著者
田渕 六郎
出版者
首都大学東京
雑誌
人文学報. 社会福祉学 (ISSN:03868729)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.69-108, 1998-03-25

ェスニシティはいかにして家族構造ないしは家族行動の説明要因として用いうるのだろうか。これが本稿が考察する問題である。家族・親族関連行動においてエスニシティによる差異が存在することは既に多くの研究の中で論じられてきた。本報告では、主として家族構造(中でも特に拡大世帯形成行動)とエスニシティとの関係に焦点をあてて、まずそれに関する先行研究を概観する。次いでそれら諸研究のなかでエスニシティがいかにして「説明変数」として用いられているかを確認し、それらの問題点を指摘するなかで、説明要因としてのエスニシティの理論的位置づけを論じる。本稿は家族に関連する行動のなかでも限られた部分のみを直接的な検討対象にするに過ぎないとはいえ、今後の様々な関連分野の実証研究に対しても理論上の示唆を投げかけるものとなろう。本稿の主要な主張は以下のように要約できる。エスニシティは、従来の当該分野の研究においては、特にミクロデータの分析の中で、収入階級、ジェンダーその他の要因を統制した効果である世帯拡大の性向として分析的に抽出され、当該エスニシティ集団に固有の「文化的」性向として理解されてきた。だが、そのような扱いは、エスニシティという説明変数の意味を素朴に「前提」し、それを一種の「残余カテゴリー」として扱う限りで、エスニシティという変数を用いた説明の理論化を放棄するものである。そのような説明に対抗して導入された「経済的説明」は、世帯拡大を貧困へ適応するための村処行動として位置づけ、エスニシティ集団間の差異を社会経済的構造における差異として理解する視座を開いた点で一定の意義を持ったが、理論的な問題を含んでいた。今後の当該分野における研究課題は、エスニック集団が(拡大世帯を形成する)「文化」を持つという前提に立たず、当事者の言説や日常経験に関するエスノグラフィックな記述的研究の伝統に立ち戻ることによって、エスニック集団間における諸属性の差異という現象がどのような具体的過程を通じて生じてくるのかということを、様々なエスニック集団について明らかにしていくことを通じて、説明変数としてのエスニシティ概念を洗練していくことであろうと思われる。

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田渕六郎(1998)「家族構造とエスニシティ:拡大世帯形成を中心に」(人文学報 社会福祉学 14) - CiNii 論文 http://t.co/NiKvsmutZT

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