャーに近いように思われる。また,山間地域をスポーツやグルメなど,一つの明確な目的でたずねる客が多い。このような多様化に対応し,様々な小規模な宿泊施設,レジャー施設を整備することが山間地域リゾートの成功を決めるといえよう。観光を中心にした地域発展の可能性と限界を決める要因のなか,世界的な観光行動の変化に相当するものも,日本に特殊な条件からなっていることも分析で明らかになった。
著者
狩野 充徳 岸田 裕之 勝部 眞人 妹尾 好信 高永 茂 伊藤 奈保子 本多 博之 西別府 元日 中山 富廣 有元 伸子 竹広 文明 古瀬 清秀 フンク カロリン 三浦 正幸 久保田 啓一 野島 永 瀬崎 圭二
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

多くの伝承・伝説に包まれた世界遺産・厳島は、人間社会の傍らで、人びとの暮らしとともにあった。無文字時代には、原始的宗教の雰囲気を漂わせながら、サヌカイト・安山岩交易の舞台として。有史以後には、佐伯景弘らの創造した伝説を原点に、中世では信仰と瀬戸内海交通・交易の拠点として、近世では信仰と遊興の町として、近代では軍事施設をもつ信仰と観光の町としてあった。そして、それぞれの時代に、多くの伝承・伝説が再生産されていったのである。